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46ー3 大騒動

 江原を受け入れるという話になってから四日後、天宮城の作業部屋に江原が訪れた。


「えっと、アレクさん? 入っていいですか」

「どうぞ」


 恐る恐る扉を開けて、小さく驚きの声をあげた。


「この中ってこんな風になってたんだ……」

「いつでも布が取り出せるように、壁全部に棚があるんです。ちょっと面白いでしょう?」


 しかも天宮城はどこになんの布があるのかすべて把握しているらしく、慣れた手付きで布を取り出していく。


「洋服を作る場所っていうより……実験施設みたい」

「確かにそうかもしれませんね」


 広いテーブルにはいくつも箱が置いてあって、そこからはリボンや糸が顔をだしている。


 実験施設みたい、とは言ったがとても可愛らしい実験施設だ。


「それで、どうされたんです?」

「この前話してたアレクさんの能力で……私を返してもらうことって出来ますか?」

「さぁ? どうでしょう」

「え」

「試したことがないので。それになんのリスクもないという保証はありませんし」


 強い力だからこそ、使い方を誤ったら大変なことになるのは当然だろう。


 何とかしてやりたいが慎重に慎重を重ねるくらいが丁度良い。


 それと、気になることがあった。


「シオンさんは他の方々とこちらに来られたんですよね?」

「はい」

「変なことに、シオンさん達がこちらに来て相当時間が経っているにも関わらず一切話題に上がらないんです」


 少なくとも数人が行方不明になっているのに、ニュースに上がらない。


 天宮城も自分で調べてはいるのだが、全く情報がない。


「今こっちでも調べてはいるんですが……。何が起きているかわからない以上、実験もなしに急いで帰るのは危険かと」

「そうですか……」

「すみません。僕の能力が不安定なばかりに」


 完璧に扱えていない天宮城も悪いところはあるのだ。


 だからこそ急いで動いて事故を起こすわけにはいかない。


 そうすることの危険さを誰よりもわかっているから、余計にそう思うのだ。


「アレクさんは悪くないですから、謝られても……」

「……シオンさん。貴女はこちらに来たときに一緒に来た人達と仲が良いんですか?」

「? いいえ。寧ろ苛められてたくらいで……」


 天宮城はそうですかと小さく呟くように相槌を打ち、暫く考え込むように瞬きをしてから再び口を開いた。


「明日から、恐らく貴女と一緒に来たと思われる人間の方々がこちらに来るそうです」

「ど、どうして……?」

「人間は英雄視されていますから、各国に存在をアピールしておいて悪いことはないです。大分前から決まっていたそうで、僕も仕事が入っています」


 もし会いたくないのなら居住スペースにいた方がいいだろう、と付け加えて、


「ですが、人間の凱旋ということは町も盛り上がります。ちょっとしたお祭り騒ぎになることでしょう」

「?」

「そんな雰囲気のなかに一人だけ入れないのは辛いでしょうから」


 帽子の上にいる精霊達になにかを囁くと、天宮城でも手が届かない位置にある棚から精霊達がなにか持ってきた。


 よくよく見てみると、ミサンガだった。


「これはシーナに渡しているものと同じ魔法がかかっています。種族を偽る幻影の魔法」

「じゃあアレクさんはいつもそれを?」

「いえ、僕の場合はなんかやってみたら出来たって感じなので参考にはならないかと」


 確かに参考にはなりそうにない。


 感覚です、といわれても出来ないものは出来ないのだ。


「どんな人種になりたいですか?」

「じゃ、じゃあ……うさぎ」

「兎人族ですね。少々お待ちを」


 グッとミサンガを握りこんで深く息を吐く。一瞬光った気がした。


「はい、これで大丈夫なはずです」

「これだけ?」

「千切れるまで効果は続きます。ONとOFFは念じれば出来るようになっているので今少し試してみてください」


 言われるがままに足首にミサンガをつけて念じてみる。


「出来たんでしょうか……?」


 無言で鏡を見せてくる天宮城。白い兎の耳が頭の上からピョコンと生えている。思っていた以上になんかシュールだった。


 これじゃない感が半端ではない。


「な、なんか思ってたのと違う」

「大丈夫だと思いますよ。筋肉の塊みたいなおっさんがうさぎ耳生やしてるより全然」

「極端すぎません?」


 実際に見たことがある天宮城としてはこっちの方が断然良い。


 客として店に来た人だったのだが、あれはちょっとトラウマになるレベルだった。夢に出てきそうだった。夢を見ることがない体質にここまで感謝する日が来るとは思わなかった。








「来ましたね」

「遅かったでしょうか?」

「いえ。早いくらいですよ」


 人族のドレスを作るというのが天宮城の仕事だが、ドレスを作るにあたってサイズやどんな色が良いか等色々と聞かなければならないことがある。


 だから面会は必要なのだが、その手続きがとてつもなく面倒だった。


 手続きを終わらせるためだけに丸一日消費した。


「人族様ってどんな方なんでしょうね」

「え? あ、ああ、どうでしょうね……」

「緊張してるんですか?」


 イリスが考えている緊張と天宮城が今感じている緊張は全くの別物なのだろうが、別にどっちでも緊張していることにはかわらない。


「緊張してますね……」


 主にボロを出さないか心配なだけなのだが。


「わかりますよ……私も心臓バクバクです」

「ですね……」


 お互いバクバクさせているのは違う理由である。しかも互いに緊張を煽って冷や汗まで出てきた。


「もう到着はされているんですよね」

「らしいです。私たちくらいですよ、先に知らされてるのは」

「え、皆知ってるんじゃないんですか?」

「混乱が起きないようにというのと、人族様は船旅に慣れていらっしゃらないそうで」


 普通にシオン達には話してきてしまったが大丈夫だろうか。一応こっそりと琥珀に心のなかで言いふらさないように言っておく。


「あ、いらっしゃったみたいですよ」


 イリスが興奮した面持ちでその場に跪いた。天宮城も慌てて跪く。


 数秒後、見張りの兵によって扉が開けられて件の人物が入ってきた。天宮城は声からシオンと同い年くらいだなと判断した。


「お初にお目にかかります、人族(ヒューム)様。Sランク商人、ドワーフののイリスでございます。後ろの彼は私の弟子、人狼のアレクです。本日はこの場に出向いていただき―――」


 つらつらとイリスによる自己紹介と貴族の対応をするときの定型文が述べられる。


 彼らは貴族ではないので、ぶっちゃけ名前だけでも駄目ではないのだがイリスなりの拘りがあるそうなのだ。


 それと、天宮城をガッツリ弟子だと紹介しているが大丈夫だろうか。


 元々イリスは弟子をとらないことで有名だったのに。天宮城が自分は弟子だと言い張っているよりか、イリス本人が言っているので良いのかもしれないが。


「―――本日は、よろしくお願い致します」


 長い挨拶が終わったあと、一人ずつ別室へ案内して天宮城とイリスが紙と布の見本をもって回ることになっている。


(胃が痛くなってきた気がする………)


 だが当の本人は、度を越えて緊張していた。

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