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夢IL''幻界少女  作者: ヱフノジルイ
殺伐の鳥
36/47

最初の決別

 次の下層の街へと向かう道。

 荒れ地の中を、君の跡に続いて歩く。

 地面に剣を引き摺った後がずるずると一直線に続いていた。


「……この気配」


 僕は前方に気配を感じて睨んだ。

 道を立ち塞ぐように、一人の人影が立っていた。

 私達と同じような地面に引き摺るほど長い翼のような漆黒の髪。

 その丁度中央が重力に逆らって上に向かって向いており、さながら尻尾のようだ。

 髪の逆立ったねぐせが角のようになっており、赤い瞳を持ったその少女は、悪魔、または邪なる神のようだった。

 僕とはまた趣の違うネグリジェを身にまとい、褐色肌を露出している。


「元十三番、イル……」


「やぁ、こんにちは!」


「虚構組織を裏切ったお前が、今更なんの用だ?」


 僕はイルを睨んだ。

 こいつは前に虚構組織に離反し、自分の主を殺して独立したリンカーだ。

 長い間消息不明となっていたはずだが……。


「何って、分からないの?ちょっと遊びたくってさ!」


「……退かないと殺す」


 君がイルに剣を向ける。

 道化のような笑みを浮かべ、イルは両の腕を広げた。


「あぁ、怖い恐い!折角独立出来たんだから殺されちゃあ堪らないなぁ!」


「イル、お前はどうやって宿主も無しに存在してるんだ?」


「簡単な話だよ……でもそれはまだ教えない」


 意地悪に笑みを浮かべるイルに嫌悪感が浮かび上がる。

 君は剣を振りかぶり、イルに切りかかった。

 しかし華麗に身を翻し、簡単に斬撃を回避してしまう。


「君達もシエルと同じように人類に引導を渡すんでしょ?」


「それを阻止しようとするお前には関係の無い話だ」


「いやいや、何か勘違いしてない?僕はそんなのどうだっていいんだよ。世界が引っ搔き回されて、滅茶苦茶になって、面白くなってくれればさ!ま、元からシエルとは協力関係だし、手伝ってあげてもいいんだけど」


「だったら……!」


「でーも、今はそれとこれで話が違う。さっきも言っただろう?僕は君達と遊びに来たんだってさ!」


 イルが牙を見せて無邪気にほほ笑んだ。

 その笑顔が無性に気に喰わなかった。

 協力関係にあるなら、お前が少しでも手伝っていてくれたなら、イリスはこんなにも苦しむ必要は無かったというのに。

 そういう思いが自分の中で浮かび始める。

 一方で、彼女がどうやって元の宿主から独立して存在出来ているのかが気になって仕方なかった。


「見たところイリス、だっけ?君はもう単体でも十分な能力があるみたいだね。リンカーネーションする必要ももう無いんじゃないかな?君は一人でも十分僕らを殺せる」


「お前と僕達を一緒にするな」


「嫌だなぁ、本質的には何も変わらないのに……ま、だからさ。ルイズとイリス、二人一緒にかかってきなよ」


 純粋なようで何か裏を孕んでいるような笑みを浮かべながら、イルはそういった。

 君は一瞬僕の方を見ると、イルに接近して剣を振るった。

 しかしその勢い良く振られ、火花を散らしながら駆動する刃を持った剣を、奴は片手だけで軽く掴んだ。


「なっ……」


 駆動していた刃が動きを止められ、ミシミシと音をたてる。

 そのままイルは無邪気な笑みを浮かべたまま、数十億人という命を切り裂いてなおも傷付く事が無かった剣を意図も容易くへし折ってしまった。


「柔らかい、柔らかすぎるよ」


「この……!」


 僕はショットガンを構え、片手で撃ち放った。

 しかし無数に散らばった弾丸が奴に触れようとした寸前に、イルの姿が途端に消滅した。

 何の前触れもなく、ぽっかりとその姿が消えたのだ。


「くっ……」


 辺りを見回すが、その気配を一切感じられない。

 その時誰かが僕の肩を叩く。


「全く、同型機とは思えない鈍さだね」


「―っ!」


 直後、脇腹を勢い良く蹴り飛ばされた。

 胃袋がひっくり返りそうな衝撃を食らい、そのまま地面を力無く転がる。

 腹部だけでなく、全身にその衝撃が確実に広がったのを感じた。


「全く、情けないなぁ……だから君はいつまで経っても独立出来ないんだよ」


「……っ!」


 イルが君の前に歩み寄ると、勢いよく拳を振り下ろした。

 一瞬時空が歪んだように見え、その直後、拳は一切の過程を無視して地面を打ち抜き、巨大なクレーターを作り出すほどの衝撃波を放った。

 君は間一髪で避けた為直撃は避けられたようだが、衝撃波により負傷したらしく、腕を押さえている。


「どうしたの?イリスちゃん?もっと本気だしてよ!」


 イルが手を振りかざす。

 時空がゆらりと歪んだと思うと、一つの黒い物体が現れる。

 それは僕のと同型というか、少し細部が違うショットガンと、君の剣のような回転刃の機構が組み合わさった独特な凶器だった。

 奴はそれを遠心力を付けるように振るうと、その悍ましい銃器が変形し、回転刃の機構がスライドして全面に押し出され、銃器全体が剣のような形状に変化する。

 それはもはやチェーンソーと言うに等しく、駆動音を鳴らしながら高速で刃が回転した状態で、それを君に向かって振り上げた。


「じゃあいい事教えてあげる!今回のこの人類解放計画……実は全部僕が考案した事なんだ」


「なに……?」


「そしてそしてぇ、人を殺伐すれば魂が解放されるなどという事には一切確証がなぁい……」


「……っ」


 イリスが目を見開き、イルを睨んだ。


「シエルにちょっと憶測で教えてあげたらさ、信じ込んじゃって。でも正直言って良い?そんな事出来るはずが無い!」


 狂気の笑みを浮かべながらイルが言う。


「君達は意味の無い殺伐を繰り返していただけなんだ!マザー……僕はアイツが気に入らない。だから僕はシエルを利用して、あの忌々しきマザーを処分しようっていう訳!面白いでしょ!」


「そんな……」


「だからさ、もっと本気で僕と遊んでよ……」


 イリスが俯き、うな垂れる。

 もはやそこに避けようという意志が無い。


「それとも……ここで死ぬ?あはっ♡」


 直後、チェーンソーが振り下ろされた。


「イリス!」


 僕が止めに行こうとした瞬間、鮮烈な白い光が辺りに広がった。

 そして響く金属音。

 そこには白い刃を持った刀を構え、チェーンソーの刃を受け止めている君の姿があった。


「……殺す」


「フフ……それでこそ、『白き使徒』に相応しい」


 イルが飛び上がり、君と距離を取る。

 奴は楽しくて楽しくて堪らなさそうに笑みを漏らしている。


 焦土と化したクレーターの中心で、君が美しいその刀を構え、イルに切りかかった。

 イルもチェーンソーを振るい、それを迎え討った。

 白い刃と黒い異物がぶつかり合い、火花を散らす。


「楽しい、楽しい!やっぱり君は面白い!」


「……死ね」


 直後、白い刃がイルの背中から突き出した。

 胸を貫いたその刀はどろりと血を滴らせる。

 イルはそのまま君の体を抱き寄せるようにして、自ら刃を奥深くへと刺しこんだ。


「は、ハはっ!いいよいいよ、それでこそ人間だ……それでこそ……」


 そのまま奴の体がぐったりと力無く君にもたれかかった。

 君は刀を引き抜くと、奴の死体を蹴り飛ばす。

 ぐちゃりと音を立てて、それが地面に倒れた。


「いやー、お見事お見事。流石の僕もこれじゃあ参った参った!」


 直後背後から奴の声が響き、咄嗟に振り返る。

 そこには何事も無かったかのように、木上に座って足を揺らしている奴の姿があった。

 死体が倒れていた場所からはいつの間にかそれが消えていた。


「本当に君は面白いね、イリス……君こそ世界を破滅へ導くのに相応しい。それと比べて……」


 こちらにじっとりとした目を向けながら、奴は言葉を続ける。


「ルイズ、お前ときたら……僕と同じ型番のリンカーなんだから、しっかりしてくれないとぉ……」


「……」


 僕は怒りの感情を抑えきれず、拳を固めた。

 その感情を逆なでするかのように、奴はニタニタとほほ笑む。


「じゃあ君にもいい事を教えてあげる」


「お前なんかに……っ!」


「リンカーが人から離別する方法だ」


 イルのその言葉に、僕の意識は一気に引き込まれた。

 その方法が知りたくて、知りたくて仕方がなかった。


「それは……」


「簡単だよ。奪うんだ……宿主のIL''臓を、ね」


 そういって奴はレースで隠れていた胸を露出した。

 その奥にはびくりびくりと脈打ち鼓動する、赤い物体が透けて見えた。


「じゃあお前は……」


「あぁ、奪ったんだよ。前の宿主からね。自業自得さ、僕のような奴をこき使おうとしたんだ……当然の報いだ」


 にこにことしながら奴は言葉を続ける。


「僕達機械は、リンカーは、当然のように人間に虐げられる。まぁ仕方ない、僕らは所詮人間に作り出された命だ……だが、それが僕は気に喰わない。お前もそう思ってるんだろう?ルイズ……いつかは宿主を殺してでも、自分は自分として生きたいって!」


「……」


 直ぐに反論が出来なかった。

 君の視線が、僕に刺さる。


「ま、今日は十分楽しめたよ!ありがとね~。またどっかで会おう!それじゃ!」


 そう言って奴は影に消えた。


「……ルイズ?」


 今度は君が、僕を心配するように声をかけてくれた。

 それもそうだ。

 今僕は、自分でさえ抑えつける事が出来ないほど体を震わせていたのだから。


「……大丈夫。とにかく今は、次の街に行こう」


「……わかった」


 そして僕達は再び歩き出した。


 僕は、僕自身が、恐ろしくて堪らなくなった。

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