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悪役令嬢になる前に。

見切り発車のゆるーい短いお話です。






「婚約解消してください!!」


「・・・却下(ノー)だ。」



優雅に紅茶を飲む婚約者に私はもう何度目かわからないお願いをしたのだが、あっさりと断られた。

優秀な王太子殿下は今日も手強い。


色鮮やかななバラが咲き誇る王妃様御自慢の庭園での定例のお茶会。

私はそこで毎回婚約者である王太子のアルベリク殿下に婚約解消を申し入れている。



「~~~!!何故、解消してくださらないのですか!?」


有無を言わせぬ却下の言葉に目に涙をため、そう問うた私にアルベリク殿下は眉を寄せ溜息を吐いた。



「逆に聞くけど、何故解消できると思うの?」


「そ、それは。私が悪役令嬢になるからで、・・・その」



口籠る私に彼の眉間の皺が更に濃くなるのを感じる。やめてよ、怖い。


「何故、シャルは婚約解消したいの?」


「ですから、何度も申し上げていますように私は将来悪役令嬢になってしまいますし、それに愛想を尽きた殿下がヒロインと『真実の愛』に落ちてしまうから、その破棄されるくらいなら・・・その・・・」



そう私シャルロット・ラビットは、転生者だ。

ラビット公爵家の令嬢として生まれ、王家との政略で王太子であるアルベリク殿下と婚約したのが6歳の時。


穏やかで優しいアルベリク殿下を大好きになって婚約者に慣れてよかったと、日々の妃教育は大変厳しいけど彼を支えられるように頑張ろうと幼いながらに努力の日々を送ってきた。


しかし、10歳の誕生日を迎える前日。

私は高熱にうなされ、そして転生者である事を思い出した。



「・・・転生者(イコール)悪役令嬢?」



前世、読み漁った異世界恋愛小説においてそれは『王道』だった。



燃えるような赤い豊かな髪は巻いていないのにウェーブが掛かり長い睫毛に縁取られた瞳は金色でどのパーツもお人形のように整っているが少しキツそう印象を受けたその容姿は悪役令嬢そのもので。



「婚約破棄されてしまう!!」



婚約破棄からの追放又は破滅エンド。それもまた『王道』であった。


大好きな婚約者に婚約破棄されてしまう未来は私にとって絶望でしかなかったが、転生した話がどの物語の世界なのか。前世で読み漁った小説の量が莫大すぎてまるで見当がつかなかったので婚約破棄回避の為にどう立ち回ればいいのか、それすらシャルロットにはわからなかった。



何日も悩み、泣き、知恵熱を出しそこから体調を崩しまくった私はある決意をする。


幸いにも、まだ私たちの婚約は世間に公表されていない。

婚約破棄回避の筋道がわからないのならまだ幼いうちに解消してしまえばいい。



そしてお見舞いに来てくれたアルベリク殿下にベットの上で土下座しながら初めてお願いをした。



「・・・アルベリク殿下、し、失礼を承知で申し上げます!


私と婚約解消してください!!!!!」



驚愕し目を見開いた殿下が次第に悲しそうな表情を浮かべる。



「・・・、僕はいやだよ、シャル。・・・り、理由を聞いても?」



そんな表情(かお)をさせたかったわけじゃなかった。

そんなに寂しそうで優しい声で言わないでほしかった。


殿下のその様子に一気に涙腺崩壊した私がぎゃん泣きしながら話した理由を何も言わずに聞いてくれた。



「教えてくれてありがとう。シャル。」



そう言って小さい子をなだめるように頭を撫でてくれた殿下をまた好きになったのは私だけの秘密。


その後も婚約解消の動きはなく、それから2年こうして定例のお茶会でいつもお願いしているのだがさらーと流されてしまう。




「・・・、」


その形の良い顎に綺麗な指を添えて少し考えるような素振りをしたアルベリク殿下。

何をしても絵になるし、12歳ですでにこの色気はヤバイ。



「じゃあさ、シャル。いいよ。解消しようか。」


「え・・・。」



無表情でそういった婚約者。

それを望んだのは私なのに、今すごく傷付いている。




「但し、君が立派な悪役令嬢になれたらの話ね」


「へ?」


うわ、間抜けな声でた。

恥ずかしい・・・じゃ、なくて。え?今なんて?



「悪役令嬢になるならば、ヒロインを出し抜く為に優秀でなければ悪役令嬢なんて到底無理。」


「ま、待って、それはどういう?」



「俺がヒロインならライバルキャラが完全無欠の完璧令嬢である程燃えるね。

誰にでも愛される物語のヒロインを出し抜いて策に嵌めるにはおまぬけさんでは成り立たない。

みんなが完璧すぎる令嬢にひれ伏すくらい優秀でなくちゃ悪役令嬢なんて務まらないよね」



一理ある。けど、殿下。私、悪役令嬢になりたいなんて一言も申していません。




「それに、君は存外ドジで少しお馬鹿さんだから婚約解消するなら俺が居なくても君が立派にやっていける所を見せてくれなきゃ解消できない。」


「!!」



なに、ちょっとキュンてした。今!!きゅうんって!!



「そ、そうですよね!!私、立派な悪役令嬢になって見せますわ!!」


思わず立ち上がって意気込んだ私に彼はパチパチと拍手してがんばれーと言ってくれた。(棒読みで)




「悪役令嬢になる為の完璧な講師陣はこちらで手配しよう。あ、そうそう。王妃(はは)も元は悪役令嬢といっても過言ではないからね。色々教えてもらえるよう俺からも頼んでみるよ。」



「王妃様が悪役令嬢なんて信じられませんわ・・・何から何までありがとうございます。」



婚約を解消したいなんて我儘をいう婚約者の為にここまでしてくれるなんて・・・!!!

私は殿下の優しさに感動して震えた。


この殿下の御心を無駄にしないようにと私は決意新たに完璧な悪役令嬢になる努力をした。











********



ゴーンゴーン



大聖堂の大きな鐘が国中に鳴り響く



辺りは大衆の歓声で賑わい、国王陛下、王妃殿下、それに私の両親や兄夫婦が優しい顔をして時折涙を浮かべ微笑んで私たちを見守っている。



私はあれから血のにじむような努力をした。

周りからは淑女の鏡といわれ『王太子の紅薔薇』と呼ばれたが悪役令嬢と呼ばれることもヒロインらしき女の子と接触することもなく過ごした。



「え、あれ?!」


「どうしたの愛しいシャル」


「わ、私、どうしましょう!!悪役令嬢になるはずが殿下と結婚式です!!」


「ふふ、アルベリクと呼んで。今日からは夫婦になるんだから」



真っ白い正装に身を包んだアルベリク殿下は物語の王子様そのもので。

ふわり優しく微笑んだ彼は私の耳元でこう囁く。



私は物語の世界に転生したとばっかり思っていたけど、どうやらこれは物語の世界ではなかったようだ。




「愛しているよ、俺だけの悪役令嬢さん」



大好きな婚約者に一途に愛され応援された私は私という人生のヒロインだった。

これからも彼を支えていけるように悪役令嬢は頑張らなければ‼



真っ赤になった私の頬に唇を落とした彼はまるで悪戯が成功した子供のように笑うのだった。













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