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第二都市開発空域9

 綾音の体から叡智の塔(パラレルヒストリー)の風景が噴出し、人の形に収束していく。

 人の形に収束しきった叡智の塔が動き出そうとしたその瞬間、彼方は迷いなく踏み込んで叡智の塔を一刀両断した。


「どうだ……?」


 再び地面に倒れ伏した綾音を見ながら彼方が呟く。


『まあ酷い。いきなり斬って掛かるなんて、せっかく褒めてさしあげようと思いましたのに』

「やはりそう容易くはいかんか──!」


 部屋の外から聞こえた声に彼方は間髪入れずに中央制御室を飛び出す。逃げ場がなく狭い中央制御室に篭ってしまっては間違いなく不利だ。

 飛び出した部屋の先、魔法機関立ち並ぶ広間には、操り人形のように宙に浮かんだ別の少女と叡智の塔のシルエットがそこに有った。

 二か月前の夜と全く同じ光景だ。


『それでは世界の運行意思として宣言致しますわ。この歴史は間違っていると、故にこの地は崩壊すべきですの』

「その未来は許容できない。俺が受けて立つ」

『うっふふふふふふ! ファントムさん以外に、しかもただの旧人類にこの台詞を言う時が来るだなんて。それでも口からこぼれた言葉は取り返せませんのよ』


 虚ろな顔の少女が自らと違うであろう声色で嘲笑う。


『覚悟はよろしくて? ここから先は世界の在り方を決める──征界戦でしてよ』


 宣言と同時、宙に浮かんだ少女が三叉の槍を構えて滑るように彼方に迫る。


「それはもう見た手だ。本人が戦うよりも動きが鈍くなる」


 彼方はそれをするりと躱し、その流れでシルエットを切り伏せる。

 彼方の後ろで少女がドサリと崩れ落ち、


『あらあら、そうですの? 頼もしいですわね、うふふふふふ』


 彼方の目の前にまた別のシルエットと操られた少女が現れる。

 その後ろにももう一人。


 浮かび上がった少女達が虚ろな顔のまま体を揺らす。

 まるでそれは無駄な努力だと彼方を嘲笑うかのように。


 一人目が突剣を構えて突撃する。

 彼方は横に飛び退いてそれを躱すと、横に薙ぎ払って少女の脇腹を斬る。


 二人目が掲げた大斧を両手で振り下ろす。

 彼方は前へと滑り込み、少女の懐に飛び込んで少女の胸に剣を突き立てた。


「やったか……?」


 彼方が安堵するよりも早く、突如扉を破壊して現れた新しい少女が大鎌を真横に振り回した。

 彼方は突き立てた剣を素早く引き抜くと、ぐらりと体を揺らして宙に浮こうとしている少女の体を駆け上がる。


「すまん、悪く思わないでくれ」


 彼方の真下、少女を薙ぎ払うように大鎌が通過し、斬られた少女の因果支配権が彼方から叡智の塔に再び移った。


 だが、そこで止まっている暇はない。彼方はロッドによる魔法で空間を制御し、空中を蹴り飛ばして加速する。

 大鎌を振り抜いたばかりの少女は当然間に合わず、彼方に肩口から袈裟斬りにされた。


 着地、間髪入れて振り返って切り上げる。再度大斧を振り上げて迫っていた少女がシルエットごと両断された。


『まあ、お強い。全断の剣(マスターキー)を持っているとは言え、並みのウィッチでは歯が立ちませんわ。でも、本体であるわたくしの器を壊さない限り無意味ですのよ?』


 獅子奮迅の大立ち回りなど所詮は無駄な努力だと嘲笑い、虚ろな目で浮かんだ少女達が続々と部屋に集結してくる。


「……はは、なるほど。中層で全く姿を見なかったと思えばここに集結していた訳だ」


 ここが彼女達の本拠地であると言う事実を再認識し、乾いた笑いが思わず漏れる。


 小気味よく斬り伏せても、全滅させるよりも早く斬ったウィッチが再起動してしまうだろう数。

 絶望的と言わざるを得ない。


 初戦、ウィッチとの戦闘は彼方の想定以上に上手くいった。

 ウィッチ相手でも戦えると言う自信、いや慢心を抱きつつあったかもしれない。

 だが、そんなものはあっという間に吹き飛んでいた。


『うふふふ、征界戦を続けましょう。貴方の身に因果の刃が突き刺さるまで。その身を貫くのはどんな武器がお好みですかしら』

「当然、全て断る」


 彼方は迷う、一度ここはクラリーチェと合流するべきか否か。

 事態は彼方の想像を軽々と超え、既に手に負えるものではない。


 しかし、ここに居る彼女達は器ではないと言う。

 ならば彼方が合流してしまえばクラリーチェが器となっているウィッチを倒すのに余計な負担を強いることとなる。


「……そうだな。過剰な負担がかかるのならば、あいつよりも俺にかかった方がいい」


 故に彼方は一人で相手取ることを選んだ。


「来い、庭園憑き!」


 彼方は全断の剣を力強く握ると、かろうじて逃げ道の塞がれていない横の部屋まで走り、そのまま窓から夜空に飛び出すと、魔法を用いて一気に空中を駆け降りる。

 既に無人となったモノレール発着場前の橋に着地した彼方を取り囲むように少女達が飛来し、最後に叡智の塔のシルエットが現れた。


「あれを斬って終わるのなら楽なんだがな」


 残念ながらそうでないことは先程証明されてしまった。

 だが、それでも時間稼ぎぐらいならできるはずだ。


『うふふ、もう逃げませんのね』

「ああ、ここで相手をしてやる」


 彼方が全断の剣を構えなおすと同時、広場と道路が軋み、それを囲むビルが揺れた。


『残り時間は僅かですわよ。第二都市開発空域のありとあらゆる所に居るわたくしをかいくぐり、本体である器を見つけるのは不可能。もう諦めてはいかがですの?』

「くどいな、俺は受けて立つと言った。その言葉を翻すつもりはない」

『そうですの、安心しましたわ。それでは遠慮なく参りますわよ。この風景が崩れ落ちるその時まで』


 その言葉を号令として少女達が空中に散る。

 武器を構えた少女達は、自らが砲弾となって彼方へと打ち出されていく。


 飛び退く彼方。目の前に交差する形で二人の少女が突き刺さる。

 背後からの気配、右、中、左、三人横並びで打ち出される少女。右左の少女は直接当たる軌道ではない。


「ならば──!」


 全断の剣をひらめかせ真ん中の少女を叩き落す。

 右、左の少女は大きく弧を描いて旋回し今度は真横から彼方に迫る。

 右から来た少女を避け、左から来た少女をすれ違いざまに斬りつける。


 第一波をかろうじて退けた──彼方がそう思った瞬間、足下の空間が歪む。

 彼方はそれを見逃さず魔法の補助を受けた大跳躍で飛び退く。

 飛び退いた彼方に僅かに遅れ、ジャンプするイルカのように打ち出された少女達が、先程まで彼方の居た場所を破壊し尽くした。


「空中都市では上も下もないな──!」


 現に空中に視線を滑らせれば、先程打ち出された少女達が雨あられと上から彼方へ降り注ごうとしている所だった。

 そして、横からも、前からも、後ろからも少女達は迫る。

 彼方は着地前に空中で体勢を立て直すが、数の暴力、全方位大パノラマの同時攻撃を剣一本で捌ききることはもはや不可能。


 つまり絶体絶命──


「──っ!」


 だが、ウィッチの手にした武器が彼方に届くよりも早く、少女達の背中に次々と全断の剣が突き刺さっていく。

 思わぬ加勢に、彼方が剣の飛来した方向を見上げる。


「君は本当に無茶が得意なようだねぇ。彼方君?」


 そこに居たのは銀髪を月明かりで輝かせたクラリーチェ。

 闇夜に浮かんだ彼女は夜空からウィッチ達を見下ろし、その周囲に浮かんだ無数の剣が次々と少女達へと打ち出されている。

 少女達が全断の剣によって次々制圧されていく中、クラリーチェはふわりと彼方を守るように舞い降りる。その動きはまるで重力を感じさせない。


「……すまん、ファントム」

「言いたいことは山ほどあるね。けれど、それは後にしようか。まずはこの三流の演目を終わらせないといけないからね」


 とろんとした口調ではなく、凛然としたファントムの口調でクラリーチェが言う。


『あらあら、うふふ、真打に交代ですのね』

「そして、もう幕引きだよ。叡智の塔の一部如きに貴重な時間は掛けられない」

『あらあら、そんなに早く幕引きができますかしら。ここにいる肉弾を幾ら倒しても無駄ですのよ? 器の場所が分かりまして?』


 ファントムは無言で右腕を上げる。


「君の本体が何処であろうともう関係はないよ。時間は彼が十分に稼いでくれた。帰っていく一般人ももう居ない。つまり、私にとって叡智の塔(きみ)はもう何の脅威にもならないんだ」


 瞬間、豪雨のように全断の剣が降り注ぐ。


「庭園なしだと精密制御ができるほど集中できなくてね、数で押しつぶすと言う愚策を取らせてもらおうか」

『────!!』


 その数、数千、数万、あるいは億か。月夜が剣に埋め尽くされる。

 ビルを貫き、道路を貫き、夜を貫く。断末魔を聞かせる間もなくシルエットが掻き消え、少女達の因果が蹂躙される。

 月の光が空中都市に再び届いた時には、既に叡智の塔は影も形も残されていなかった。


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