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学校断頭  作者: 浪速
23/36

十二月二十四日 金曜日 午後三時四十二分 始まる一時

 咲羅は我に返った。


 いや、我を忘れてはいなかった。

 単純なパニックに陥ってしまっただけだった。美穂が人狼の餌食になっている光景に。


 だけど、人狼が電池切れの時計のように停止した事でパニックから解放され、美穂の手当てをリサと共に迅速に出来た。もう少しで内臓が食い破られるとこだったが、リサの背中の大怪我を覆うドロッとした謎の物質――「ブラッディアウト」後、怪我を負った時にいつの間にかついていた――のおかげでかなり深い傷口を塞ぐ事が出来た。そのドロッとした物質にどんな効果があるのかはわからないが、ガーゼを当てたり、縫合したりするよりはずっとよくて効果絶大な治療方法だった。手術室が必要な美穂の傷も治してくれるに違いない。


 人狼が動かなくなった事に不気味さを覚えた。生きて人間を殺そうとしていた人狼が脈も呼吸もなくなって蝋人形のようにその瞬間の動作のまま固まっている。

 人狼が止まらなければこちらが全滅していたはずだ。美穂が人狼に殺されかけた事に咲羅は動揺して、それが全体に伝わってしまったのだろう。まるで指揮官を失ったような軍隊だった。


 ――指揮官!?


 咲羅は周囲を見渡した。


 リサ、美穂、坂ちゃんに上ちゃん――――つぐみがいない!



 世界が違って見えた。

 最初に屠殺を知った日に、何が悪で何が善なのか理解出来なくなった。何が道徳で何が背徳なのか理解出来なくなった。いや、もっと前からかもしれない。


 この殺しはいい事? この殺しは悪い事? ペットを殺す事は悪い事、家畜を殺す事はいい事。どこが違うの?


 高校の授業を受けるたびに何度思った事だろう。人間が養豚や養鶏と同等の扱いを受けたら? 考えるのも間違ってるのかもしれない。いや、そんな考えすら馬鹿馬鹿しいのだろう。

 人間はたった一種で生命を殺しすぎてる。そして、自然界を汚してる。人間こそ不必要な存在のはずだ。


 それに今度はまったく別の感情を引き連れてきた。


 その感情は今まで誰にも教えられなかったし、自分の奥底の開かない扉の奥に眠っていた。それに、人間が本来持っていない……いや、持っていたが文明の発達と共に封じられたと言っても過言ではない。一部の人間が持っているおぞましく、特殊で異端、残忍な感情だ。それは誰にも伝わらない個人の問題。誰にも渡せないし、なくせない感情。


 たった一日。数時間の事だったのに、思い出すと何年間分に思える。


 感情の均衡を保てなくなり、崩れた。善悪がわからなくなった。あの事だけの所為じゃない。だけど、あれが五割を占めていたって言っても可笑しくない。

 自分の感情についていけなくなり、家庭内が軋み始め、私の嗜好は変わり始め、緩やかな反抗期とも言えるかもしれない。私が今までの自分と違っていくのはわかった。自分ひとり、学校、家庭、そのすべてで自分はバラバラだった。


 そのバラバラが求めた部分は非日常だ。


 今始めて壊れた部分を完全に理解した。人間として大事な部分だ。良心とも言えるかもしれない。

 誰かになる。自分の壊れた部分を誰かとして補っていた。誰かの心が壊れただけだと思い込んだ。


 それが「ソラ」だった。

 ソラは私が作り上げた架空の人物だ。もともとは昔の書いた小説をもとに作った小説の主人公だったが、いつの間にかあまりも自分の思いを注ぎ込んでいた。ソラを想像力でまったく別の希望としてを描いた。彼女が未来で希望だった。だから、現在を見ていなくて、過去にしか目を向けれない。私の未来も現在もまったく別のものだったから。

 たけど、彼女には自分がわかっていた。壊れている部分などなかった。それに、言葉で表すには難しいが、私になくてソラにあるものがあった。それが私の壊れた部分を埋めるものだった。

 最初の一時、私は完全にソラになろうとしていた。だけど、それは不可能だし、自分は自分しかいない。そのうちにもう一つの人格のようにソラは存在するようになった。創り上げていた。自分の壊れたところを。そして、居場所とするために。


 でも、壊れた部分は、他者の物だと封じ込める事も、まったく別ものに作り変える事も出来なかった。

 だから、最後には別の人物を創って、同じような壊れた部分を持たせた。そうする事で受け入れやすくなると思ったから。誰もが持つもので日常的なものだと信じたかった。


 でも、やっぱり私はそれをどうしようも出来ないんだ。ただ、忘れて封じ込めたために開いたら爆発した。


 今は私が危険分子だ。

 その感情は、一歩間違えれば、快楽殺人犯の出来上がりだった。




 神経が断ち切られ、再び別の神経と繋ぎ合わせられるように、不完全で不一致。まるで自分の体と精神は切り離されてるみたいに。不登校になったあの時の感覚より強烈で明確な分裂。


 私の意識は宙に浮いているようだった。

 生きてるのも死んでるのも感じない。まるで海の中に漂う海藻のように何がしたいのかわからない。

 ただ、みんなを――みんなに死んでほしくなかった。殺されるのだけは耐えられない。それが自己満足で自分勝手だとしても。


 だけど、その思いとは裏腹に誰も彼もが血まみれで倒れてる。真っ赤な空に真っ赤に塗りたくられた大地、文明の利器は崩壊して散らばってた。


「あ゛あ゛あ゛あぁ゛あ゛あああああぁぁぁぁぁぁ!」


 喉の奥がかすれる。長距離走をした後のように耳が凍って脳みそが揺れて、両耳の奥の鼓膜が破けて液体のようなものが溜まってる気がした。



 叫んでるのが自分だとわかったのは口の中がカラカラになって声がほとんど出なくなったころだ。

 視界に映るものを認識出来たのは数十秒後の事。

 パッチリ開いたヘーゼルの瞳にチョコレート色の髪は一筋だけ金色の雷のように染められている。声は軽く柔らかだが、恐怖で凍り付いてる。咲羅だ。それにもう一つ影がある。黒の癖っ毛に少し太い眉、真っ黒な瞳が心配そうに揺らいでいる。今にも叫びだしそうな唇を震えさせて噛み締めている。こっちは矢坂だ。二つの顔の奥には自転車置き場の屋根が見える。



「起きた……?」


 ボーっとした頭には言葉の意味がわからなかった。

 まだ、戦っていなきゃならないはずなのに、早く動かなきゃ人狼にみんな殺される。私は体を動かそうと腕に力を入れてみたが、腕の重さすら支えられずにパタッと倒れてしまった。


「起きられる?」


 二度目にはやっと言葉の意味を理解した。彼女の眼を見ながら、私はうなずいた。

 太陽は見えないけど、時間はついさっきと変わりない気がする。それとも数日後の同じ時間だろうか? 私以外には何があったんだろう?


 上体を少し起こし、力の戻った肘で体を支えて起き上がろうとすると咲羅が止めた。


「これ、何本に見える?」


 指を三本折り、ピースの状態で手を向けてくる。


「二」


「よし。頭は痛くない? 吐き気は? 視界は?」


 頭を打ったのだろうか。額に手を当ててみると包帯が巻かれている。頭のどこかを強く打ったに違いない。脳内出血だったら大変だ。

 吐き気はしない。頭も痛くない。視界も良好。だけど、心臓辺りを掴まれたように一瞬痛んだ。小学校高学年ごろから今までにも何度かあった。原因はよくわからないけど、特に胸と脇腹辺りが、火掻棒で引っかかれたような握り潰されたような何とも言えない痛みが電気のように走る。たぶん、言葉では表せない。心臓病だったらどうしようかと思ったが、たまにだし、それで倒れた事もないからほっておいた。今もたまたまだ。全身の筋肉が痛まないだけまだマシだ。今度もほうっておく。


「ごめん。起きれる……」


 起き上がったのはよかったが、周りの惨事に吐き気がこみ上げた。内臓ごと出てきそうな強烈な吐き気だ。ペイントボールを満遍なく投げつけ、ペンキをぶちまけ、ホースで絵の具を撒き散らしたような色の血の海。赤ではなかったが、それらが血以外には見えない。においも血のようではなく木片が海に腐食されたようなにおい。人狼の死体はごみのように散らばりうずたかく積もっている。まるで密猟の跡のようだ。一匹残らず始末したように見えたが、そうではなかった。銅像のようにいくつかが固まってる。腕を振り下ろし目の前にいたはずの獲物を引き裂こうとしたままの人狼や飛び掛ろうとしている体勢のまま地面に突っ伏している人狼などなど。毛一本までカチカチに固まっている。

 咲羅と矢坂以外も座ってるかかがんでるかしていた。精神力も体力も相当使い果たしてるに違いない。誰も喜んでいるような表情ではなかった。


「何があったの?」


 咲羅は母のように聞いてくる。私の母でも出さないような優しい声色で。

 でも、私は首を横に振った。言えない、言えるはずがなかった。途端に涙が溢れてきた。これは悲しみではない。怒りと恐怖だ。それをやらせた者への怒り、それをしなければならなかった世の中への怒りと、それによって知る事になるであろう物事への恐怖、それによって変わるであろう自分への恐怖だった。

 誰かに縋って泣きたくなった。とても怖くて、恐ろしくて、寂しくて、すべてを判断出来なくなるかもしれない自分の心がわからない。


「獣は……?」私は咲羅の質問を無視してたずねた。


 止まってるけど、まだたくさんいるはず、獣一匹に銃弾一発でも足りないかもしれない。

 それでもここは安全な場所に感じる。緩やかに時間が流れるような心地よさ。これが望んだ場所ならどれほど心地良いか……。


「停まったわ。どこもかしこも。でも、どうしてかはわからない」


 生き物が停まる? どうして? 心臓が動きを止めただけじゃない。生きているのではなく最初から生き物じゃなかったみたいに静まり返っている。私が気を失ってる間に何があったんだろう?


 枕代わりにしていたコートの向こうにいとこの家から持ってきてずっと使っていた日本刀が置いてあった。鞘には爪痕があり、血糊が染み付いていた。どうして刀を持ってきたのかもわからない。だけど、すべてあのためだとしたら、捨てなきゃならない。刀は人間の失った牙だ。


 私は刀を手に取り、一匹の人狼のほうに歩み寄った。人狼は今にも腕を振り下ろし、大きくあごを開け、咆哮が聞こえてきそうだ。腕に手を伸ばすと毛が針のように肌に食い込む。手のひらは肉球ではなく、ゴリラのような分厚い皮膚で覆われてる。指の一本一本にある爪は医療のメスのように鋭く、血に塗れていて、指との間には肉片が挟まっている。親指の爪だけは短かった。耳はとがり、瞳孔がかなり開いてる。虹彩は琥珀色。ほかの動物と違って、人間のよう目の白い部分がある。首を動かさなくてもあたりが見える人間の目と同じだ。鼻は濡れている。口の周りの毛には茶色くなった血をつけいた。歯はアイボリー色で黄ばんで、鮫の歯とチーターの歯を足したような形をしていた。

 滴っていたはずの唾液は蝋のように固まってる。唇のような肉のひだは黒くて、口内は黒の斑点があるピンク色だ。ひげはかなり短い。鎖骨のある身体は人間の骨組みだけどその上についている肉が違う。全部筋肉。それも鋼のような筋肉で覆われてる。脚は人間らしい長さだが、作りは狼と同じだ。狼爪があり、指は爪で覆われていない。それに舌がなかった。足元に倒れていた人狼には舌がだらりと口の端から垂れているのに、この個体には舌が根元からない。人間は舌がなくちゃしゃべれないけど、動物の場合は鳴き声なのだろうか? 意思疎通をする必要がないのか、舌がなくても生きていけるのかはわからない。物を食べるのにも必要なのに。


 自然界のものだとは思えない。だけど、人工的なものだとも思えない。尻尾もなさそうだし、狼というより類人猿のよう。血の色も赤以外。生きているというより、生命維持活動すらコントロールされているようなロボットに見えてくる。悲しい存在だ。


 それに、それぞれ個体差があった。舌もそうだけど、毛色も違う。基本的には茶褐色だが、茶色のベースに灰色かかった毛色のものまでいる。知能も違うはずだ。真似するように刀を使った人狼もいたし、困惑のような目つき――あれは言葉を理解しようとしてたと思いたい――をした人狼もいた。筋肉のつき方も腕中心のものや足中心のものまで。一匹の人狼の爪にチューインガムのような薄いピンク色の布切れが引っかかっていた。それを見てとっさに思い出し、観察をやめて咲羅のもとまで駆け戻った。


「美穂は?」


 お腹を引き裂かれ、今にも腸がはみ出そうに見えた。その光景を思い出そうとするけど、現実とは思えなくて作り物のスプラッター映画のワンシーンが思い起こされる。その映画どおりだと、そのまま死んでしまう。


「大丈夫よ」


 気休めじゃなかった。私は、自転車置き場と運動場にある段差に腰掛けている咲羅の隣に刀を抱いて座った。


「ちゃんとは説明出来ないけど、「ブラッディアウト」後すぐに受けた傷が勝手に粘液で覆われたの。それを使ったわ」


 知ってるでしょ? とでも言うような目を咲羅は向けてくる。その目の周りは少し赤かった。たったあれだけ――「あれ」なんて言葉で片付けられない――の事で咲羅に心配をかけるなんて。

 私は右足の裾を膝上まで引っ張った。紅紫色と銀色のドロッとした液体だったはずが、今や銀色の残りかすが産毛のように残っていた。抉れていたはずなのに元のいつもの足に戻ってる。


「これと同じもの?」私は言った。


 得体の知れない半液体状の何かは塗り薬で保護膜で治癒する力を持っている。数時間で肉まで戻してしまう薬なんて誰もが欲しがるに違いない。


「お金儲けの事考えたでしょ?」


 図星だった。製薬会社に売り込んだら相当なお金になる、と考えた自分が馬鹿馬鹿しく思えて笑っていたのを咲羅に見抜かれていた。これぐらいだったら見抜かれるのも悪くない。


「お金なんて今あっても紙切れ同然よ。まぁ、ろくな事考えないほうがいいわ。核戦争が普通になって、それでもあの粘液で傷を治して、また核戦争になったりしたらどうする?」


 後半は私の口調を真似して、考えまで真似するよう咲羅は言った。


「まぁ、傷なんて治ったらさらに無謀な事するわよ、坂ちゃんが特に」


 私はびっくりした。咲羅の後ろ――視界には端っこだけど矢坂が入ってたのに、意識はまったく向けていなかった。矢坂はクリスマスのプレゼントはなしと言われた子供のような不機嫌な顔だった。目の下の傷にあのドロッとしたものを塗ってる。

 私はなんと言葉をかけていいかわからなかった。だけど、先に言葉を発したのは矢坂だった。


「お前は何ともないのか?」


 予想外な言葉に私はもう一度聞き返しそうになった。矢坂の隣に座った。


「何ともないよ」


 ある意味、嘘ではなかった。身体的にはなんともないし、精神的にはちょっと記憶が戻っただけだ。

 だけど、今はそうやって強がるしかない。


 自分の心の中にまったく別の何かが入っている気持ち悪さがある。自分のやっている事に善悪の見分けがつかなくなる混乱とはまた違った困惑。人間が持つべきはずでない感情だろう。誰かに向かって吐き出したいのに、それを吐き出したらうつってしまうんじゃないかと恐れてる。言葉では伝わらない。自分自身が体験せねば理解出来ない感情。

 その感情を知られるのがある意味怖い。自分が人間ではなくなってしまうような恐怖。だから、私は誰にも言えない。誰にも。


「足も大丈夫。それに肩も」


 左足に受けた銃弾も痛みが引いていた。食いちぎられた肩はそれほど酷いようには思えない。治癒力とあの粘り気のある物質を合わせれば、何でも治ってしまうのだろうか。驚くべき治癒力だが、筋肉の疲労感までは治らない。だけど、普段より体はよく動いてる。


「矢坂こそ何ともない? 右腕大丈夫?」


 私は違う事を考えようと矢坂に訊いた。自分の事など考えたくない。恥ずかしい思い出が笑い話になるように、いつかこの事も笑い話になってほしい。

 矢坂の右腕は筋肉組織が見えそうなぐらいに抉れてた。對崎部長が応急処置をしてくれた時はどうかわからないけど、私が無理やりに消毒してた時には、時針が動くぐらいにゆっくりと癒合してた。表面上は大丈夫かもしれない。神経はかなり損傷してるかも。


「ああ、不自由なく使えてる」


 右手を開いたり握ったりするのを見せてくれた。私は矢坂の腕を掴んで傷があった肌を指でなぞった。治った時に脹らむ事もなく最初っから傷など負っていなかったかのように綺麗に滑らかだった。だが、端から端まで確認出来ずすぐに手を引っ込められてしまった。私はもっと見せてほしくて矢坂をにらんだ。


「あの粘液の薬を使ってないのによ。とんでもない治癒力だわ」


 咲羅が簡潔に説明する。確かにとんでもない治癒力だが、そのおかげで今生きてると言っても過言じゃない。治癒力に頼るのはそれだけ未熟だからかもしれない。

 突然、肩と腕の付け根辺りがかゆくなった。かさぶたでもあっただろうか? 服の上から強く掻き毟った。

 誰も一言も言葉を発しなかったたった五分ほどが一時間以上に感じた。

 ヒリヒリするまで掻いたころにいきなり手を掴まれ私の心臓は口から飛び出しそうだった。矢坂が私の手を握っている。呼吸を整えるみたいに目を閉じて、意を決したみたいにまぶたを開く。


「お前が倒れた瞬間、全部停まった。そう俺が言ったらどう思う?」


 本当の事なのにたとえ話をするのが可笑しくてつい笑いそうになったが、私は必死に堪えた。普通なら心底驚くはずなのに私は少し予想してたから驚かずにすんだ。それよりも笑いそうだった。私が気を失った時に人狼が動きを止めたなら、自分が何か関係してると考えるのが普通だ。


 だけど、矢坂の言葉に心が痛んだ。私はこの獣たちと関係してるのだろうか? 人狼と私の間に何かがあるのか。たまたまなのか。私の思いが反映されてるんなら、少なくとも二人はずっと生きているし、動物は死なない。何より全員に平等に死が来る。それがホントの想いかはわからないが、少なくともそうなると思う。シンディが生き返ったのも関係してるなら、それは私が関係してると認めざるを得ないのかもしれない。あの喪失感には耐えられなかった。でも、自分が動物と敵対する理由がない。だけど、私が人間を憎むべき存在と考えてるなら人狼と敵対してもおかしくない。もっともあの吸血鬼染みた男はいったい何なのか? あいつのほうがこの事に関係してるように思えた。だけど、ひとつ言えるのはあの感情は人狼とは関係してない。私自身の問題だという事。


 気がつくと私は瞬きも出来ずに矢坂を凝視してた。


 どうこう私が考えても、周りの意見が私の立場を決めてしまう。いつもなら嫌だが、今はそれが正しいと思えた。どう思ってるのか聞くのが怖い。私はもう敵として認識されるのだろうか? 私は忌むべき存在になるのだろうか? もう、幼馴染でも幼稚園組でも元同級生でもなくなってしまうんだろうか? 聞くのは怖い。だけど、咲羅が私の肩に手を置いてやめるように促したがそれを無視し、私はたずねる決心をして、座りなおした。


「矢坂」かすかに声が震えていたのは自分でもわかった。「お前はそれをどう思う……?」


 私は矢坂の目を見て、彼は私の目を見た。

 自分がずるいと思った。答えるが怖いから、逆に聞き返すなんて卑怯だ。矢坂も答えられるはずがない。それがいい事でも悪い事でも。


 少しして、それを矢坂は目を逸らした。

 何の前触れもなく空に稲妻が走った。雲もないのに。シュッという音に続いて、バドンッと空気を叩き割るような音がする。かなり近くからだ。私はグラウンドに目を向けた。運動場のほぼ中心で煙がくすぶり、目が痛くなるほどの白い炎が燃え上がっている。よく見ると静電気のようなものがチリチリと跳ねていた。炎じゃない電気の塊だ。


 後の事を考えなければ、美しいと素直に思えた。


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