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「遊びに来るの!?」

 ヴォルカが話しをし始めて二時間後。


 遠くで監視していたルナは、入った酒場で酒を飲みながら二人が号泣しているところを見て少し引いていた。ついでにダイにも逐一報告する。


『泣いておる』

「なぜだ」

『さぁ、遠くて聞こえん』


 コミュ力お化けのヴォルカは相手の懐にうまく入り込んで情報を引き出せているらしいが、如何せん何を話しているかはさっぱり聞き取れないので、待っているだけのルナとダイには辛い時間である。


 しばらくするとヴォルカが立ち上がってルナに手信号を送った。


 相手にはバレないよう、相手が立ち上がるのを支えながら途轍もない速さで送ってきたのだから、ルナも見落とすところだった。その手信号の内容は【作戦終了】と【待ち合わせ場所に集合】の二つである。話し込んでいるようで、しっかり役割は果たしてくれていた。


 早速ルナはダイにその旨を伝え、ふらつきながら酒場を出る二人の後をこっそりと尾行した。


 相手が足取りもおぼつかないほど飲ませることに成功しているので自然と肩を組む形に誘導しているのは流石と言わざるを得ない。あの体勢ならすぐに逃走することもできないだろう。


 待ち合わせ場所は、町の中央にある市場の奥だ。他国に入り込んでいる状況なので本当はもっと目立たない場所で集合したかったのだが、集合場所の下見をした際、裏道に入るなり見るからに治安が悪くなったので表通りで集合することにしたのである。


 ギルドは先ほどの酒場より近いのでダイが待ち合わせ場所で待機する形になった。


 そして当の本人は肩を組んだままダイの元へ案内され、ヴォルカに不思議そうな表情を向ける。


「えっと……この人は?」

「友達や。ダイさん、この人はテオドールさん。聞いた話しを総合すると、被害者やで」


 一応敵対関係の状態である相手と肩を組んだままのヴォルカに若干戸惑っていたダイだが、ルナからの情報を伝え聞くになんとなく予想はしていたので案外落ち着いていた。


「被害者……そうか。詳しく聞こう」


 ダイが近くにある宿屋に向かって歩き出すと、ヴォルカもそのあとに続く。


「え? 被害者? なに?」

「ええから。そんじゃ、ちょっと休もか」


 先ほどまで結構互いにフラフラだったはずなのに、ヴォルカがここにきた途端に足取りがしっかりしたので若干訝しんでいる。実際、ヴォルカは殆ど酔っていない。正確には、酔い自体を毒消しの効果を持つカードで打ち消したのだ。


 本気で酔うつもりもなかったのだが、相手の出方を見るために先に酔っ払ったふりをしていたのである。


 相手の考えていることを敏感に察知できるヴォルカが情報集めの時に使う手段の一つだ。人間誰しも、相手が酔ったら自分も酔っていいという気分になりやすいものである。


 謎に信頼関係も出来上がっていたので、案外簡単に誘導することができた。ダイや白亜がやったらこうはならないだろう。少なくとも白亜なら、まず確実に実力行使に入る。


「宿はとってある。三階の角部屋だ」

「おお、結構豪華やな」

「一応この国で最高級の宿らしい。まぁ、リグラートのそれとは比べものにならない程小さいが」


 リグラートは大国だ。小国の最高級レベルの宿なら各街に一つ以上、王都なら数軒は見つかるだろう。その分値段も跳ね上がっているが。


「何日も泊まったりするつもりはないが、安宿では防音性が心配なのでな。さて、話しを聞こうか」


 部屋に入るなり説明を求めるダイに、ヴォルカは頷いてからテオドールに語りかける。


「テオ、この人は確実に味方になってくれる人や。さっきの境遇をもう一回聞いてもええか?」

「え、あ、ああ……」


 雰囲気に流されたのか、それとも単純に完全に酔いが回っていて判断力が鈍りきっているのか。どちらにせよテオドールは一瞬の躊躇を見せた後にポツポツと喋り始めた。


「し、信じられないかもしれないけど……ボクはこの世界の人間じゃなくて……妹と一緒に飛ばされたきたんだ。……森に落ちて、食べ物がなくて、死にかけたところをランベールって人が助けてくれたんだけど……その人、三週間前に山菜採りに行ってから、帰ってこなくなって……妹がここにきてからずっと体調が悪いから、毎日薬を飲ませてるんだけど、そのお金がなくなって、今お金を稼いでるところなんだ。前の世界から持っていた能力を使って」


 前の世界から持っている、ということは日本組のような『この世界に来てから得た能力』ではなく、白亜の気力のような『元から備わっていた能力がこちらでも使える』という状況なのだろう。


 異世界人だったという事は概ね予想通りである。


「なるほど。その『前の世界』では能力を持っている者は多いのか?」

「え、あ、はい。だいたいみんな何かしらは……っていうか、信じてくれるの……?」

「ああ。異世界人は珍しいといえば珍しいが、いないわけではない。この国ではどうかは知らないが、某等の住む国では少し前まで団体で転移してきた者達がいたのでな」


 クラス丸ごと転移してきた日本組のような事例は多くはないが、知られていないだけで実は案外たくさんいるのかもしれない。


「そ、その人達は今、どこに!?」

「む? 元の世界に帰ったぞ。たまに遊びに来るが」

「遊びに来るの!?」


 時々白亜に頼み込んで日本組のメンバーが遊びに来ることがある。本来はあまり許されたことではないが、チカオラートが気にしていないので好き勝手やっている。


 テオドールがやたらと聞きたがったので、軽くリグラートの話をする。


「そ、そんな国があるんだ……そこに行けば、帰れるかもしれないんだね」

「まぁ……そうだな」


 一番の難関は白亜が『異世界に渡してあげたいと思えるほど気に入るかどうか』ではあるが、傲慢な相手でもなければ基本気にしないので大丈夫だろう。最悪ヴォルカが頭を下げれば、シュリアが許してくれるだろうが。

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