「え、今?」
この膨大な数の応募者から十五人を選ばなければならない。
しかもハクアの街に住み込みで働く前提になるものだから、色々とむちゃくちゃな白亜の性格をある程度許容できて、加えて機密情報満載な現場での守秘義務を厳守できる人である必要がある。
つまり、そこそこ寛容で真面目な人でなければならない。
求める人材は案外普通であるが、この普通を見極めるのはかなり難しい。
しかも今手元にあるのは書面である。これでどうやって性格を察せよというのか。ほんのりはわかるかもしれないが、外面がいい人が単純に有利なだけである。
それは白亜も流石にわかっていたので『履歴書』というこの世界では馴染みのないものを作ってまで情報収集をしてから面接をするつもりだった。だが、この人数面接したら一体何日かかるのだろうか。
一日五十人面接したとしても数ヶ月、下手したら年単位でかかりそうである。無理だ。
あらゆる情報管理に長けたシアンでも、短期間でこの人数は処理しきれない。
あまりにも面倒なのでくじ引きで決めたいとすら思い始めていた。
「どうするんですか、これ……。師匠って本の背を触るだけで内容覚えられますよね? そんな感じでなんとかなりません?」
「いや、読み取ったところで名前と住所がわかる程度で人柄とかは流石に……」
「そうなんですけどね……微妙に絞れないところが如何しようも無いというか」
街の警備担当の募集とかなら単純に腕っぷしで決められるのでむしろ楽である。
今回の場合は基本的に接客業である。粗暴な人を雇ってしまえば信用に傷が付きかねない。
今のハクアの街が大人気で大変なのは確かだが、街全体に活気があるのはいいことなのである。
そのタイミングで店員が客に対して横暴だったりすることが判明したら、色々と有る事無い事言われそうである。
『この中から採用できない者を省いたとしても……おそらく八割ほどは残るでしょう。その全員に面接をするとなると、現実的ではない人数ですね』
採用できない者、とは主に犯罪歴がある者を指す。おそらくギルドを通してのものなので盗賊の経験がある元犯罪者なども混じっている可能性があるからだ。
冒険者という仕事は体力仕事が多いので働き盛りであっても引退する者も多く、入れ替わりが激しい。加えて街の中の清掃依頼とかでなければ命がけの仕事がほとんどだ。そういった事情もあり、基本的には冒険者の素性は詮索しないことが暗黙の了解として定着している。
そこが緩くなければそもそも人が集まらない。「今からの仕事をキチンとこなしてくれるのなら、それでいい」というスタンスである。街の防衛にも冒険者は必要なので仕方なく、といった面が大きい。
「でも流石に見ないで判断するのは……リスクが高い」
「そうですね……」
今回は基本的に【この街の秘密を守れるか】という人柄重視の採用だ。書類では見えてこない部分である。
配下全員を面接官にしたとしても、この人数ではかなりの時間がかかってしまうだろう。
シアンなら頑張れば百人分くらいの働きを同時にやってくれそうだが、実体がないシアンが自分で動いて話をして、というのは不可能である。一応ゴーレムの類を作ってシアンの意識をつなげることは可能だが、その場合は白亜がどこかに触れていないといけない。結局無理である。
書類の山に半ば呆然としていると、突然白亜の頭の中に声が響いた。
『お疲れ様ー、ハクア君ちょっといいかな? この前言ってた滅多に出回らないベルアーズ産の紅茶が手に入りそうなんだけど、君の分も注文しとこうかー?』
いきなり念話で喋りかけてきたのはエレニカだった。
これぞ神故の行動なのか、いつも突然連絡してくるのである。しかも割とどうでもいい事が多い。本当に忙しいのだろうか?
「あ、はい……お願いします。……そうだ、相談いいですか?」
『ん? どうした? 修行が行き詰まってるとか?』
「まぁ、あまり進んではいませんが……今回はそれではなくて」
白亜は今の状況をエレニカに相談した。
『そうか……つまり分裂したいって事?』
「そんなところです」
なぜエレニカに相談したのか、それはエレニカがナチュラルに分裂できるからである。
エレニカみたいな同時処理ができれば、と考えたのだ。
『できなくはないけど……君の心臓って一個しかないよね?』
「普通は一個だと思います……」
『だよねー』
みんな10も20も心臓があったら怖い。
エレニカは複数個持っているが、神であっても大体はそんなに沢山ない。
『かなり弱体化してしまうけど……それでもいいなら、そんなに難しくはないよ? 多分、普通の人間くらいの能力にはなっちゃうけど』
「処理に関してはシアンがやってくれるので問題ないです。身体能力は必要ないですし」
『それもそうか。じゃあ依代があれば多分すぐなんとかなるよ』
「依代?」
『ああ、それは俺が持ってるから大丈夫。いつ教えようか?』
「いつでもいいですよ」
この目の前の書類以外の仕事は特にない。
急ぎの用事もないはずだ。
『じゃあ今から行くねー。5分くらい待ってて』
「え、今?」
相変わらず、異常なまでにフットワークが軽い。本当に忙しいのだろうか、となんども思ってしまうくらいには。




