玄鶴宿屋
建物の中に入ると、受付に案内された。
黒い影のような受付嬢に料金を支払うと館内着と入浴セットを貰い、部屋の鍵も渡された。
建物内はとても広く、階層が何層にも重なっているようだ。
中央は吹き抜けになっており、綺麗な花々が管理されている中庭が見える。
温泉は中庭を超えて裏にあるようだ。
僕と君はとりあえず館内着に着替えて、ワンピースとネグリジェを洗濯に出そうと、部屋へ向かった。
階段を上っていき、部屋を探す。
鍵に付けられていたタグを手掛かりに、部屋を探した。
「あ、ここじゃないかな?」
鍵の番号と一致している部屋を見つけ、鍵を開けてドアを開いた。
二人で使うには十分過ぎる、広い和室だった。
部屋の中央にはちゃぶ台が置いてあり、茶菓子と急須が置かれている。
僕はとにかくこの湿った薄布から着替えようと部屋に上がり、ネグリジェを脱ぎ始めた。
脱いでみると支えを失った胸の重さが一気に肩にのしかかる。
館内着である浴衣を着てみると久々に包まれるような布面積の多い服に妙な安心感と違和感を同時に覚えた。
「……」
僕が着替えてる姿を、君はただ黙りこくってぼーっと眺めていた。
「どうしたの?」
「あっ、はっ、いやっ!だ、大丈夫です!私も脱ぎます!」
「いや脱げとは要求してないけど……」
君は何故か顔を真っ赤に染めて、ワンピースを脱ぎ始めた。
僕はその間、急須に茶葉を淹れ、ポッドからお湯を注ぎ、部屋に置かれていたブラウン管のテレビの電源を入れた。
妙な幾何学的な模様が代わる代わる表示されている。
「あの……下着、どうしました?」
「え?着てないけど」
「えぇ……」
君はどうやら替えの下着が無くて困っているようだった。
僕は元々ネグリジェで下着と一体型だったために替えるも何も無い上に、浴衣を着るなら別に下着は着けてなくても問題ないために僕は着けていないし履いていない。
「抵抗あるなら仕方ないけど、濡れたままの着てると風邪ひくよ?」
「そ、そうですよね……」
白いワンピースを脱いだ君は、渋々と下着姿になる。
あまり口に出すと君を傷つけかねないから言わないが、男の子並みに胸が平坦だった。
年齢的には僕と君では差は無いはずだ、というか見るからに同い年だ。
君の発育の遅さに、僕は少し心配な気持ちと憐れむ気持ちを覚えた。
僕が湯呑に茶を注いでいると着替え終わったらしく、もじもじとしながら浴衣を押さえている。
「な、なんかスースーします……」
「そんなテンプレな感想言われてもなぁ……はい、脱いだの貸して」
君からワンピースと下着を受け取ると、部屋に備え付けられていた洗濯機に放り込んだ。
いや、恐らく洗濯機だろう。
かなり僕の知ってるモノとは形状が違うが、きっとそうに違いない。
スイッチを入れて部屋に戻り、僕と君でちゃぶ台を囲む。
僕はあぐらをかいてちゃぶ台に頬杖をついている正面で君は畳の上で正座をして、両手で湯呑を持ってぼーっとテレビを見ている。
「あのさ」
「はい?」
僕が声をかけると、君はきょとんとした顔でこっちを見た。
「僕と君、名前はまだ分からないけど、もう友達じゃん?」
「そう、ですね……友達……」
君は湯呑の中の茶に映った自分の顔を見つめている。
「だからさ、君が良ければ、もう敬語はやめない?」
「……」
君は暫く唖然とした顔で、僕の事を見つめた。
でも直ぐに表情を崩して、にっこりと笑った。
「うん……そうさせてもらうね」
「ふふっ、ありがとう」
「うぅん、お礼を言うのは私の方だと思うから……気にしてくれてありがとう」
ほほ笑む君に、僕も笑い返した。
その君の優しい笑みに、僕は何処か、何故か、懐かしさを感じる、そんな気がした。




