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イベント16:告白された


 当日、待ち合わせの場所は咲弥さんが泊まっているホテルの前、時間は朝十時にした。

 当初は早朝に家を出るから、一日目の午後と二日目の午前に観光につきあってほしいと言われたが、二日連続は私の体力が持ちそうになかったから、どちらかだけにしてほしいと頼んだ。

 相談の結果、咲弥さんは一日目の夜に到着してそのまま和歌山駅の近くのホテルに行って泊まり、二日目の朝から夜まで観光して、最終の新幹線に間に合う時間に帰ることになった。

 一緒にいられる時間は、合計すれば二日に分けた時とたいして変わらないが、私が自宅から和歌山駅まで出てくるのに片道一時間かかるから、一日で済ませられるようにしてもらった。



「おはようございます! お久しぶりです!」

「おはようございます」


 約束の時間より五分早くホテルから出てきた咲弥さんは、輝く笑顔で言いながら走り寄ってくる。

 下はぴったりした濃紺のジーンズ、上はだぼっとしたベージュのパーカーで、大きめのリュックを肩からひっかけている。

 以前駅で出会った時とほぼ同じような格好に、安心する。

 観光するのにスーツでは来ないだろうと思ってはいたが、どんな服装で来るか聞くのはためらわれた。

 私自身もいつもと同じような服装なので、一緒にいてもそんなにおかしくはないだろう。


「お元気そうで良かったです」

「咲弥さんも、ほんとに体調大丈夫ですか?」

「はい、全然平気です。

 インフルにかかった同期の子の看病とかもしてたんですけど、それでも移りませんでした」

「それはすごいですね……」


 私は二月にかかったところだが、もともと体力はあまりないから、またかかる可能性もある。

 だから、咲弥さんには何度も体調に問題ないか確認したうえで、今日の観光となった。


「ええっと、今日の予定なんですけど。

 観光の合間に早めに昼食と夕食を食べて、十九時すぎには駅に戻ってくる、ということで大丈夫でしょうか?」

「はい、だいじょぶです」

「荷物はそれだけですか?

 他にもあるなら、駅のコインロッカーに預けておいた方が楽ですよ」

「これだけです。

 一泊だし、ホテルに泊まるから、ほぼ着替えしか持ってきてないので」

「そうですか。じゃあ、とりあえず駅に行きましょうか」

「はい!」


 予定では、和歌山城を見にいって、昼食を食べ、動物園などがある和歌山城公園を散策し、早めに和歌山駅に戻ってきて駅の近くで夕食を食べ、十九時すぎの電車に乗る、ということになっている。 

 朝から夜までといっても、観光にあてられるのは実質七時間ほどだ。

 個人的には和歌山の観光名所はやはり白浜だと思っているが、距離的に時間が厳しいので、とりあえずは無難に和歌山城を見に行くことになった。


「わー、近くから見ると、きれいなだけじゃなくて、迫力もありますね!」

「そうですね」


 あたりさわりのない話をしながら電車で移動し、のんびり歩いて和歌山城を目指す。

 地元民だから、小学生の頃に遠足で見にきたことがあるが、大人になってからは初めてだ。

 すぐ近くまで来て、今更なことに気づいた。

 高さはそうでもないが、広さと傾斜を考慮すると、最上階までの上り下りはものすごく疲れそうだ。


「馨さん? どうかしました?」

「あー……咲弥さんは、お城の中、見てみたいですか?」

「んー、高いとこから街を見てみたいなって思ってたんですけど、馨さんが乗り気じゃないなら、今回じゃなくてもいいですよ」

「……ありがとうございます」


 顔がかわいいうえに気遣いもできるなんて、完璧かよ。

 内心で萌えながらも、表情は取りつくろって礼を言う。


「じゃあ、とりあえず散歩しながら、あちこち見てまわりましょうか。

 で、馨さんが見てみたいものがあったら、入りましょう」

「……はい」


 地元民として案内するはずが、いつの間にかリードされている。

 そういえば、ネットで調べまくったと言っていたから、ざっと調べただけの私より詳しいのかもしれない。

 並んで歩きながら、ふと今更な疑問が浮かんだ。


「なぜ、ですか?」

「え?」

「どうして、そんなに優しくしてくれるんですか?」

「それは……」

「客といっても週一ぐらいしか行ってなかったし、特に接点もなかったのに、なぜですか?」

「……………………」


 咲弥さんは困ったような表情でしばらく視線をさまよわせる。


「……座って、話しませんか?」

「……はい」

 

 近くのベンチに一人分の間を空けて座ると、咲弥さんが私の方に身体を斜めに向ける。

 私も同じようにして、なんとなく向かい合うと、咲弥さんはゆっくりと話し始めた。


「『なぜ』って、改めて聞かれると、説明しにくいんですけど。

 一番の理由は、ボクが淹れたカフェオレを美味しそうに飲んでくれたから、です」

「……でも、それは他のお客さんもでしょう?」

「そうでもないです。

 あのカフェは、コーヒーを飲みたい人が来る店じゃなくて、食事や休憩に寄るところだから、コーヒーは『ついで』なんです。

 店で見てても、何かをしながら飲んでる人がほとんどで、中には手もつけずにパソコンいじってる人とかもいました。

 だから、馨さんがゆっくり味わいながら飲んでくれるのが、すごく嬉しかったんです」

「それは、でも、私だけじゃないでしょう?」

「確かに、他にも味わって飲んでくれるお客様は、数人はいました。

 でも、それぐらい、数えられるぐらいだったんです」

「……それは、なんていうか、……さみしいですね」

「……はい。

 だからこそ、馨さんのことがすごく気になりました。

 それだけじゃなくて、食べ終わったら回収しやすいようにトレーを通路側に寄せてくれるとか、トレーを返却する時に『ごちそうさまでした』って言ってくれるところとか、帰り際の声かけに会釈を返してくれるとか、そういう、さりげないけど優しい気遣いも嬉しくて、好きになっていったんです」


 私も、個人サイトで小説を掲載していた時代は、感想をもらうたびに一喜一憂していた。

 いつも好意的な感想をくれる人は、神様のように崇めていた。

 逆に自分がファンだった文字書きさんもやはり神様のように崇めていて、直接お礼を言いたいがために、苦手な遠出と人ごみを我慢してイベントにでかけたりもした。

 咲弥さんが私に感じているのが同じような感情なら、わかる気もするが、何かが、違う気がする。

 ヒロインは 主人公を好きになる設定だから、というのも、違う気がする。

 なんだろう、根本的な何かを、見落としている気がする。


「……そう言ってもらえるのは嬉しいです。

 でも、わざわざ会いにきてくれるほど好意を寄せられるっていうのが、不思議なんです。

 自分で言うのもなんですが、同性にはあまり好かれないほうなので」

「それは……」


 まあ好かれない理由は、私が実用性と趣味優先で、女子特有の協調性がないせいなのだが。

 咲弥さんは、さっきよりもさらに困ったような、気まずいような表情で視線をさまよわせていたが、ぐっと拳を握ると、まっすぐ私を見た。


「……ごめんなさい。

 嘘ついてたわけじゃないけど、黙ってました」

「え?」

「……ボク、…………男なんです」

主人公は、本当に気づいてませんでしたw


誤字などを見つけられたら、右下の『誤字報告』からいただけると助かります。

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