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46ー7 大騒動

「んー……ん″⁉」


 バッと顔を上げると、肩にかけられていた薄い毛布が床に落ちた。どうやら寝すぎて(・・・・)しまったらしい。


「コントロール出来ないのは久しぶりだなぁ……」


 あっちとこっちの行き来は自分の意思で行える。


 移動するときは寝ないといけないが、移動するか否かはスイッチのオンオフが可能だ。


 それと浅い眠りや簡単な気絶等だと移動はしない。


 だが稀に軽く寝るつもりがガッツリ寝てしまうと自分の意思に関係なく反対側の世界に意識が移ることがある。


「あー、首が痛い……」


 ゴキゴキと首をならしつつ顔を洗いに行くと、途中で何かに抱きつかれ、そのまま一瞬の浮遊感。パッと目の前の景色が変わった。


「りゅう、ちょっと手伝ってー」

「なぁ、結城。本人の意思なく連れ去るってこれを拉致と呼ぶんじゃないのか?」

「幼馴染みだから!」


 風間に拉致され着いたのは見覚えのある公園だった。


「なぁ、ここ……」

「覚えてる? 昔皆で遊んだよね?」

「ああ、覚えてる」


 藤井が調子にのって立ち漕ぎして落下したブランコに、皆で木登りした大きな楠。どれもこれも、懐かしい。


「……? あれ? でもこの公園って確か取り壊されたんじゃ―――」

「動くな」


 風間の手にはリボルバー式の拳銃が握られている。いや、風間ではない。


「……誰だ」

「忘れちゃうなんて、酷いな」


 風間の姿をした別人がニヤリと笑う。


 銃を突きつけられたまま、天宮城は小さくため息をついた。


「随分落ち着いてるんだね?」

「慌てても進まないだろ」


 どうせ解放してくれそうもないし、と呟いて両手を上げた。


「皆はどうなってる」

「君の幼馴染み達かな? 彼らは関係ないからね」

「……パスワード狙いじゃないのか」

「そんなもの興味ないもん」


 情報の開示に億単位で要求されるデータをそんなものとは、一体何を目論んでいるのだろうか。


 風間とよく似たその人は天宮城の腕に枷を嵌めてどこかに連絡をとった。


「はーい、うん。確保完了。傷はつけてないしこっちもついてないよ。そっちは? あーそっか。じゃあ眠らせればいい? うん。了解」


 通話を終了し、にこやかな笑みを浮かべてポケットから取り出した小さい袋を天宮城に手渡した。


「そこにはね、睡眠薬がはいってるんだ。死にはしない量だから安心して。精々数日寝込むだけだから」

「これを飲めと?」

「うん」


 正直、こんなもの今すぐにでも投げ捨てて逃げたいところだが今の天宮城はここから脱出する術がない。それに、相手の能力があまりにも不安定で計れないのだ。


 天宮城の部下である吉水は様々な能力が集まって気持ち悪いことになっていたが、この人の場合は能力値が不安定すぎて底も上限も不明なのだ。


 逆らったらどうなるかわからない以上、今は従うしか手がない。


 毒薬かもしれないのに飲み込まなければならないというのは軽く恐怖だ。


 一息に飲み込んだが今すぐ吐き出したいくらい嫌である。


「よし、飲んだね? じゃ眠気がくるまでお話ししよーよ」

「………」


 近くのベンチに誘われる。座らなければならないようだ。


 このベンチの木の臭いも皆で遊んだあの時と同じ。


「どうして、今はない公園が?」

「君の記憶に深く残っているみたいだったからね。ちょっと頑張って再現してみたんだ」


 ということはやはり亜空間作成系の能力者なのだろう。


 その後も情報収集という名の世間話をした。


 彼(男性らしい)のあだ名は烈火、口うるさい上司と可愛くて仕方ない部下がいる。ペットは昔犬を飼っていた、などなど。本当にどうでもいい話ばかりだった。


 聞かなくても話してくるので情報収集にはうってつけかもしれない。このお喋りを上手くコントロールできれば、という但し書きがつくが。


「ぁ……急に眠い……」


 薬が効いてきた途端、目を開けているのが辛くなってきた。ベンチに背を預けて静かに目を瞑る。


「ふふ。おやすみなさい」


 最後に聞こえた声は、大分遠いところから聞こえた気がした。







ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー







「あれ……?」

『ん。アレク起きた』

「きゅ」


 目を開けると、凛音とスラ太郎が覗き込んできていた。


「おはよ……」

『おはよ』


 窓の外に目をやると、大分明るくなっていた。半日近く寝ていたらしい。


【では参りましょうか】


 馬に変身したスラ太郎に乗せられて大樹の元へ飛ぶように走っていく。


 前回は想像以上の揺れと過ぎ去っていく景色に酔って周りを全く見ていなかったが、花畑なんかもあってきれいだ。


『ルペンドラスが近いから、花も育つ』


 何でも、世界樹の周りでは植物がよく育つらしい。


「だからこの辺りの空気が綺麗なんだな」

『ん』


 久し振りにこの木を見上げてみると、とてつもない大きさだと改めて思う。


 これほど巨大な木が世界中の誰にも気づかれないとは、流石は世界樹といったところだろうか。


【お供えしましょう】

「ああ、そうだな」


 ルペンドラスの下にある小さな窪みに凛音と作った縫い包みをそっと置いた。


 食べ物では腐ってしまうので、今はこういうものを供える方がいいだろう。


 凛音はこの木と生きているが、木自体の意思ではない。ルペンドラスにはルペンドラスの意思がある。凛音とは似て非なるものなのだ。


 だから、こうやって動けない木に代わって凛音達神精霊は契約者さえいれば好きに動き回れるのだ。


「旅の途中で、凛音と作りました。また今度別のものをお持ちします」


 動物達が集まってきたので、木のみを乾燥させたものを配ってあげた。こうしていると、現実の方で捕まっているのを忘れてしまいそうだ。


 その日は、凛音はただひたすらにルペンドラスに向かって旅のことを報告し続けていた。


 天宮城もそのとなりで凛音の拙くも可愛らしい旅の思い出を聞いていた。


 ざわざわと木の葉が擦れて天宮城の膝の上に数枚の葉が落ちてきた。


「?」

『あげる。って』

「そうか。ありがとうございます」


 幹に触れながら礼を言うとまたざわざわと木の葉を揺らした。ある程度自分でも動けるらしい。


 木の葉には解毒や治癒の効果があるのでとても重宝するだろう。収納にいれておけば劣化することもない。


 ルペンドラスの木漏れ日を頬に感じながら、一時の安らぎに心を落ち着かせていた。

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