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9.『最初の町』のダンジョンボス後編

 残りHP一割で繰り出される全域ブレスと全域クエイクの連擊によって、エンプティはもう十度目を越える死に戻りをしていた。


「…どうすっかな。AGI(素早さ)上げたいけど耐久周り(HP、VIT、MND)は下げたら死ぬし、STR(攻撃力)下げたらその後詰む…」

 最大限に距離をとってもクエイクのダメージがエンプティのHPの六割弱。スキルで三割回復するとして、ブレスのダメージを受けても三割は残さなければならない。

 さっきからステータスをいじったり装備を替えたりして繰り返し挑んでいるが、成果は芳しくない。


「いつもながらヒューマンのステータスよ…。ドラゴニュートになりたい…」

 エンプティの種族は純人(ヒューマン)だ。スキルの伸びは全種族一だが、ステータスは初期値も最終的にも最も低い。対して竜人(ドラゴニュート)はスキル周りは弱いがステータスが最も高い種族だ。

 総合的にはどの種族も大きな差は無いとは言われているが、しばしばエンプティが行うスキル縛りでの攻略においては大きな枷となることがあった。


「………いや、迷走してる。計算は間違ってない。てことは数値は最初のがベストだろ。実際変えたら駄目だった。………っし、走るか!」



 ステータスは据え置きのまま、なんとか安全圏まで走って逃げ切れないか何度か試してみるも、ブレスの溜めはそれほど長くなくフィールド中央を過ぎるくらいが限界だった。それだとクエイクを耐えきれず死んでしまう。


「あと十メートルあれば足りるはずなんだが…届かねえ。…スキル上げるのもなあ。………それかあれ使うか? DEX(器用さ)振ってないぞ…。再現性無くなる…。叩かれる………のは今更か」

 スキルは何度も使えば強化できる。それはオフラインで取得できるような基礎的なスキルも例外ではない。尤も最大限まで強化したところで大した強さにはならず、そのリソースを他のスキルに費やした方が遥かに良いので一部の奇特なプレイヤーしか強化しないのだが。

 勿論エンプティは奇特なプレイヤーの一人だった。この攻略で使っているスキルも、実際はもう少し高い効果を発揮できる。

 しかし今回の攻略はあくまでもチュートリアル相応を前提としている。あまり高いレベルのスキルを使うのは望ましくない。


「よし、もうあれ使おう。プレイヤースキル活かして何が悪いってんだ」

 そう言ってエンプティは神殿を出ていく。NPCの神父はもう目を向けてすらいなかった。



 そんな訳でサクサク進んで対亀竜、敵の残りHPは一割を僅かに上回る。ここまでの動きは随分慣れたものだ。

 亀竜は壁際、『精神力強化』の効果もそろそろ切れる。仕掛け時だ。

 亀竜に近付いたエンプティは、攻撃をせずに翻って反対の壁へと走り出す。十五メートル程距離が空いた頃、走りながら後方の亀竜に短剣を投擲した。


「っし当たり! さすが俺!」

 短剣は吸い込まれるように亀竜の眼球に当たる。STRの低さ故に刺さることはないが、それでも十分なダメージは発生する。

 ステータスに余裕はなくDEXはほぼ最低値だ。命中に補正はない。それでも攻撃が当たったのは純粋にエンプティのプレイヤースキルによる。


 そしてそのダメージでHP一割のトリガーを踏んだ。亀竜が吠えてブレスを放つ。

 だがエンプティはすでに十分な距離を空けていた。背中からブレスを喰らうも、HPは三割五分を残し、回復して六割五分。続くクエイクも耐えきれた。

「こっからが正念場ぁ! 来いよ!」


 全域ブレス&クエイクの後は亀竜の行動パターンのみならず、フィールドの様子も大きく変わる。

 全域クエイクの衝撃波エフェクトに合わせて元々平らだった地面は所々でひび割れ・隆起・陥没を起こす。最大高低差はおよそ一,五メートル。広いフィールドだが三メートル四方も平らなままの部分は残っていない。かなり移動しにくいフィールドへと様変わりするのだ。


 亀竜の行動パターンは言わば序盤の激化版だ。前方のプレイヤーへのロングブレス、後方のプレイヤーへの尻尾突き、至近距離のプレイヤーへの弱クエイクだ。ドスドスと中央へ移動しながらいずれかを繰り出してくる。

 ロングブレスは太さ三メートル程の直線状で距離制限のないブレスだ。距離で減衰せず、長時間攻撃が継続するためまともに喰らえばかなりのダメージになる。しかも亀竜はブレスを吐きながらプレイヤーを追うように首を振る。決して速くはないがフィールドを横薙ぎに動くロングブレスから逃げるために、移動しにくいフィールドを動き回らなければならないのだ。

 尻尾突きは文字通り、持ち上げた長い尻尾で上からプレイヤーを地面ごと突き刺す。序盤の叩きつけと違って距離に関係無く高速かつ高威力であり、攻撃の間隔も短い。

 弱クエイクは四割以降のものと同じだ。序盤と違い、ブレスを吐いている途中でさえなければ直ぐに使ってくる。


「下ががら空きなんだけどな! 序盤の方が忙しい!」

 前方で距離をおいてロングブレスを撃たせてから、さっさとその巨体の下に潜り込んで切りつける。ロングブレスもさすがに亀竜の下までは追ってこず、さらにブレスを吐いている間は亀竜も移動しないので、ブレスが続いている間は攻撃し放題のボーナスタイムとなる。

 クエイクを撃たせないように、ブレスが切れかけたら下から出る必要はあるが、また前方で距離をとってロングブレスを撃たせる。長時間攻撃に集中できるので序盤・中盤よりも遥かに速くHPが削れていく。


 しかしこのまま最後までいけるかというと、そうは問屋が卸さない。

 亀竜が中央についてからしばらく経った時。

「そろそろ時間…! 『精神力強化』! …ギリギリ行けんだろ!」

 そう言い捨ててエンプティはフィールド端へと走った。


 HP一割を切った亀竜は中央へと移動を始める。中央に着いた後は前述の攻撃パターンに加えて、一定時間毎に全域ブレスと全域クエイクを順に繰り返す。HP一割の時のものよりも威力は下がっているが、その間隔は然程長くなく万全の体勢で受け続けることはできない。

 一発目の全域ブレスは亀竜が中央に着いてから一定時間後だ。ロングブレスを撃たせることで足を止められるので、それなりに時間は稼げる。ギリギリで回復スキルを二回発動できて体力は六割五分。『精神力強化』のリキャストも間に合った。これならば。


「っしゃあぁぁ! いけたぁ! っと、まだだった」

 全域ブレスのエフェクトが消えるやいなやロングブレスが飛んできた。慌てて避けつつ、接近して潜り込む。

 そこから先は消化試合だった。次の全域クエイクを撃たせる前にひたすら亀竜のHPを削り切る。最後に大きく吠えて亀竜は腹を地面に付けて息絶えた。


「おっしゃあ! やっと終わったぁ!………ん。なんだ? 新スキル? そういうのあるのか」

 亀竜の死骸が消滅していき、ドロップ品だけが残った後、ピコン! と電子音がエンプティの頭に響いた。聞き慣れた新スキル取得音だ。

 僅かにテンションを上げつつ直ぐにメニューを開き所持スキルの一覧を確認する。new! の文字を伴った『期待の新人』なるスキルを見つけた。名前からして常時発動(パッシブ)スキルだろうか。


「今更、期待の新人って言われてもな、遅咲き過ぎる。効果は………は? ………ぶっ壊れだ、これ」



「…運ゲーはない。回避も攻撃も耐久も計算の域は出てない。…よし。じゃあ本番・・撮るか」

 新スキルは見なかったことにして、エンプティはボス部屋で『撮影君』の映像も見ながら反省会をする。一通り省みてそう結論付けた。


 エンプティは『ロロックスフィア』の攻略動画をネット上に投稿している、所謂なんとかチューバーの一人だった。尤も実利よりも趣味の側面が強く、今回のような誰得な動画も少なくないのだが。

 細か過ぎる程の検証と高過ぎるプレイヤースキルからファンもアンチも多く、動画を投稿する度に良くも悪くも界隈を賑わせていた。


「『期待の新人』は世に出さない方が良いんだけどな。アオイにも悪いし。………ま、真似て挑む奴もいないだろうし、動画は上げるか。………はあ、てことはまた無駄に洗練された無駄のない無駄な攻略とか言われるのか。…ま、良いけど」

 いくらか気を落としながらボス部屋を後にする。どうせネタに困っていた所なのだ。鍋をかき混ぜる動画よりはマシだろう。そんな風に気を取り直し、エンプティは続けて本番の撮影に挑んだのだった。


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