5>再び会見(あいまみ)えること
多可谷が突然姿を消してから、約半年。
北の街にようやく遅い春が吹き込んで来た。
桜もほんのわずかツボミをおこし始めている。
あたしはようやく中学生の制服のブレザーと生活になれて来た頃だ。
…………
あの日、不審な男達に工場へ連れていかれたあの時。
多可谷をかばおうとしたのに、あたしが怪我をして不覚にも気を失っていた間に…全て終わってしまっていたらしい。
目を覚ましたとき、あたしは病院のベットに寝かされていた。
屋根から落ちて来た雪につぶされただの、雪の重みでで切れた電線に感電しただの……
病院側の言い訳はめちゃくちゃ。
その時に気がついた、多可谷の存在に一切ふれようとしない事…
あたしは何も言わなかった。
お母さんに聞かれても何もわからないとしか言わなかった。
本当にわからないから。
……………
「…あいつ、ドコ行っちゃったんだか……」
友達に聞いても、案の定誰も知らなかった。
結局『多可谷 悟』という存在は、あたしたちコドモの中だけに残って、世間から消されてしまった。
今日も、退屈な日が終わろうとしている。
「さてと、自主トレするかな…」
CDプレーヤーとスピーカー代わりのイヤホンを持って裏庭へ向かう。
今日は合唱部顧問の先生の都合で 早くに終わった。
部活だけじゃどうにも歌い足りなくて、先輩に頼んで録音してもらったCD-R。
本当は、歌う事を止めるつもりだった。
アイツを思い出して辛くなるから。
でも、歌わずにはいられなかった。
繋がる先を切り捨てる踏ん切りがつかなくて。
もう一度会いたい…叶うなら、一緒に生きていきたいから。
多可谷は多可谷だから。
「……
人はただ 風の中で 熱い思い 抱きしめているー…」
『その胸に 満ち溢れて 輝きだす 遥かな夢をー』
「……えっ?」
男の人の声が被った。
CDに雑音が入っているのは仕方ないが、歌詞は入れていない。
誰か いる。
音楽は止まらず流れ続く。
それとは別の方向から砂利が軋む音がした。
「…………誰?」
振り返った先に居たのはウチの学校の制服とは違う、学ランの男子生徒だった。
「…この姿では、はじめましてだね。『多可谷 悟』です。 よろしく。」
「……ぇええっ?!!」
多可谷と名乗った男子は、あたしよりも頭一つくらい背が高くて、短髪。
登山用みたいにゴツいリュックと、ジャージの入った透明なビニル袋を肩にかけている。
あたしの知っている多可谷とは違う。
「……誰から聞いたのか知らないけど、悪ふざけは勘弁してよ。あたし、もう騙されないから…
三人に騙されてるんだから、本気で怒っているんだからね!」
その男子を突き飛ばすと、あたしは片付けをはじめた。
「冷たいなぁ、海神は。ようやく『研究所』から家出してきたのになー?」
「!!」
身体が凍り付いた。
「…詳しい話は省くけど、せっかく『オレ』の『機械の身体』、作り直してもらったんだけど。」
長い沈黙。
ようやく出た言葉、
「………ぅそ…?」
「本当。」
風が 吹き上がった。
パシッ!
「ただいま。」
「…おかえりッ!!」
おもいっきり叩きつけた手の平がヒリヒリする。
明日からは思い切り歌える、そんな気がする。
まだ冷たい風が 火照った体にとても気持ちいい日和になった。