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46ー5 大騒動

「本当にごめんなさい!」

「いえ……伝えてなかった僕も悪いので……」


 耳を触られただけなのに、足に力が入らない。膝が常に前方に押されているような感覚だ。


 仕事だと気を張っていたので気絶しても耳が戻らなかったのが幸いである。


「では、出来上がり次第……お届けしますので……」


 もはや満身創痍である。


 敏感だとは言われていたが、まさかここまでだとは思っていなかった。正直、もう頼まれても触らせたくない。


 なんとか歩くことができるまで待って、船に戻った。


 着いた瞬間膝が限界を迎えたが。








「あの、これの色違いとかって」

「はい、ございますよ。少々お待ちください」


 なんとか復活してからは先程のことを忘れようとしているのか、とてつもない速度で客を捌き始めた。


 急いで動いている訳ではないのに、どの行動にも恐ろしく無駄がないのでスピードが滅茶苦茶速く見えるのだ。


 というか、来店してからレジに来るまでの速度が半端ではないのでそっちが間に合わなくなっている。


 最早スラ太郎がお釣りを渡しているという異常な状況が出来上がっているのだ。


 まずそもそも店内に魔物がいることがおかしいのである。


 くるくると働く天宮城のおかげで満員電車のごとくぎっちぎちに詰まっていた客がどんどん引いていく。


 その代わりにどんどん従業員が疲れていくのだが。


「おい、どうした? もうへばってんの?」

「お前が異常なだけだ……」


 昼休憩の時にまだ平然とした顔で立っていたのは天宮城だけだった。とてつもない体力である。


 もうリビングに行くのも面倒なのでその場で昼食を食べながら、


「で、これからどうする?」


 琥珀が天宮城に予定の確認をいれる。


「皆にはこのまま店で働いてもらう。俺はイリスさんの商店に納品分を持っていくから」


 この店は基本移動する上、管理や経営が面倒だからという理由で支店を作らない。


 その為に事前に予約して購入する人の分はイリスの店で管理してもらっている。


 イリスの商店はそれこそ世界中にあるので預けておくぶんには便利なのだ。


 イリスも天宮城の商品を買うために訪れた人たちのお陰で自分の店も潤うと喜んで貸している。


「明後日から一週間はお休みにしようと思うんだけど」

「「「えっ」」」


 全員の動きが見事にピタッと停止した。


 天宮城が休みにするなんて自分から言い出すのは本当に珍しいのである。アインなど天宮城がまた無理して病気にかかったのではないかと一瞬心配した(以前にも何度かあった)


『アレクからそう言うの、珍しい』

「俺は俺で用事あるしな。凛音も一回あそこ()に帰るだろ?」

『! ん』


 確かに、ルペンドラスに行って帰ってくるには最低でも四日は必要だ。ある程度ショートカットするとはいえ、周りに怪しまれないようにカムフラージュすることを考えたらそれくらいは必要である。


「ってことで、皆も自分の小遣いで一週間好きに遊べば良いさ。あ、シオンさんの分は後で渡します」


 観光の時間はいつも島につく度にあった。


 だが、塩の流れが変わる前に次の島に行かないと場所によっては何日も足止めされることもあるのでゆっくりとはしていられなかった。


 だが、一応目的を果たせた(凛音の友人に会いに行く)ので急ぐ必要もない。ゆっくりしても問題ないのだ。


「きゅー!」

【拙者はご主人様にお供いたします】


 軟体動物という胸が存在するのかわからないが、そのない胸を張ってスラ太郎が文字を書いた紙を掲げる。


「じゃあ私はシオンと一緒に町を回ろうかな。シオンはシュリケ初めてでしょ?」

「うん! 美味しいものとかあればいいなぁ」


 後は琥珀とシーナだが。


「すまないが、少し気になることがあってな。別行動させてもらう」

「私も少し私用が………」


 琥珀がこう言い出すことはなんとなくわかっていたが、シーナまでそういうのは意外だった。


 天宮城についていく、とでもいうのかと。


「そっか。じゃあまぁ、この話は夕飯の時にもっと詳しくしよう。俺はちょっと行ってくる」

『私も行く』


 凛音も急いで口のなかに残ったハンバーグを詰め込んで天宮城の後を追う。


「では、私達もそろそろ始めましょうか」

「そうだな」


 再び、開店を表すランプが明かりをつけた。


 イリスの商店に到着した二人だったが、問題が起こった。


「納品分足りてない?」


 なんと、持っていった数と注文を受けた数が違った。


「そうみたいだな。こちらにはワンピースは53枚とあるが」

「そんなに⁉ こちらでは40枚って聞いていた筈なんですが」


 数枚程度なら今すぐ店に帰って持ってくるのに、13枚も持ってきたら店に置く分がなくなってしまう。ただでさえ常に品薄状態なのに。


「いいや、こちらではそう記録してある。それも今日中にだ」

「今日中に13枚は―――」

「持ってこれないなら違約金を払ってもらうぞ?」


 天宮城は様々な理由から商人ギルドのランクをあげていない。


 今イリスの商店に品を置いてもらっているという状態にある天宮城はもしその期限を守れなかったりすると違約金を払う義務が存在する。


 ランクが上がればギルドが身分を保証してくれるのでそんなことにはまずならないのだが、天宮城の権利ではただ店を出しても良いですよということが認められているだけのようなものなのでこの場合ではまず役に立たない。


『アレク……』

「……わかりました。違約金はおいくらでしょう」

「そうだな、全商品の売り上げの三割ってところか」

「⁉」


 滅茶苦茶だ。税金分と違約金、それと経費を引いたら殆ど手元には残らない計算になる。


 稼いではいるので金に困るようなことはないが、あまりにもな発言に一瞬言葉を失う。


「……今日中に13枚、ですよね?」

「ああ」

「じゃあ今から作ります。それで良いでしょうか?」


 言うが早いが速攻で先程買ったばかりの布を目で計って裁断していく。


「迷惑だぞ!」

「ええ。ですがイリスさん……師匠からの許可はいただいていますので」


 相手を全く見もせずにどんどんと手を動かしていく。


 凛音も天宮城の帽子のなかに隠れていた精霊達と一緒に布が動かないように手で押さえたり、新しい布を用意したりと忙しなく動き回る。


「はい、一枚」

「っ⁉」


 スッと横におかれたそれを見てみると、布のズレもなく、また細部の刺繍まで完璧にこなしてある。


 文句のつけようのない素晴らしい出来だった。


「二枚」


 この商店の従業員は機械のように一寸の狂いもなく動いていく天宮城の手の動きに、ただただ唖然として見守るしかなかった。

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