46ー7 大騒動
ルペンドラスに別れを告げて昨日描いた絵を見ながら場所を鮮明に思い出す。
「うん、いけそうだ」
大きく息をついて柏手を打ち、目的の場所まで移動した。
『大丈夫?』
「一回同じ距離を飛んだからね。加減もわかったし、そこまで気持ち悪くはないよ」
眠気も今のところはない。
【では参りましょうか】
スラ太郎に乗って暫くして、天宮城がなにかに気づいて顔を上げる。
「スラ太郎、ちょっと待って」
立ち止まるよう合図をして周囲をぐるりと見渡す。
「アインとシオンさんがいる気がする」
『どこ?』
「多分……あっち。スラ太郎」
【御意】
天宮城が指差す方向にスラ太郎が走り出した。
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「ぁ………」
「どうしたの、シオン?」
二人で買い物を楽しんでいたら突然江原の動きが固まった。
視線の先には、黒目黒髪の女が二人いる。獣の面影もないその姿は変装を解いた江原や天宮城、琥珀と特徴が一致している。
「っ! 急いで奥に!」
事情を察して即座に自分の身で江原を覆い隠して雑貨屋の中に入っていくアイン。
だが、一足遅かった。
「ちょっと待ちなさいよ。あんた江原でしょ?」
「面白い格好しちゃって、なにそれ? 変装してるつもり?」
固まる二人に詰め寄ってくる。
「あ、あなた達には関係ないでしょ!」
「へぇ、口答えするんだ? 江原のくせに」
咄嗟にアインが間に入る。無意識に自身の契約武器である錫杖を取り出していた。
「待ってください。私の同僚になにかご用ですか」
「同僚? なに、あんた」
「彼女と同じ店で働いている者です」
そのアインの言葉に二人が同時に吹き出す。
「なに、こんなやつ雇ってんの? 馬鹿だねー、あんた」
「どんくさくて仕事にもなりゃしないっつーの」
なんでそんなことを決めつけるんだとも思うがここで下手な対応をするといろいろと面倒なことになるのは明白だ。
なんとかして撒きたい。
「彼女はよくやってくれています。売り上げだって上がってるんですから!」
その売り上げをあげたのはほぼ天宮城の動きだが、それは黙っておく。売り上げが上がったのは事実なのだから。
「おい、君達! なにをしているんだ!」
「あっ」
見回りをしている兵に見つかった。こちらは武器まで出してしまっている。言い逃れは難しそうだ。
「……町の外に出ろよ。そこなら文句いわれないよね?」
そう言われて一旦兵から逃げるために分かれた。ここで逃げるのも有りかと思ったアインだが、意外にもシオンがそれを拒んだ。
「私、もう逃げたくない。アインちゃん。私行くよ」
なにかを決心した表情になったシオンを見て、アインが小さくため息をついた。ただ、そのため息は呆れに近いものだ
「わかった。一緒に行くよ」
「でも関係ないでしょ」
「関係あるよ。友達だもん。ほら、早く行こう」
シオンを引っ張って門の外に出ると、既に二人が待ち構えていた。
「怖じ気づいて逃げるかと思ったけど」
「逃げないって決めたから」
両者臨戦態勢である。その瞬間、ふいに現れた『それ』によって張り詰めた空気が一気に恐怖に変わった。
人に邪魔されないようにと街道からすこし離れすぎたせいか、魔物がこちらに気付いてしまったようで木々を圧し折りながら襲いかかってきた。
亜竜のワイバーンである。
「「「っ⁉」」」
ワイバーンなんてそうそうお目にかかれるものではない筈なのにこんな街道近くに出るなど誰が予想するだろうか。
アインでも見たことがない。
「シオン、下がって! 放電!」
咄嗟に魔法を使ったが、詠唱を省きすぎたせいで殆ど威力は弱まっているしそもそも亜種とはいえ竜に簡単な魔法が効く筈もない。
遠距離では無敵の天宮城か魔法の発動が早い凛音なら対応できるかもしれないが、回復魔法が専門のアインではこれに効くレベルの魔法となると溜めに相当時間が必要になる。
「くっ……!」
振り上げられた爪を錫杖で弾くが、一発が重すぎてそう何度もやっていられない。たった一回弾いただけでもう取り落としそうだ。
「アインちゃん‼」
「大丈夫!」
全然大丈夫ではないが今は虚勢をはるしかない。火力の高い攻撃をどう放つかが問題―――
「キャアアアア!」
「イヤァアアアア! 何でもするから助けて‼」
外野がうるさい。
距離をとって呪文に専念したいが、ワイバーンもそうさせてくれない。
強靭な顎をガチガチとならして威嚇をしてくる。
上から振り下げられた爪をもう一度弾く。びりびりと手が痺れるが絶対に取り落とすわけにはいかない。グッと握り直したその時。
真横から鞭のようにしなる尻尾が襲いかかり、アインの体は軽々と吹き飛ばされた。
離すものかと握り締めていた手はあっさりと錫杖を離れ、召喚が解除された錫杖が光の粒になって周囲に拡散する。
「アイン‼」
二度程バウンドして動きを止めたアインに駆け寄ると、腕の骨が完全に折れていて、口の端から血を流していた。気絶しているが、呼吸はしている。
「う、嘘でしょ……アイン! アイン‼」
習いたての回復魔法を使うがかすり傷程度の傷が数個塞がっただけだった。
「どうしよう……アイン、死なないで……」
涙が止まらない。このままではアインも、そして自分も死ぬだろう。背後でズシンズシンという足音が徐々に近づいてくるのがわかる。
「グォオオオオン!」
振り向くと、眼前に迫ってきていた。江原はアインをぎゅっと抱き寄せて自らを盾にアインに覆い被さる。
人一人くらいまるっと飲み込めるほどの大きさの口が開かれた瞬間、ワイバーンの腹が破裂して大きくよろけた。
「テメェエエエ! うちの従業員に何してんだこのヤロォオオオ!」
二発、三発と連続してワイバーンの巨体が爆発して大きく揺れる。
四発目はそれまでとは違い、当たった瞬間にその周辺を凍てつかせ、五発目で雷が可愛らしく感じるような雷電が身を一片残らず焼き尽くす。
断末魔の悲鳴をあげ、倒れたときの地響きが振動となって地面から伝わってきた。
「アイン! シオンさん! 無事かっ⁉」
巨大なバズーカを片手に持った天宮城が黒馬に乗ってやって来た。因みに前に凛音もいるのだが小さすぎて見えなかった。




