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夢IL''幻界少女  作者: ヱフノジルイ
殺伐の鳥
34/47

仮初の現に目覚める鳥

 あれからエゴの世界に戻った僕らは、また多くの命を奪い取った……否、解放した。

 君の白いワンピースが赤黒く染まるまで、血を吸い続けた。

 歩いた後には男も女も子供も大人も関係無く死体が転がっていた。

 白い剣をアスファルトの地面に引きずり、火花を散らしながら君が辺りを見回した。

 もうこの付近からは、生きている人の気配がしなかった。


「……」


 僕は君の後ろから、その顔を見つめた。

 あの純粋で綺麗だった美しい白髪は乱れ、返り血を浴びて斑に赤く染まっている。

 表情も、あの可愛らしい笑顔だった頃を忘れ、無心な表情を浮かべ、瞳は正気を失った獣のような色をしていた。

 僕は君に手を伸ばそうとしたが、でも触れる事は出来なかった。


 その時、君は何かを察知したように空を見上げた。

 僕もその気配には気付いていた。


「……遅いくらいだね。やっと止めに来るなんて」


 空を切って空を飛び、二人の少女が僕達の前に降りてきた。

 片方は魔術師のような三角帽子を被った栗毛のリンカーの少女。

 もう片方は黒いローブを身にまとった黒髪のパートナーの少女。

 黒髪の少女が背後の死体に目をやってから、僕らを睨む。


「……一体何人殺せば気が済むんだ、二十番」


「酷い……酷いよ、こんなに罪も無い人を何人も殺すなんて……」


「一番序列50のジーマとギャリーだ……粛清型の中でも最初期型だから能力値は僕ら程じゃないけど、経験の差が違う……」


 黒髪の少女、ギャリーがゆっくりとこっちに歩み寄ってくる。


「お前はもう何人殺した?そしてこれから何人殺すつもりだ?」


「……全部」


「……フッ、脳が腐ったか。もう一人、あの青い方はどうした?」


「今は……知らない」


「そうか……まぁいい。ここでお前を殺す事には変わりが無いんだからな!ジーマ!」


 ギャリーが呼ぶとジーマが駆け寄ってきて、彼女の手を握った。


「私達はあなた達を許さない……平気で他人の命を奪う、悪魔のようなあなた達を!」


「リンカーネーション!」


 ジーマの体が螺旋する鎖となって、ギャリーと一体化する。

 黒いローブがより魔術師のような装飾を施した服装になり、頭には同じような三角帽子が現れる。

 手元に長い杖を持ち、それを構える姿はさながら魔法使いだった。


「ここで貴様らを止める……これ以上、人々の夢は侵させない」


「……ルイズ」


 イリスがこちらに少しだけ振り向く。

 僕は彼女に近付くと、その手を握り締め、そして一体化した。


 私は剣と銃を構えると、空高く舞い上がり、空中からギャリーを狙撃した。

 彼女はそれを瞬時に避けると、光の翼を魔術により作り出し、私を追いかけて飛んできた。

 杖を振るうと、凄まじい熱量を放つ火球が何発もこちらに飛んできた。

 宙を舞い、それらの隙間を編むようにして避けると、一気に距離を付けて剣を振り下ろす。

 杖と剣がぶつかり合い、火花を上げた。

 相手が身動き取れないのを睨み、瞬時にショットガンを撃ち込む。

 咄嗟に回避されたが、確かな手応えもあった。


「ぐっ……ふぅ……」


 ギャリーの黒いローブに、赤い血が流れていた。

 脇腹の肉を幾分か抉れたらしく、かなりの量を出血している。


「回復魔法は使えないの?魔術師さん」


「おのれ……っ!」


 痛みを堪えるように歯を食いしばり、ギャリーが力を籠めるようにして杖を構える。

 黒い波動が杖に結集してゆき、直後漆黒の光線が放たれた。

 私は瞬時に見切って横に回避すると、私の横を通り過ぎた光線が背後のビルを粉々に破壊し、そのまま旋回してこちらに戻ってきた。

 こちらに向かってくる光線に向かって逆に接近してゆき、すれ違うと一気に地面へと降下し、地面にぶつける事で光線を消滅させた。

 私は再び後ろに振り返る。


「……っ!」


 振り返った瞬間、そこには杖にエネルギーを溜めたギャリーがそれを振りかざしていた。

 反応が遅れ、避けきれない。


「くっ……!」


 受け身の姿勢を取ろうとしたその直後。

 突然ギャリーの体が吹き飛び、地面に転がった。

 私は一瞬何が起きたのか分からなかったが、直ぐにその原因がわかった。


「……久しぶり、イリス」


「シエル……」


「ぐ……が……」


 私の前に、青と黄の髪を風に揺らし、手にグレネードランチャーを構えたシエルが白と黒のマフラーをたなびかせながら立っていた。

 近距離で爆破を受けたギャリーの体は左半身が吹き飛び、もう立ち上がる事も出来なくなっていた。


「もう、全部取り戻したんだね」


 ギャリーの方へ歩み寄ったシエルが、彼女に見向きもせずに胸に向かって弾丸を撃ち放った。

 胸の中央を撃ち抜かれたギャリーは心臓とリンクメーカーを潰され、動かなくなった。


「うん……」


「……私は地上全域を周る。あなたは地下の方をお願い」


「わかった」


「……一緒に、自由を取り戻そうね」


 そう言い残したシエルは飛び去って行った。

 私がリンカーネーションを解除すると、僕は再び姿を現した。


 僕は君の顔を見る。

 俯き加減に、ただずっとギャリーの死体を眺めていた

 その肩は小刻みに震え、何かに恐れ、怯えているようだった。

 ……僕はそんな君に、我慢ならず声をかけた。


「ねぇ、イリス……もう君は殺さなくていいよ」


「……?どうして?」


 君は初めて僕の方を見た。

 返り血を浴びた幼い顔は、やはり何かに怯えているようだった。


「……君は何かに恐れをなしている……きっとそれは、自分自身に対する恐怖だ。だから……あとは僕に」


「うるさい!」


 突然君は体を抱えるようにして蹲り、叫び声を上げた。


「これは私達の問題なの!だから……あなた達機械は、私の言う事だけを従ってればいいの!」


「イリス……っ」


 僕は拳を握り締める。

 今イリスは、僕の事を機械と呼んだ。

 僕にはそれが、とても気に喰わなかった。

 でも、それでも、今苦しんでいるのは君なんだ。

 だから僕は、その拳を解くと、君の手を握った。


「分かった……分かったから、お願い……一人で抱え込まないで」


「……」


 君は僕の手を離すと立ち上がり、歩き出した。


「……行こう、時間は限られてるから」


「……うん」


 僕はそんな君の跡を、着いて行くしかなかった。

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