「……これ、一体何人にまで絞れば……?」
ハクアの街は雑誌の影響により、人手不足に陥った。
もともと家族経営みたいなものである。そもそもの街の規模もあまり大きいものではないし、当たり前なのかもしれない。
「召喚獣……増やす?」
『これ以上増えたら管理が難しくなります。そもそもダイを含めて20体も神話級の召喚獣を出したままにしている時点で維持も大変ですし』
シアンがいるから相当楽にはなっているのだが、本来召喚獣は呼び出している間中は常に魔力を消費する状態にある。しかもダイ達のような大型のものは一般的な召喚術師が呼び出せる魔物などと比べて消費量が桁違いだ。
シアンの改良した召喚魔法によってかなり消費量は少なくなっている。が、流石にコストゼロとまではいかない。
ダイ達を呼び出している時、白亜の魔力総量から数パーセント分が常に削られている状態になるのだ。それでも破格の代償なのだが、負担がないわけではない。白亜の総量だから数パーセントで何とかなっているだけで、並の魔法使いなら魔力切れで動けないくらいの量を持っていかれている。
ちなみに白亜がこの状態を解除してもダイ達ほどの召喚獣なら自力で留まることは可能だ。かなり体力を削るらしいが。
「そうか……まぁ、増やしたら何人か怒りそうだしな……」
『怒るでしょうね』
召喚獣の中には独占欲強めのものもいる。ただ、白亜の配下の場合は階級がはっきり分かれているので、その件で大きな問題になったことはない。
召喚獣の中で、一応トップはダイである。この階級は呼び出した順なので強さや賢さなどは全く関係ない。別に他者を纏め上げる能力などは加味されていないのだ。それ故か、ダイはトップでありながら纏め役にはなっていない。
一応リーダーではあるのだが本人の性格からか、単純に周りからあまり信頼されていないからなのか、情報交換の場合などで司会をするのは朱雀である。
正直、白亜も困りごとがある時に相談するのはジュードかリン、次点で朱雀なので白亜自身も頭脳に関してはあまりダイを信頼していないのかもしれない。
その朱雀もおそらく召喚獣を増やすのには反対派であろうから、相談したところで「やめた方がいい」と言われるのがオチである。
「仕方ない……雇うか、人」
『えっ? ファンクラブの方々にお願いしないんですか? 頼めばいくらでも無償で動いてくれると思いますよ?』
シアンはファンクラブをこき使うことを案外許容している。白亜に頼み事をされたら十中八九飛び上がって喜んで頼まれごとを遂行するのだろうが、何となく頼り切るのはマズイと思っている白亜に反して、シアンは【使えるものは積極的に使っていく】という考え方である。
白亜の性格はシアンにも反映されているので白亜も内心そう思っている可能性はあるが、基本的には「自分で何とかする」スタイルの白亜だ。シアンのように割り切れないところがある。
人を利用するという点に関して、白亜は酷く苦手なのである。
もともとの性格からして超がつくほどのお人好しなのだ。ダイ達に関してはこき使っているが、家族同然だからである。対してファンクラブの会員達は他人だ。あまりお願いも強くはできないし、多用もしたくない。
「いや、彼女達には世話になりすぎている。俺たちの街なのに、お店に関しては彼女達に任せているところが多いし、これ以上は頼みづらいよ」
『そうですか……』
逆に彼女達に声をかけずに人員募集とかしたら大変なことになるんじゃなかろうか、とシアンは一瞬考えたが、白亜の決断が最優先である。これ以上はいいかと何も言わなかった。
これが、騒動の始まりである。
「師匠……履歴書が、部屋に収まりきらないんですが……」
「うん……ごめん」
白亜は一応ジュードとリンにも相談して、冒険者ギルド経由で募集をかけた。
領主として働いてはいるものの白亜の本職は未だ冒険者である。高ランク冒険者としてギルドにはいくつも貸しを作っているし、仲の良いギルド職員もいる。彼らに募集要項をギルド内に貼らせてくれと頼んだのだ。
この世界では大体は面接が全てである。一応学園などを卒業した者の場合は就職に有利になりやすいので卒業証書を取っておく場合があるが、基本的には履歴書や筆記試験というものはない。
ただ、多数のギルドにお願いして張り出してもらう関係上、相手の経歴などは知っておきたかったので応募者全員に履歴書も提出してもらうようにしていたのだ。
ここで、白亜とジュードで珍しく考えの食い違いが起きていた。
いつもならジュードが何となくで白亜の考えを見抜いて何とかしていたのだが、今回は気付けなかった。
白亜が『ファンクラブに話をしていなかったこと』と『交流のある全ギルド支部へ募集をかけていたこと』である。
ファンクラブなら色々と彼女達で推薦人を選んだり、賃金の交渉などをある程度までしておいてくれていたことだろう。残念ながら今回はその手を借りられない。終わりがないと思わせるほどの応募者の選定が必要になることは確定だ。
しかもジュードはてっきり王都のギルドにのみ話を通していると思い込んでいたのだが、今回は全世界にお届けしてしまっているのに等しい。そりゃあ話題のハクアの街で働けるのなら、と応募してくるものは大勢いたのだろう。
結果が、この膨大な量の履歴書である。
「……これ、一体何人にまで絞れば……?」
「えっと……雇うつもりなのは、十五人くらいだった……」
「「………」」




