5.ルナの本名
評価してくれてるわーい!
ありがとうございます。
ストーリーの凡庸さは諦めてますが、その分、文章評価が高めだととくに嬉しいですね。これからも楽しんで貰えるように頑張ります。
ウェニシア王国の王都の名を、これまたウェニシアと言うのだが、このややこしい状態が発生した理由を語るには、ちょっとした時間が必要だ。
かつてウェニシア王国は弱小国だった。
周囲には広大な土地を持ち、それに支えられた強大な軍事力と膨大な物資を有する諸大国。対してウェニシア王国は都市一つとその周囲一帯しかない小国。土地を得るため戦争を仕掛けても返り討ちは必至だった。
そこで目を付けたのがダンジョンである。国策としてダンジョンを保護し、必要な物資を賄う。珍しい産出品を周囲の大国すべてに流すことで中立を保ちつつ敵対を避ける。幸い小国だ。必要な物資の量も少なければ、大国からは元々見向きもされていない。
ダンジョン国家として一定の存在感を得た頃、つまりそろそろ大国が『次にちょっかいを出す相手リスト』に入れ始めた頃には、すでにダンジョン保護の膨大なノウハウを獲得していた。普通そんなもんが都市の近くにできたら住民丸ごと避難させるだろ! と他国なら判断するダンジョンを唯一の都市の周辺に多数抱えていたのだ。これではどこも迂闊に手を出せない。まあ放っておいてもどうせ勝手に滅ぶだろうし。そう言われてから数世代が過ぎていた。
そんな風に安定はしても国土は増えず、小国の姑息な生存戦略と揶揄され続けていた。シイガスが地表を覆うまでは。
広大な土地に支えられた大国は、その利が無くなり軒並み滅んだ。対して狭小な土地に大量のダンジョン――天然の『シイガス避け』を抱えたウェニシア王国は生き延びた。貴賤の別なく(狭い国だ、元々そんな意識は薄かった)王公貴族も平民も一緒に比較的安全なダンジョンに逃げ込み、そこの産出品で生活し(全く今まで通りだった)、そして研究の果てに『シイガス避け』を手に入れた。
ダンジョンから出て来たあとは滅んだ大地をのんびりと開拓。広大な土地よりも新たなダンジョンを求めて。
かくして小国ウェニシア王国の名を分ける必要もない小都市は、大陸の四文の一を支配する大国ウェニシア王国の第一の大都市ウェニシアとなったのだった!
「設定が凝ってるのは良いんだけど、やっぱりややこしいから変えて欲しいんだよな。話してて混乱する」
全く慈悲もない限りだが、この長い話を聞いたプレイヤーの感想は大体これである。しかし、シナリオ担当のライフはもうゼロだから止めてやってくれ、と運営から公式声明が出ているので改められはしないだろう。残念。
ちなみにシナリオ担当のライフは通算二十八回ゼロになっている。
「えぇと、何の話でしたっけ?」
「フーダスの話だな。まだそこまでいってないけど」
場所はフーダス街道を王都ウェニシアから四文の一程行ったところ。エンプティとルナの二人は雑談をしながら進んでいた。
フーダス街道は王都ウェニシアとウェニシア王国第三の都市フーダスを結ぶ街道なのだが、何を持ってフーダスが『第三の都市』なのかをルナが尋ねたことから、あの長い話が始まった。
「前置きが長くなったけど、土地を確保できない地表において、全てはダンジョン頼りだ。都市の大きさは周囲のダンジョンの量で決まる。と言っても、ウェニシアは王都だから問答無用で第一になっていて、正確なダンジョン量は確か…国内で七位だったかな。つまりフーダスはウェニシア国内で二番目に周囲にダンジョンが存在する都市ということだな」
「『第三の都市』の意味は分かりましたが、ダンジョン量って新しく生まれたりで変化しますよね? そもそも未発見のダンジョンも在りますし。どうしているんでしょうか?」
「ウェニシアの場合は、ダンジョンを見つけたら届け出る必要があるんだよ。それで調査して、有益かつ管理できそうなら保護し、無益だったり管理できなさそうなら潰す。都市の大きさとして数えるのは保護ダンジョンだけって訳」
ダンジョンの発見者は優先的に調査を行う権利が与えられる。調査が済むまで、そのダンジョンのドロップ品を占有できるのだ。この制度のお陰で、ウェニシアではダンジョン開拓が盛んで、ロマンを求めるプレイヤー達に人気の国となっている。
ついでに言うと、さすがに大国の王都周辺にはあまりリスキーなダンジョンを残して置けなかったために、王都ウェニシアは実質的な順位を落としたという事情もある。
フーダス街道を三文の一程進んだ頃。街道の外のシイガスが一際濃くなるポイントで見覚えのある数人を見つけた。
「アイツが言ってたのって確かこの辺…お、いたいた。ガル!」
「あん? おおエンプティじゃねえか。なんだよ結局来たのかよ! 歓迎するぜこの野郎!」
「違えよ、もう断っただろ。俺じゃなくてコイツ連れて行ってくんね? こき使っていいからさ」
エンプティがルナに目をやる。ルナも頷いて自己紹介をする。
「ルナだ。前衛の物理アタッカーと、少し回復ができる。パーティの経験は少ないが連れて行ってくれるとありがたい」
ルナは曲がりなりにも元ダンジョンボスだ、エンプティやウーナ以外には丁寧な態度を取らない。ぶっきらぼうな自己紹介を聞いてそういえばそうだったと一瞬頭を抱えそうになったエンプティだったが、それ程悪い態度でもないかと流すことにした。
現に、ガル達も然程気にしていない。それよりもその内容に引っ掛かっていた。
「物理アタッカーと回復…随分変わったビルドだな。ソロか? 回復ってどのくらいできるんだ?」
「どのくらい…ええと…」
ウーナ様の足下にも及びません、とか、低濃度のシイガスの中でもHPが尽きないくらい、とかでは伝わらないだろう。しかし他の基準などルナは知らない。
見かねてエンプティが助け船を出す。
「回復なら今は中級並みだ。アタッカーなら上級の上の方…俺より若干低いくらいだから、そっちメインで使ってくれ。スタイルは俺と同じだから」
「そう言ってくれると分かり易いな。おう、姉ちゃん、ルナだったか。俺はガルだ。期待してるぜ!」
「ちょっと待てガル。お前古参だろ! もっと引っ掛かれよ!」
「どうした播磨? なんか変だったか?」
「なにもかも変だ! いつも言うがお前の頭が一番変だ!」
細かいことを気にしない男は納得してしまったが、ガルの分まで細かいことを気にする男――ガルのパーティで後衛の魔法アタッカーをしている播磨姫路は、この短いやり取りだけでも言いたいことが沢山あった。
「知ってるかエンプティより若干低い奴のことをトッププレイヤーって言うんだ! だったら名前ぐらいどっかで聞いてんだろ! しかもエンプティと同じスタイルだろ、心当たりが無いことをおかしく思えよ!」
ちなみにエンプティやウーナやその他数人は神とか化物とか災厄とか触れてはいけない人とか呼ばれている。エンプティは戦闘以外に関してはまだ触れても良い方の人である。戦闘以外に関しては。
「そもそも物理と回復じゃ両立しないだろ! メインとサブでクラス分けても参照ステータスが正反対だ! なのにトップレベルと中級並みってふざけてんのか!」
『ロロックスフィア』において強さを決めるのはステータスとスキルだ。
ステータスには、その強化アイテムである『ステータスピース』の使用総量の上限と装備の個数制限という形で実質的な上限がある。一方、スキルは種族専用スキルなど一部を除いて入手だけなら制限は無い。なので理屈の上ではすべてのスキルを取得することができる。そのためスキルの使用制限として『クラス』システムが存在する。
『クラス』は所謂ジョブだ。メインとサブで一つずつ設定でき、クラスによって決まったスキルが使用できるようになる。
ただし基礎的なスキルはクラスを問わず使用できる。例えば『斬り下ろし』くらいだとどのクラスでも使用できるが、『三連斬り』くらいになると『剣士系クラス』でないと使用できない、といった具合だ。
サブクラスはメインクラスのスキルよりもスキルの効果が下がるが、あとは同じである。
クラスはメインもサブも変更可能だが、都市などの安全圏でしか変更はできず、コストも掛かり、一度変更すると一定期間再変更ができない。下記のステータスとの兼ね合いもあり、専ら現在のクラスの上級クラスにグレードアップするくらいである。
また、ステータスにはHP、STR、VIT、INT、MND、DEX、AGIの七つがあり、スキルごとにその効果量を決めるステータスが異なる。
上級ダンジョンで求められるのは、ある役割を高水準でこなすことであり、そのため大成するには強化するステータスは一つか二つか多くても三つに絞らなければならないとされる。装備によって多少は補えるとしても、トップレベルの物理アタッカーと中級並みのヒーラーの両立など普通は不可能なのだ。
「つーかもう核心突くぞ! ルナって名乗って、エンプティと同じスタイルのアタッカーで、ヒーラーもこなすって、お前『ルナリオーラ・ムーンフェイズ』だろぉ! なんでダンジョンボスが街道歩いてんだよぉ!」
「確かに私はルナリオーラ・ムーンフェイズだが…」
「そういやルナの本名そんなだったな。知ってたのか、というかよく覚えてるな流石は播磨」
「エンプティ様………さすがに酷いですよ………」
「ごめんごめん」
「ルナリオ………誰だ?」
「なんで忘れてんだガル! お前の我儘で百戦以上やっただろ!」
「そうなのか? ルナ覚えてる?」
「いえ、全く」
長いので呼ばれなくなって久しいが、ルナリオーラ・ムーンフェイズはルナの本名だ。ほとんどウーナが一人で名付けた。呼ぶことこそないが、ウーナは今でもバッチリ覚えている。
ルナがダンジョンボスとして現役だった頃、ガル達のパーティはルナに何度も挑んでいたらしい。覚えてないのはガル一人のようで、播磨を除いた他のパーティメンバー達も一様に思い出して苦笑いをしていた。
「まあ、それなら話は早いな。実力はよく知るところだろ。邪魔にはならないから連れて行ってくれると助かる。嫌だってんなら諦めるけどさ」
「………いや、心強いよ。こっちからも頼みたいくらいだ。よろしくな、俺は播磨姫路。播磨でいいぜ。…えっとルナでいいのか?」
「ああ、構わない。こちらこそよろしく頼む」
「よし、まとまったな! それじゃあさっそくシイガス開拓だ!」
「じゃ、俺は帰るわ」
「エンプティ様、御達者で」
「おう、じゃあな!」
長い自己紹介がやっと終わった。ガル達はシイガス開拓のプランの話し合いを始め、エンプティは帰路に就いた。
キャラの名前とか地名とか考えるの苦手だけど、「播磨姫路」は良い仕事したと自負してる。




