イベント13:ラブレターをもらった(3ヶ月ぶり2回目)
二月最後の金曜日、約束どおりカフェを訪れると、かわいい店員さんが輝く笑顔で迎えてくれた。
「いらっしゃいませ! いつもご来店ありがとうございます!」
「……どうも」
いつも通りの注文を済ませ、隅の席でゆっくりと食べる。
かわいい店員さんが、食後のカフェオレを持ってきてくれた。
「お待たせしました、カフェオレでございます」
にっこり笑顔で言った後、私にだけ聞こえるぐらいの小声で言う。
「これ、ボクが今できるせいいっぱいの技と心を込めて淹れました。
お口に合うといいんですけど」
「……ありがとうございます」
「いえ、ごゆっくりどうぞ」
最後は普通の声量で言って、かわいい店員さんが離れていく。
カフェオレのカップの横には、ハガキサイズの淡い空色の封筒があった。
予想していたから、前回ほど動揺はしなかった。
今すぐ読むか、持って帰って誰にも迷惑かけない自宅で読むか迷ったが、もしかしたら帰る前に返事が必要な内容かもしれないから、ここで読むことにする。
ゆっくり深呼吸して表情と心を整えてから、眼鏡をかけ、封筒を取る。
封はされておらず、二つ折りにされた便箋をそっと取り出して開いた。
【馨さんへ
いつもご来店ありがとうございます。
大好きな馨さんに会えるから、この店で今まで頑張ってこれました。
会えなくなるのがすごく寂しいです。
お暇な時でかまわないので、連絡くださると嬉しいです。
電話 080-xxxx-xxxx
メール xxxxx@hardbank.ne.jp
ボクは四月から新宿の×××××というホテルで働きます。
東京に出てきた時は、ぜひ寄ってくださいね。
新人研修が終わっておちついたら、和歌山に遊びにいきますね。
連絡お待ちしてます♡
咲弥】
「……………………これは予想外」
なんらかのイベントが起きるだろうとは思っていたし、連絡先を渡されるのも想定内だった。
だが、自分でも予想外な点が、心に響いた。
指先でゆっくりと自分の名前が書かれた部分を撫でる。
『馨』という字は、画数が多いうえにバランスが難しいから、書き慣れていないと大きく歪になる。
自分でも書くのが面倒になるから、他人にはさらに面倒で当然で、今まで学校の先生でさえちゃんと書いてくれた人はいなかった。
だが、手紙に書かれた『馨』は、他の字と大差ないサイズにまとまっていた。
おそらく何度も練習してくれたのだろう。
春の空のような淡い青地にところどころ白い雲が浮かぶ便箋に、きちんと並んだ丸っこい文字。
デジタルに慣れきっていたせいか、久しぶりのアナログが新鮮で、くすぐったいような気持ちになる。
だんだんとゆるみそうになる頬をごまかすために、ゆっくりとカフェオレを飲んだ。
「……美味しい」
淹れ方の違いがわかるほどグルメではないが、それでも美味しいと感じるのは、込められた心のおかげだろうか。
ふと視線を上げると、注文カウンターの隅からかわいい店員さんがこっちを見ていた。
どこか心配そうな表情に、思わず口元がゆるむ。
カップを軽くかかげて、『美味しいです』と声を出さずにゆっくり言うと、かわいい店員さんはぱあっと笑顔になった。
どうやらちゃんと伝わったようだ。
一転して幸せそうな笑みから、さりげなく視線を手元に戻す。
突然、数少ない友人から深夜に送られてきた長文メールを思い出した。
こういう心境かと納得する。
推しが尊すぎてつらい。
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