それが、荊の道だと言うならば
早朝。
僕はほんの一時間程度の睡眠から目覚めた。
君は僕のとなりで、未だに寝息を立てている。
床に落ちていたネグリジェを拾うと、僕はそれを着た。
白いワンピースとレースの下着も広い、それを君に着させてあげる。
僕は汗と体液で濡れた自分の体の臭いを嗅いだ。
ツンとした君の臭いが感じられ、不思議と幸せな気分になった。
今までずっと空っぽだった自分の胸が、心が、満たされた。
そんな気がした。
「……イリス、そろそろ行こう?」
「うん……」
君の頭をゆっくり撫でると、ぼんやりとその目を開いた。
未だに、下腹部が暖かく感じる。
互いにセイを引き継ぐ為の行為に至った僕らは、不思議な温もりを感じていた。
夢を見る少女と、夢を見る機械の間に産まれる命。
その姿が一体どんなモノなのか。
何せ、恐らく前例が無い事だろうから。
……どちらにせよ、マザーを破壊しない事には、この悪夢が終わらない事には変わりない。
新たな未来を、命を引き継ぐ為に、この悪夢を終わらさなければ。
「立てる?」
「大丈夫。シエルも頑張ってるだろうし、私達も、あと少しだもんね」
ベッドから立ち上がり、刀の刃の様子を見ながら君が言った。
そして自分の腹部を撫でてから、優しくほほ笑んでいた。
小屋を出て、死体が揺れる川を上流の方へ遡っていく。
この地下空間に空は無く、照明が吊るされた天井があるのみだ。
地上では生きられなかった人間が落とされる場所だから。
しかしもはやここには殆ど人の気配が無かった。
全滅したと見ても間違いでは無いだろう。
「……マザーを殺した後の世界って、そこには何が残るんだろう」
「え?」
「だって、この世界はマザーが見てる夢なんだよね……そんなマザーを殺せば、この世界は消滅するし、アウターハートの世界も機能しなくなる。そうなったら、どうなるんだろう……」
「……分からない。でも、分からなくてもいいんだ。人類の進化を、可能性を停滞させる支配者は、必要無いって、お母さんに教えてあげないと」
暫く進んでいくと、道が上の方へ向かっているのに気付いた。
進んでいる道の先には、天井の方へと向かっている、木々に包まれた山があった。
君は少し身構えて、山を睨む。
そして僕もその気配には気付いていた。
なにかが居る。
それはリンカーとも人間とも似つかない、もっともっと悍ましい、憎悪の塊のような何かの気配が……。
「……ここを超えれば地上に続いている」
「うん。行くしか無いね」
僕と君は互いに目線を合わせ、頷き合った。
そして僕らは、その暗い森の中へと、踏み込んだ。




