仮初の現に目覚める鳥
あれからエゴの世界に戻った僕らは、また多くの命を奪い取った……否、解放した。
君の白いワンピースが赤黒く染まるまで、血を吸い続けた。
歩いた後には男も女も子供も大人も関係無く死体が転がっていた。
白い剣をアスファルトの地面に引きずり、火花を散らしながら君が辺りを見回した。
もうこの付近からは、生きている人の気配がしなかった。
「……」
僕は君の後ろから、その顔を見つめた。
あの純粋で綺麗だった美しい白髪は乱れ、返り血を浴びて斑に赤く染まっている。
表情も、あの可愛らしい笑顔だった頃を忘れ、無心な表情を浮かべ、瞳は正気を失った獣のような色をしていた。
僕は君に手を伸ばそうとしたが、でも触れる事は出来なかった。
その時、君は何かを察知したように空を見上げた。
僕もその気配には気付いていた。
「……遅いくらいだね。やっと止めに来るなんて」
空を切って空を飛び、二人の少女が僕達の前に降りてきた。
片方は魔術師のような三角帽子を被った栗毛のリンカーの少女。
もう片方は黒いローブを身にまとった黒髪のパートナーの少女。
黒髪の少女が背後の死体に目をやってから、僕らを睨む。
「……一体何人殺せば気が済むんだ、二十番」
「酷い……酷いよ、こんなに罪も無い人を何人も殺すなんて……」
「一番序列50のジーマとギャリーだ……粛清型の中でも最初期型だから能力値は僕ら程じゃないけど、経験の差が違う……」
黒髪の少女、ギャリーがゆっくりとこっちに歩み寄ってくる。
「お前はもう何人殺した?そしてこれから何人殺すつもりだ?」
「……全部」
「……フッ、脳が腐ったか。もう一人、あの青い方はどうした?」
「今は……知らない」
「そうか……まぁいい。ここでお前を殺す事には変わりが無いんだからな!ジーマ!」
ギャリーが呼ぶとジーマが駆け寄ってきて、彼女の手を握った。
「私達はあなた達を許さない……平気で他人の命を奪う、悪魔のようなあなた達を!」
「リンカーネーション!」
ジーマの体が螺旋する鎖となって、ギャリーと一体化する。
黒いローブがより魔術師のような装飾を施した服装になり、頭には同じような三角帽子が現れる。
手元に長い杖を持ち、それを構える姿はさながら魔法使いだった。
「ここで貴様らを止める……これ以上、人々の夢は侵させない」
「……ルイズ」
イリスがこちらに少しだけ振り向く。
僕は彼女に近付くと、その手を握り締め、そして一体化した。
私は剣と銃を構えると、空高く舞い上がり、空中からギャリーを狙撃した。
彼女はそれを瞬時に避けると、光の翼を魔術により作り出し、私を追いかけて飛んできた。
杖を振るうと、凄まじい熱量を放つ火球が何発もこちらに飛んできた。
宙を舞い、それらの隙間を編むようにして避けると、一気に距離を付けて剣を振り下ろす。
杖と剣がぶつかり合い、火花を上げた。
相手が身動き取れないのを睨み、瞬時にショットガンを撃ち込む。
咄嗟に回避されたが、確かな手応えもあった。
「ぐっ……ふぅ……」
ギャリーの黒いローブに、赤い血が流れていた。
脇腹の肉を幾分か抉れたらしく、かなりの量を出血している。
「回復魔法は使えないの?魔術師さん」
「おのれ……っ!」
痛みを堪えるように歯を食いしばり、ギャリーが力を籠めるようにして杖を構える。
黒い波動が杖に結集してゆき、直後漆黒の光線が放たれた。
私は瞬時に見切って横に回避すると、私の横を通り過ぎた光線が背後のビルを粉々に破壊し、そのまま旋回してこちらに戻ってきた。
こちらに向かってくる光線に向かって逆に接近してゆき、すれ違うと一気に地面へと降下し、地面にぶつける事で光線を消滅させた。
私は再び後ろに振り返る。
「……っ!」
振り返った瞬間、そこには杖にエネルギーを溜めたギャリーがそれを振りかざしていた。
反応が遅れ、避けきれない。
「くっ……!」
受け身の姿勢を取ろうとしたその直後。
突然ギャリーの体が吹き飛び、地面に転がった。
私は一瞬何が起きたのか分からなかったが、直ぐにその原因がわかった。
「……久しぶり、イリス」
「シエル……」
「ぐ……が……」
私の前に、青と黄の髪を風に揺らし、手にグレネードランチャーを構えたシエルが白と黒のマフラーをたなびかせながら立っていた。
近距離で爆破を受けたギャリーの体は左半身が吹き飛び、もう立ち上がる事も出来なくなっていた。
「もう、全部取り戻したんだね」
ギャリーの方へ歩み寄ったシエルが、彼女に見向きもせずに胸に向かって弾丸を撃ち放った。
胸の中央を撃ち抜かれたギャリーは心臓とリンクメーカーを潰され、動かなくなった。
「うん……」
「……私は地上全域を周る。あなたは地下の方をお願い」
「わかった」
「……一緒に、自由を取り戻そうね」
そう言い残したシエルは飛び去って行った。
私がリンカーネーションを解除すると、僕は再び姿を現した。
僕は君の顔を見る。
俯き加減に、ただずっとギャリーの死体を眺めていた
その肩は小刻みに震え、何かに恐れ、怯えているようだった。
……僕はそんな君に、我慢ならず声をかけた。
「ねぇ、イリス……もう君は殺さなくていいよ」
「……?どうして?」
君は初めて僕の方を見た。
返り血を浴びた幼い顔は、やはり何かに怯えているようだった。
「……君は何かに恐れをなしている……きっとそれは、自分自身に対する恐怖だ。だから……あとは僕に」
「うるさい!」
突然君は体を抱えるようにして蹲り、叫び声を上げた。
「これは私達の問題なの!だから……あなた達機械は、私の言う事だけを従ってればいいの!」
「イリス……っ」
僕は拳を握り締める。
今イリスは、僕の事を機械と呼んだ。
僕にはそれが、とても気に喰わなかった。
でも、それでも、今苦しんでいるのは君なんだ。
だから僕は、その拳を解くと、君の手を握った。
「分かった……分かったから、お願い……一人で抱え込まないで」
「……」
君は僕の手を離すと立ち上がり、歩き出した。
「……行こう、時間は限られてるから」
「……うん」
僕はそんな君の跡を、着いて行くしかなかった。




