46ー4 大騒動
「失礼いたします」
断ってからなかに入ると、執事になにか言い寄っている最中だった。一瞬入ったことを後悔する。
「あ。やっときた。さっさとしてよ」
「では、失礼して」
即座にウエストや肩幅を計り、一瞬で脳内にドレスの形を思い浮かべる。
「どんな色がお好きですか?」
「あー、じゃ、オレンジ」
「かしこまりました。他にご要望は?」
「適当に可愛くしといて」
「……かしこまりました」
ここまでオーダーメイドの商品の商談が早く終わったのは初めてだ。というか、雑すぎるだろう。
だが、これ以上天宮城もここに居たくなかったのでさっさと逃げるようにして次の部屋に向かう。
「失礼します」
次の部屋でも茶色に髪を染め上げた女子高校生が執事を口説いていた。暇なんだろうか、この人たちは。と思わないでもないが。
なぜこうも揃いも揃って執事を口説こうとするのか不思議でならない。競争でもしているのだろうか?
「えっと、ドレスのサイズや形ですが……」
「適当にやっといてー。さっさと出てけよ」
「……かしこまりました」
サイズすら計らせてもらえなかった。まぁ、見れば大体わかるので無難なやつにしておこう。
個人的に腹が立ったので滅茶苦茶変なやつにしてやりたいところだが仕事だし、下手な事をすればイリスにも迷惑がかかる。ここは我慢するべきだろう。
「あの、礼服の件ですが」
「なんだよ、男かよ。チッ」
男で悪かったな、と内心で悪態をつきながら即座にサイズを計る。
「デザインはどんなものに致しましょうか?」
「あんたが来てるやつがいい」
「これ、ですか? 構いませんがこれは人狼の礼服ですが」
「いい。色は青な」
「は、はぁ………」
まさか袴を要求されるとは思っていなかった。もう突っ込むのすら面倒なので最後の部屋に向かう。
「失礼します」
「どうぞ」
最後の一人は先程の三人より落ち着いていた。
ちゃんと要望も伝えてくれるし、仕事は一番しやすい相手だろう。
「あの、人狼、なんですよね?」
「ええ」
「私を噛み殺したりとか、しないですよね?」
「⁉ 何故⁉」
「いや、その、私の故郷でそういうゲームがあって……」
ああ、人狼ゲームか。と納得はしたものの、ここであっさりそうですかと言っても何だか不自然なので、
「えっ。噛み殺すんですか?」
「いや、そういう設定のゲームなだけで……。それに人狼なんて実在しませんし」
「実在してますが……?」
「こっちの世界では、そうですけど。私の故郷では人間しかいなくて」
天宮城はこれくらいにしておこうと口をつぐんだ。
これ以上下手に喋るとボロが出そうなので。
あとは相槌くらいにしておこうと適当にその話を切り上げてからドレスの見本が描いてある紙を数枚見せる。
「この辺りでしたらお似合いかと思いますが、どうされますか?」
「これとかちょっと大胆すぎるかな……」
「あまり露出が多くないほうがよろしいですか? ではこちらなど如何でしょう」
微調整を繰り返しつつ、頭のなかでイメージ画が出来上がっていく。
「色は薄い緑、あまり露出せず、それでいてスカートも長すぎない……そうですね。少しお時間いただけますか?」
「? どうぞ」
許可をもらったので急いで紙に頭に浮かんだ絵を片っ端から描き写していく。
「この中でしたら、どれがよろしいですか?」
「あ、凄い……絵、上手いんですね」
「商売柄、こういった構図を描き写すのが癖になっていまして」
「えっと……じゃあ、これがいいです」
「かしこまりました。ではこちらでご用意させていただきます」
最終確認を終えてから席を立とうとすると、扉が突然ノックもなしに開いた。
「おい、美桜。お前……? 誰だこいつ」
「先程お会いしましたが……。僕は洋服屋の―――」
「あー、影薄くて忘れてた。で、なんでただの洋服屋のお前がこの部屋にいるんだ? あ?」
「ドレスのデザインを―――」
「ああ、わかったからどっか行けよ」
聞いといて追い出そうとしてくる。まぁ、どうせここをさっさと出るつもりだったので関係ないが。
「はい。では失礼します」
天宮城も暇ではないのだ。こんな空気の読めない男に構っている余裕はない。
「あ、あの‼」
「なんでしょう?」
「その、耳を触らせてくださいっ!」
「へ?」
部屋から出ようとしたその瞬間に呼び止められてしまった。しかも要求が要求である。
人間として、その気持ちには多いに共感できるがタイミングが少々悪い。
「か、構いませんが……」
無視することもできないのでならば即座に終わらせてもらおうと帽子をとる。
「ぴゃぁああああ!」
「ぅわあああ⁉」
憧れのアイドルを目前にしたアイドルヲタクみたいな奇声をあげながら理性が崩壊したのか突如飛びかかってきた。
避けるわけにいかず即座になんとか抱き抱える姿勢をとる。
「あっ、ちょ、お止めくださ―――っ£%#&*⁉」
耳をこれでもかと揉みくちゃにされて声にならない悲鳴をあげる。今まで、少し触らせてください。と言われたことはあれど、ここまでやられたことはない。
全身から力が抜け、完全に馬乗りされている状態になっても抵抗できない。
「なにこれ、滅茶苦茶柔らかい!」
「…………」
半分白目を剥いて気絶しかけている天宮城の様子に気づくことなく、兎に角触りまくる。
大分後になって知ったのだが、人狼族にとって耳と尻尾は特に敏感な部位らしくあまり長時間触られると気絶するのだそうだ。
感覚が鋭敏すぎて気絶する、というのはなんとも間抜けな弱点である。しかも別に痛いとかそんな感じではなく、ただひたすらにくすぐったいだけなのだ。
ある意味天宮城にはキツい。痛みなら慣れているし痛覚も鈍いので耐えれるのだろうが。
「………」
そしてその様子を見ている第三者はなんとも言えない表情で女子高校生が獣耳を弄くり回す光景を見ていた。
そして天宮城が気絶して数分後にやっと満足したのか馬乗りになっていた体勢から体を起こして立ち上がる。
「ありがとうございました、アレクさん!」
晴れ晴れとした顔でうつ伏せになっている天宮城に頭を下げる。
「おい、美桜。……そいつ、気絶してるぞ」
「え?」
耳がぺたんと伏せられ、ピクリとも動けなくなっていた。




