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「これ、なんの花?」

 あたり一面の淡い光。よく見ると光っているのは鉱石と苔、それと青白い花であることがわかった。


 光る鉱石はハクアの街でも使われている。街全体を蜘蛛の巣状に水路が走っているので、夜中に誰かが落ちないように水路沿いをうっすら光らせているのだ。


 水路は二重構造になっていて、水面から15センチくらいのところに網のような仕切りがあるので落ちたところで浸かるのは足首くらいまでではあるが、誰だって濡れたくないだろうからという配慮である。


 この鉱石は水に濡れると淡く光る性質を持っている。明るすぎないので道を軽く照らす程度にはピッタリなのだ。


 他にも光っている苔は魔力に反応して光る性質のものだ。これは白亜の知識にもある。


 だが、唯一謎なのは青白い花だ。


「これ、なんの花?」

『やはり知りませんか。僕もわからないんです』


 光る花はあるが、この色で光るものは白亜の知識にもない。


 新種ではないか? と首をかしげる。


「見た目は……ネモフィラに似てるけど……でも大きさがかなり違うかな」


 触れてみると花弁がとても脆く、ハラハラと千切れて落ちていってしまった。地面に落ちた花弁はゆっくりと光を失っていった。どうやら摘んでしまえば光らなくなってしまうらしい。


 この場所でのみ光ることができる種なのか、それともこの空間が特殊で植物全般が光るのか。前者であればおそらく新種だし、後者であれば光る原因を突き止めれば他の花を光らせることも将来的には可能になるかもしれない。


 だが、レインもオルヴァもそんなことは考えていなかった。


 今この空間が美しいという、ただそれだけで十分だからである。


「どうしてこの場所、報告に上がらなかったんだろう……」

『ここ、今は通れるようになってますけど、元々は完全に壁で塞がれてたんですよ。だから初めてここに来た頃は誰も気づかなかったんじゃないですかね』


 この場所は洞窟内でもかなり奥にある。


 最初に訪れた時にここに気づかなければ、その後の定期的な見回りの時もそこまで深く見ないので気付く人がいなかったのも納得だ。


 最奥が水でふさがっていることを知っていれば、なおさら奥まで行こうとは思わないだろう。どうせ行き止まりなのだから。


 その後も二人でしばらく光る洞窟を眺め、他愛もない話をした。


 レインにとってオルヴァは数少ない気軽に話せる友人だ。オルヴァも白亜の配下という括りからは若干違う立ち位置であるが故にどこか周りとの温度差を感じていて、新参者同士、気楽に話せる相手がレインだった。


 ハクアの街に住む人々は【ダイ達、白亜の元からの配下】と【ジュードやリンなどの古くからの友人】、そして【ハクアファンクラブの中でも熾烈な争いを勝ち抜いて居住権を得た会員達】が大半を占めている。


 一部これに当てはまらない者もいるが、少なくとも白亜との付き合いが年単位で長い人が殆どだ。


 この街は白亜が仕切っている。白亜が仕切っている気がなくとも、白亜を中心にできているのは間違いがない。


 基本的に白亜の感情が第一なので、白亜の気分次第で色々変わる。


 正直なところ白亜は物欲がかなり少ないので、そんな運営でもなんとかなっているのだが、これが白亜じゃなかったら大変なことになってしまいそうな程に権力が一極集中している。


 ジュードとリンが判断することが多いので白亜の意見が全て通るわけではないのだが、余程の我儘でない限り大体は意見が通るのがハクアの街の常識だ。


 ハクアの街に暮らす人々は白亜が一番であることに基本は何の疑問も持っていない。


 別に洗脳しているとかではなく、ただ単純にそれがルールなのだ。


 白亜がルールで縛るのをよしとしない性格であるだけで、一歩違えば白亜が独裁者まっしぐらな街である。


 そんな感じなので後から合流したオルヴァとレインは少し肩身が狭い。


 レインは白亜の記憶を持っているとはいえ、周りからすれば『急にやってきた余所者』である。


 住んでいる者が白亜信者なのだから、そうでないのなら中に混じるのはかなり浮いてしまう。だが、白亜信者を装うのはかなり小っ恥ずかしい。なぜならレインは白亜の記憶を持っているので自分を自分で讃える気分になるのだ。


 だいぶ恥ずかしい。


 そのような居心地の悪さを共有できるのがオルヴァとレインだった。


 この空間がここでしか美しさを保てないのなら、それを持ち出そうとは考えず同じ時間を共有できる友人と過ごしたい。そう考える二人は似た者同士だ。


 やたらと馬が合うのもそれが原因なのかもしれない。


 不思議な縁で出会った二人だが、何でも話せる親友になるのにはそれほど長い時間は必要ではなかった。


 たまにここまで抜け出してきては二人で語りあうという休日の過ごし方をするようになる。

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