悪役令嬢になる為に。
不憫な殿下の話
「婚約解消してください!!」
「・・・却下だ。」
ふっざけんな。
もう何回聞いたか分からない可愛い婚約者からの申し出に内心ブチギレる。まだ12歳なので感情的になるのは許してほしい。だってそういうお年頃になってきてるだろ?
ここで注意したいのが実際に怒ってしまうと彼女はとても臆病だから間違いなく全速力で逃げられてしまう。
(いや、例えとかではないのがまた痛いところである。)
彼女は俺との婚約は政略結婚だと思い込んでいるがそれは大きな間違いである。
そもそも王家も彼女の生家であるラビット公爵家も政略結婚させなければならない理由は今のところない。
俺は後ろ盾もしっかりしている王妃の息子で継承権第1位で生まれてきた。
自分で言うのもなんだが、優秀で3歳の時にはもう王太子として選ばれたが甘やかされることも驕ることもなかったのでそれなりに周りの期待以上のことは出来た。両親からしたらだいぶこまっしゃくれた可愛げのないことだろう。
そんな俺が彼女と出会ったのは、5歳の時。
彼女の父であるラビット公爵について王宮に遊びに来た時に同じ年齢という事もあり紹介された。
一目惚れだった。
豊かにウェーブを描く赤い髪と長い睫毛に縁取られた猫みたいな目。桜色のぷくっとした唇。
恥ずかしそうにでも5歳児にしてはしっかりとしたカーテシーを披露した彼女を好きにならない人間がいるなら連れてきてほしい(潰すから。好きになったやつもついでに出てこい消すから(物理))
そっからの俺の行動は早かった。
「父上、母上。私の婚約者の選定に悩んでおられるとお聞きしましたが、私の婚約者にはぜひラビット公爵の御令嬢、シャルロット嬢にして頂きたい!!」
ラビット公爵令嬢と婚約した場合のメリットや反発されるであろうその他貴族を黙らせる有益な理由やあれこれ御託を並べ両親を説得することにした。
「お前は本当に小賢しいわね。」
扇を広げ口元を隠した王妃が冷たく言い放った一言で場の空気が凍った。
試すような視線を俺に向ける。
「それならば近隣諸国の王女に嫁いでもらった方がよっぽど有益に思うが?」
「ええ、その方が有益かもしれませんが他国の王女を妻にもらっても国益が認められるような良好な関係にはなりえません。」
「なぜ?」
「私がその姫君を愛せないからです。シャルロット嬢しかいりません。彼女じゃないなら王家の血は途絶えますのであしからず。」
睨み合う母と子。視界の端で国王である父がオロオロしているのがわかった。
「ふっ!それでこそ我が息子ぞ!!」
母がにやりと笑って私も娘にはあの子がよかったのよ。変な御託並べる前に気持ちを見せてほしかったわ~なんていうので婚約はすんなり調った。(ラビット公爵は渋ったが彼女が乗り気だったので存外簡単に説得できた。)
婚約してからは本当に毎日幸せだった。6歳にして順風満帆だった。
大好きな婚約者と切磋琢磨して自分を高め、たまに母上のお気に入りの庭でお茶したり王族所有地へ旅行に行ったり幸せ過ぎたのだ。
あっという間に時が過ぎ、彼女の10歳の誕生日パーティーを明日に控えプレゼントを渡した時の彼女の反応を想像してわくわくしていた時だった。
「殿下!!大変です!!ラビット公爵令嬢が!!」
「シャルロットがどうした!!?」
聞けば高熱に魘され生死を彷徨っているという。俺は急いで公爵家に向かったが当然ながら面会謝絶。
彼女の安否が心配だが傍に行けないもどかしさで夜も眠れぬ日々を送った。
それから1週間程してようやく体調は安定したが精神が不安定で部屋に塞ぎこんでしまったと連絡が来た。
慌てて見舞いに行っても良いか打診し、それから3日ぐらい返事がもらえず悶々とした日々を過ごす。
漸く許された面会。彼女をイメージした可愛らしいブーケと彼女が好きなフルーツを詰め込んだバスケットを持って見舞いに行く。
「・・・、シャル?」
通された部屋ではその輝く黄金の瞳にたっぷり涙を浮かべ弱弱しくベッドに横たわる彼女。
「大変だったね。体調は?もう具合の悪い所はないかい?」
「・・・。」
ベットからゆっくり体を起こそうとした彼女を支える。少しやせたように思えた。
何を聞いても答えようとしない彼女に再び声を掛けようとしたその時だった。
ガバっと支え無しで正座した彼女が手をついて頭を下げる。所謂、土下座ってやつだ。
「・・・アルベリク殿下、し、失礼を承知で申し上げます!
私と婚約解消してください!!!!!」
驚愕で目を見開く。一瞬何を言われたか理解できない。
彼女との関係は良好だったと思う。俺は彼女が大好きだったし彼女も少なくとも他の同世代のやつらより慕ってくれていたはずだ。
「・・・、僕はいやだよ、シャル。」
気が付けば口から出ていたそれは年相応に幼い言葉で慌てて理由を聞いた。
俺の表情を見て酷く悲しそうな顔をしたシャルロットは大きな声で泣きながら理由を話してくれた。
聞けば、彼女は前世の記憶とやらを思い出しそこで気に入って読んでいた小説のどれかの世界に転生したという。その小説では『悪役令嬢』とやらが登場しそれになってしまう。俺が訳の分からん女を好きになり、そいつと結婚したいがためにシャルを断罪し婚約を破棄する。
んなわけあるか!!と叫びたい衝動を抑えつつ泣く彼女をなだめる。
彼女が不安ならその不安要素を全部掃ってやろう。他の女を好きになるなんてありえないと教えてやろうと心に決めた。
「(のに・・・、何故こんな伝わらない!?)」
愛情表現はほんと恥ずかしいくらいしている。自分でも彼女に対して甘すぎだと自負している。
他の令嬢とは対応にわかりやすいくらい差を出している。(品行方正からはみ出ない程度だし、彼女たちも暖かい目で見てくれてる。不本意ながら王太子の恋応援団があるらしい。)
俺らがまだ幼いていうのもあるが彼女は鈍い。とってもニブい。
正直婚約解消を請われる度に神経擦り減っていく。辛い、マジ病みそう。
なので方向性を変える事にした。押してダメなら引いてみろ。彼女もちょっと俺の気持ちがわかるといいな。
「じゃあさ、シャル。いいよ。解消しようか。」
「え・・・。」
不本意ながら真顔でそう言った後、秒で後悔した。
シャルがとっても傷ついた顔をしたから。
傷付けた後悔はしたけど、彼女が無意識のうちに俺を好いてくれていたと理解し喜ぶ自分がいた。
彼女が俺に少しでも好意があるのならば更に作戦変更だ。
彼女にサクッと王妃教育をさせればいい。彼女は少して天然でお馬鹿さんだが実はとっても努力家で優秀なのだ。
そして俺は彼女を騙す。
悪役令嬢になりたいならならせてあげる。
人生初の挫折を味わった俺は強いよ。
それから数年後、悪役令嬢になる筈だったのに騙されたーとむくれる彼女にキスを贈るのだが。
それはまた別の話。




