「どこかで戦争でもしてたんですか」
五分後、本当にエレニカがやってきた。
格好が何故か全身鎧である。少し軽装なタイプの、それでも明らかに戦闘用のものだが、ここまでガチガチ装備をしているのは初めて見た。
椅子に座っている姿は、戦中に策を練る将に見える。
「どこかで戦争でもしてたんですか」
「いやぁ、俺の戦争じゃないけど似たようなもんかな……どちらかといえば戦闘中は身軽でいたい方だから普段は使わないんだけど、こっちの方がなんか強そうだから」
強そう、と言われれば確かに強そうである。
普段があまりにも普段着すぎるのもあるかもしれない。
ラフすぎる、とは思わないくらいの服装ではあるのだが、何故か全体的な雰囲気として『ユルそう』というのがなんとなく見えてしまう。割とちゃんとした服装でもそう見えてしまうのかもしれない。
「さっきまで軽く人間の戦争に介入してたから、そのままの格好で来ちゃったんだ。物騒でごめんね」
『介入……? エレニカ様の治めている世界ですか?』
「ああ、俺のじゃなくて部下の部下の……部下の部下? くらいの神の統治する世界だよ。なんか間違えてお告げをしちゃったらしくて、人間が勝手に戦争始めちゃったって俺に報告してきてさ」
部下の部下の部下の部下まで指揮系統が遠ざかっているのにエレニカが出動することになるのか。シアンはかなり驚いた。それほどまでに人手……神手が足りていないのだろうか。それとも何か特殊なトラブルでも起こってしまったのだろうか。
それ以前に『間違えてお告げ』って何を言ったのだろうか。
「普段なら『じゃあ君達でなんとかしてよ』って投げることも多いんだけど、なんかやたら強い人間が戦争してる両陣営にいて下手に手を出せないって言われて。仕方ないから俺が出て行って黙らせた」
「黙らせたって、つまり……」
「うん。一番強そうなやつを両方殴って『これ以上続けるなら全員殴る』って脅したら止まった」
やはりというべきか結構な荒技だった。正直真似できないし、あまりしたくない。
ただ、エレニカが赴けば話が一瞬で解決するので、他の神からも便利道具扱いされているのであろうことは、今の会話でなんとなくわかってしまった。
天照大神がエレニカを割と雑に扱っているのも他の神から色々と言われているとは聞いているが、意外と他の神もそうなのではないかと思えてしまう。
「で、そんなことより分裂したいんだよね?」
「端的にいえば、そんな感じです」
分裂、と言われればその通りだが、なんだかスライム扱いされている気分である。
「君ができる方法で一番やりやすいのだと、人形作って魔力を注ぐ感じでいいと思うよ。俺みたいに心臓を千切って作るのは結構大変だし、多分痛いし」
心臓千切りたくない。
エレニカは元からかなりの数の心臓を持っているから大して問題だとも思っていないみたいだが、普通に白亜の心臓千切ったら大変なことになる。
再生できないこともないが、色々と大変である。エレニカは自分が特殊すぎる体であることを理解してほしい。
「元になる依代は神力が強く宿っているものであれば何でもいいんだけど、何か持ってる?」
神力が宿るもの、と言われてパッと浮かばない。そもそもどんなものが該当するかもよくわからない。
『アンノウンなどでしょうか?』
「ああ、あの白い武器かな? 神力が入っている量としては、結構いいね。自我が宿っているから依代には向かないけど」
アンノウン級の道具となると正直無いに等しい。
「流石に他にはないですね……」
「まぁ、そうだろうね。だから俺のをあげるよ」
エレニカが懐から何かを取り出して机に置いた。
10枚の、赤く光る羽である。光の加減によっては金色にも見える、燃えるような鳥の羽だ。
エレニカの髪色と、よく似ている。
「あの、これ……」
「俺の羽根。依代なら結構良い素材だよ?」
「不死鳥の羽……」
つまんでみると、ほんのり暖かい。
エレニカが自分のことをたまに『炎そのもの』と表現することがあるが、そのイメージにぴったりである。
「ちょっと癖のある素材だけど、便利だよ。さぁ、早速やってみようか」
一時間後。
「思ったより俺の羽が暴れて大変だね、魔力足りる?」
「何とか……」
シアンの頑張りと白亜の体力を消費して10体の分体を作ることに成功した。
シアンは今こうしている間にも、たくさんいる白亜を別々に動かしている。
白亜が神として未熟なせいか、それともこうなるのが普通なのか、白亜の分体達は皆子供の姿だった。
エレニカの羽を使ったことにより、分体達が勝手に動き回るようになってしまった。
というのも、白亜の魔力だけではエレニカの神力を抑え込めなかったのである。分体の半分は白亜の顔なのに髪が真っ赤に色づいている。シアンが必死にミニ白亜たちを制御しようと奮闘しているのに、エレニカの要素が割とはっきりと出てきてしまっているのだ。
だが、書類仕事においてはこの分体たちは有用である。
子供の姿なので重いものを持ち運んだり戦ったりすることは苦手ではあろうが、単純な軽作業ならば白亜並みの処理能力を持っているのだ。
その結果、当初の予定よりも大幅に時間短縮をすることができていた。




