イベント17:ハッピーエンド?
本編完結です。
「カフェの制服は男女共通だったけど、体型はわかるし」
自分が貧乳だから、咲弥さんもそうだと思ってたし。
「お化粧してないし、声も高くないし」
すっぴんでもかわいいと思ってたし、ハスキーだと思ってたし。
「ボクって言ってたし」
ボクっ娘かわいいと思ってたし。
「手紙でだけど、はっきり『大好き』って伝えたし」
中学から大学まで女子校で、友達からの手紙に『大好き』って書いてあるのは珍しくなかったし。
「だから、馨さんが誤解してるって、最近まで気づかなくて。
でも、女の子だと思ってるから相手してくれてるなら、男だって言ったら嫌われちゃうかもしれないから、言い出せなくて。
ごめんなさい……」
「……いえ、こちらこそ、気づかなくてすみません」
確かに、最初から男の子だとわかっていたら、これほど萌えなかっただろうし、メル友にもならなかっただろう。
『攻略対象』という前提で見ていたから、女の子だと思い込んでいたが、よくよく考えれば、あのゲームは主人公も攻略対象も性別を選択できる仕様だったのだから、男の子でもおかしくなかった。
改めて咲弥さんを見てみる。
喉仏がうっすらあるし、運動部だろうと思っていたスレンダーな体型も男の子なら普通だろう。
街で偶然見かけただけなら、わかったはずだ。
つまり、すべて自分の勘違いである。
おちこみそうになったが、会話の途中だった。
意識を切り替えようとして、ふと気になったことを聞いてみる。
「……どのあたりで、気づいたんですか?」
「……えっと、今日の約束の相談をメールでやりとりしてる時に、意味がわからない部分があって。
それで、姉に聞いてみたら、意味を教えてもらえたんですけど、『家族だとしても男にはあんまり言わないだろうことだから、もしかして男扱いされてないんじゃない?』って言われたんです。
馨さんとのこと、最初から全部話してって言われて、話したら、『それ完全に女の子相手の対応だよ。女子校出身の子とかそういう感じ』って言われて、自分でも考えてみたら、そうかもって……」
ちょっと赤くなりながらの答えに、墓穴を掘ったと感じる。
『意味がわからない部分』とは、おそらく『貧血の時期』あたりだろう。
確かに、男性相手ならよほど仲が良い相手か家族ぐらいにしか言ってない。
女の子だと思っていたから気にせず伝えたが、うかつだった。
さらにおちこみそうになるのを深呼吸してそらして、考えをまとめる。
「……では、咲弥さんは、女友達としてではなく、異性として、恋愛対象として、私が好きだということですか?」
これ以上話がこじれないように確認すると、咲弥さんはかあっと顔を赤くしながらも、こくんとうなずく。
「……はい。
ボクは、その、ええと、男女の、おつきあいがしたいって意味で、馨さんが好きです。
馨さんにとっては、突然の話になっちゃうだろうけど、考えてみてもらえませんか?」
すがるような上目遣いのまなざしで言われて、内心もだえる。
男だとわかった今でも、かわいいのだから困る。
だが、そこまでだ。
かわいいとは思えるが、恋愛対象とは思えない。
「……以前つきあった男性といろいろありまして、今はもう、恋愛する気はないんです。
咲弥さんだから、ではなく、恋愛自体がめんどくさいんです」
正直に言うと、咲弥さんは悲しそうな表情になったが、小さくうなずく。
「姉さんも、『恋愛はめんどくさい』って普段から言ってるから、そういうふうに考える女性がいるっていうことは、知ってます。
馨さんって、姉さんや姉さんの友達と、雰囲気が似てるから、そうじゃないかって思ってたし。
だから、いきなり恋人としてじゃなくてかまわないから、友達から始めてもらえませんか?」
「……それ、は……」
どう答えればいいか迷って視線をさまよわせていると、咲弥さんがパーカーのポケットに手をやる。
「あ、そうだ、あの、姉さんが、馨さんに見てもらうようにって言われたメールがあるんですけど」
「え?」
咲弥さんは取り出したスマホをしばらく操作して、私にさしだした。
「これ、馨さんに断られそうになったら見せてって。
ボクは中見てないんですけど、写真の下のほうにメッセージがあるそうです。
あ、一緒に映ってるの、全部姉さんです」
渡されたスマホを受け取って、画面を見る。
映っていたのは、子供の頃の咲弥さんのようで、長髪のウィッグと化粧のせいで完全にかわいい女の子にしか見えなかった。
一緒に映っているのは、クール系美少年にしか見えないが、これがお姉さんなのだろうか。
それより気になったのは、二人の衣装が、どこかで見たことがあるものだということだ。
画面をスクロールさせながら写真を見ていくと、いくつかは知らないものだったが、確実に知っているものもあった。
某マンガや某アニメのキャラと同じ服、つまりは、コスプレだ。
お姉さんは、レイヤーなのだろうか。
一番下までスクロールすると、メッセージがあった。
『はじめまして。咲弥の姉の葉月です。
絵師兼男装レイヤーで、職業は一応イラストレーターです。
咲弥は小さい頃から私と一緒にコスプレしてイベント行ったり、私の友達と一緒に原稿のアシスタントしてもらってりしてたので、オタク女子や現実に興味ない系女子に慣れてて、距離感もわかってるので、嫌いじゃないなら、友達から始めてやってもらえませんか。
よろしくお願いします』
「……………………」
さっき咲弥さんが言っていた『雰囲気が似ている』というのは、オタク系という意味だったようだ。
私の擬態はまだまだだったようだ。
しかし、子供の頃からコスプレはともかく、原稿の手伝いは問題があるような気がする。
さすがに十八禁のものは見せていないだろうが、教育上よろしくないだろう。
またも現実逃避してそれかけた思考を、深呼吸して戻す。
スマホに向けたままだった視線をそっと上げると、咲弥さんはじっと私を見ていた。
かわいい女の子だと思っていたから、興味を惹かれた。
女の子だと思っていたから、つきあいを続けた。
だが、男の子だとわかった今でも、恋愛対象と思えなくても、縁を切りたいとまでは、思わない。
ゲーム補正が入っているのかもしれないが、それでも、私自身の考えとして、咲弥さんという個人に、惹かれているのだ。
「……さっきまで女の子だと思ってたので、すぐには、異性としてのつきあいはできません。
でも、……まずは、友達としてで、よかったら。
これからも、よろしくお願いします」
「……っ、はいっ、こちらこそ、よろしくお願いします!」
ぱあっと輝く笑顔は、スチルよりも生き生きしていて、今まで見た中で一番かわいかった。
ああ、本当に。
攻略するべきかされるべきか、それが問題だ。
最後までおつきあいいただき、ありがとうございました。
毎回時間が足りなくて雑な仕上がりでしたので、いずれ手直しします。
本編はこれで完結ですが、番外編として咲弥さんサイドの話をお姉さん視点でまとめる予定です。
最後にもう一度。お読みいただきありがとうございました。




