昔懐かしハイカラ街道
木造の列車に揺られて約小一時間。
僕らは目的の世界へと到着した。
列車を降りれば、そこは本当の意味で別世界だった。
今までの煌びやかな、ごちゃごちゃしたカオスな風景とは一変。
落ち着いた木造建築のレトロな街並み。
江戸時代末期から明治、大正、場所によっては昭和初期頃といった様々な年代が入り乱れた印象を受けるその景観は。
夢幻城砦とは違ったカオスさを感じるが、どこか懐かしさも感じた。
そんな風景を歩く僕らは少し身なり的にも場違いな気もしたが、まぁこの様子なら問題ないだろうとも思った。
町を散策してみたい気持ちもあったが、やはり今回の目的は温泉宿なので、そちらに直行する事にした。
地図を頼りに古めかしい街並みを行く。
道中魅力的な店が沢山あった。
西洋かぶれな雰囲気のお洒落な喫茶店や、何処か懐かしさを感じる菓子を売っているお菓子屋さん。
渋い色合いの茶器を売る店に、ガラクタとも言えるべき大小様々な物を売っている骨董品屋。
君はそれらの全てに目が移るようで、通りがかる度に何か言いたげにもじもじしたりしていた。
「まぁ、帰りによってみようか」
僕がそういうと、君は晴れやかな顔をしてうんうんと頷いた。
そんな君が、ちょっと可愛く見えた。
待ちゆく人々も、皆風景に溶け込むような衣装をしている。
袴を着こんだ女性。
学ランに下駄を履いたバンカラな男性。
浴衣を着た子供。
時代を感じさせる衣服を身にまとったその人々の顔は皆、黒く塗りつぶされたような、影となっていた。
そんな不思議な風景を楽しみつつ進んでいくと、見上げる程に大きな施設が見えてきた。
「あっ、あれですね」
それは煌びやかな行燈を屋根の上に並べ、美しく輝くも少々お化け屋敷のような印象も感じる、古風で和的な外観をしていた。
建物からは巨大な煙突が何本か聳え立ち、濛々と黒い煙を吐いている。
巨大な宿屋は川を挟んで対岸にあり、僕と君はその川の上を渡す橋の上を歩いて行った。
橋の上には様々な形をした、薄色の人影達が行きかっている。
「楽しみですね!」
「うん、そうだね」
さぞ楽しそうに目を輝かせている君を見て、僕も不思議とほほ笑んだ。
僕と君は手を繋ぎ、宿屋の暖簾を潜ってみせた。




