イベント12:プレゼントを用意した(2ヶ月ぶり2回目)
今回も時間が足らず、雑で申し訳ありません。
二月最初の金曜日、人生初のインフルエンザになった。
朝はだるい程度だったが、だんだん熱が上がっていき、午後にはフラフラになっていた。
急ぎの仕事をなんとか仕上げた時には、ぐったりしていた。
仕事以外の話をしない同僚から見てもヤバそうだったらしく、早退するよう強く言われて、四時で退社した。
カフェに寄る気力はなく、まっすぐ家に帰ってベッドに入った。
熱はさらに上がり、土曜の朝には三十九度を超えた。
さすがにヤバいと思ってタクシーでなんとか医者に行って検査してもらうと、インフルエンザだった。
薬のおかげで数日で熱は下がったが、今度は扁桃腺が腫れて水を飲むのもつらかった。
結局一週間仕事を休んで、十四日の月曜から出勤した。
インフルエンザにかかる前は、かわいい店員さんにチョコを渡そうと思っていたが、探しに行く気力も体力もなかったから、諦めた。
帰りにカフェの前を通ったが、かわいい店員さんと遭遇することはなかったから、バレンタインイベントは流されたらしい。
かわりに、違うプレゼントを考えた。
就職祝いだ。
といっても、値段やお返しを気にされるほどのものでは意味がない。
普段使いできる値段とデザインのものが良いだろう。
悩みながら通販サイトで探し回った結果、手拭い生地のハンカチにした。
白地に小さい桃の花が咲いているデザインだ。
本物の桃の花の色に近いおちついた色合いで、手拭い生地だからよけいに和風な雰囲気のものだ。
誰かにプレゼントを買うなんて数年ぶりだから、悩みすぎてわけがわからなくなってきて、最後は勢いで買ってしまった。
失敗したかと思ったが、手元に届いた現物は思っていた以上に良い色で、ほっとした。
百均ショップで買ってきた紙袋とリボンでラッピングをしようとしたら、リボンがうまく結べず、『リボン 結び方』で検索して、半泣きになりながら夜中までかかってようやくラッピングできた。
翌日の金曜日、ドキドキしながらカフェに向かう。
クリスマスの時と違って、今日渡せなくても来週再チャレンジできるが、今月末で辞めると言っていたから、チャンスは今週と来週の二回しかない。
緊張しながらカフェの自動ドアを入ったとたん、注文カウンターにいたかわいい店員さんと目が合った。
かわいい店員さんが、にっこり笑って言う。
「いらっしゃいませ! いつもご来店ありがとうございます!」
ほっとしながらも平静を装って、いつものメニューで注文を済ませる。
隅の席でゆっくり食べながらも観察すると、かわいい店員さんは今日はずっと注文カウンターのようだった。
こちらに来てくれた時に渡せればと思ったのだが、しかたない。
食後のカフェオレを飲み終えて、覚悟を決める。
幸い店内に客は少なく、注文カウンターに並んでいる人もいない。
深呼吸を繰り返しながらトレイを返却口に持っていき、注文カウンターに近づく。
かわいい店員さんと目が合った。
注文カウンター脇からちょいちょいと手招きすると、不思議そうな顔をしながらも寄ってきてくれる。
そっとバッグから取り出した紙袋をさしだした。
「あの、これ、就職祝いです。よかったら使ってください」
「えっ、ありがとうございます! 開けてもいいですか?」
「あ、はい」
「ありがとうございます。うわー、なんだろ」
かわいい店員さんははしゃいだ声をあげながら紙袋を開け、ハンカチを取り出す。
「わあ、かわいい! これ、桃の花ですよね」
「はい。ベタで申し訳ないんですけど」
「いえ、嬉しいです。ありがとうございます!」
ハンカチを薄い胸元にぎゅっと抱きしめるようにしながら輝く笑顔を向けられて、ほっとする。
社交辞令だとしても、一応喜んでもらえてよかった。
「ほんとに嬉しいです。大事にします!」
「良かったです。
仕事中にすみませんでした。失礼します」
「あ、あの、ボク、この前言った通り今月末で終了なんですけど、来週の金曜も、来てくださいますか?」
「え、あ、ええっと、そのつもり、です」
「良かった! 待ってますね!」
「はい……」
「ありがとうございました! またのご来店を心よりお待ちしております!」
いつもの挨拶に送られて、店を出る。
ゆっくり歩いて駅に向かい、改札を通って、ようやく気づいた。
「……『ボク』?」
『自分』もアリだなと思ったのに、やっぱりボクっ娘だったとは。
かわいい店員さん……恐ろしい子だ。
誤字などを見つけられたら、右下の『誤字報告』からいただけると助かります。




