「いつもながら酷い!」
レインという名前を与えられた学ランの青年は若干の挙動不審さを見せつつも、最初よりは落ち着いたらしい。
喋り方がだいぶスムーズになった。とはいえまだ突っかかりはするが。
「え、えっと、あの、それで……この街と人を守るのがお仕事でしょうか」
白亜の記憶を持っているので創られた理由は察しているらしい。
「いや、まだ慣れてないだろうから環境に慣れるのが先……かな」
『そうですね。記憶を持っているとはいえ【知識】でしかないはずですし、何か不都合が起きる前に確認しておくのは必要かと』
白亜の記憶を持っているのは召喚獣達と同じだが、彼らとは少し状況が違う。
レインの場合は今生まれたばかりなのだ。キキョウも似た感じで生まれたが、精霊と神は違う。
ある程度の知識はあっても、それは白亜のものをコピーしただけの借り物に過ぎない。
白亜の記憶をある程度知っている召喚獣達でも白亜の動きを真似ることはできないのは、体格や感覚の違いが原因だ。召喚獣全員が白亜の動きをトレースできるのであれば、この集団はとんでもない化け物集団である。今でも十分化け物ではあるが。
そういった理由もあって、自分自身の状況を確認する時間は必要なのだ。
「わ、わかりました」
「ねぇねぇハクア君! なんか凄い人いるじゃないか! 何ですぐに呼び戻してくれないの!?」
「……お前呼んだら色々面倒になりそうだし」
「いつもながら酷い!」
レインを創って、翌日。レイゴットが白亜の部屋に押しかけてきた。
白亜はリグラートでのレインの戸籍を作るための書類を書いているところだ。まだ半分も進んでいないのに、説明するのに面倒くさそうな魔王の出現にため息をつく。
レイゴットは白亜の配下ではない。一応ここに住まわせてやっている『居候』という立ち位置である。
そのために、いつもの【非常にざっくりな白亜の説明】を聞き流してくれないことが多々あるのだ。
ジュード達は白亜が説明不足でも「まぁ、師匠だから説明少なくてもしょうがない……」と諦めてくれるのだが、レイゴットの場合は立場が対等なだけに面倒なくらい突っ込んでくる。
適当に返答すればするほど突っ込んでくるのは想像に難くない。
今回、神を作るとかの面白そうな話にレイゴットが無反応だったのは、本人がここにいなかったというだけである。
一応魔王なので魔族の長としての仕事は存在する。
しかも長命種であるからか、色々と拗らせた研究気質な魔族も多い。その研究時間の調整なんかもレイゴットの時間である。種族全体が研究者といっても過言ではない魔族は研究がしたいがためにやらかす事がある。
貴重な鉱石を採掘するために人間の所有する鉱山に侵入したりするのは可愛い方で、勇者の能力を解析するために勇者を殺したり、街を破壊したり、なんてこともある。おかげで魔族は他種族との関係が頗る悪かったりするのだ。
そういったことを抑えるのも魔王の仕事である。本当に、一応だが。
定期的に魔王としての仕事するために家に戻っていたレイゴットだが、今朝ハクアの街に帰ってきたのだ。実は白亜とシアンがかなり早い段階で薬を使おうと決めたのにはこのレイゴットの仕事の都合もあった。
レイゴットのいる場所で神を創るとかやったら、絶対に面倒くさいことになるに決まっている。なんなら勝手に薬を持ち出されてもおかしくない。レイゴットから薬の存在を隠すためにも、早めに使ってしまいたかった、という理由もあったのだ。
「それで? レインとは話したのか? 外で会ったんだろ」
今レインはリンと一緒に商業地区を見学しているはずである。
おそらくレイゴットはそこで会ったのだろう。
「あの不思議な子、レイン君って言うの? うーん……会ったといえば会ったんだけど。なんか凄い避けられちゃって。なんかしたかなぁ」
「……俺の記憶持ってるし、お前に良い印象ないのかもな」
「えっ……君から見たら僕ってそんなに信用ないの……?」
白亜はレイゴットに拉致されているし、正直信用はあまりない。
今すぐ解剖しようとか言い出しても不思議ではない人物である。どう信用しろというのか。
じゃあなんでこんなやつ街に入れているんだ、と言われそうだが、白亜ならレイゴットの対処は容易いからである。
逆にいえば白亜しかレイゴットを御する事はできないので、危険といえば危険ではあるが……正直、野放しにする方が危険だと判断した結果である。
レイゴット含め魔族の興味は基本的に『未知』に向いている。ハクアの街は他の街とは大きく違うところがたくさんあり、それは白亜がいるというだけではなく、ジュードやリン、召喚獣達やファンクラブ会員達の行動も貢献している。
これが魔族の興味を引かないはずがない。だがレイゴットがいるだけで「ここは魔王のテリトリーだ」と魔族の中で共通認識を持たせられる。その限りは他の魔族は基本的に介入する事はない。流石に以前の白亜と張り合えるほどの存在と正面衝突したい者などそうそう居ない。
レイゴット一人をなんとかするだけで他の魔族の介入を可能な限り減らす事ができるのだ。ただ遊びに来るだけならまだいいが、先述した通り興味からの行動で暴れられでもしたら困る。
それならまだレイゴットを見張っておけばいいか、と思い住み着くことを許可しているのだ。
というわけで別にレイゴットを信頼しているわけではない。
「どうすれば話しかけられるかな? 君が彼……レイン君だっけ? を説得してくれないかな」
「なんで俺がそんなことしなきゃいけないんだ。自分でなんとかしろ」
「えー、手伝ってよぉ」
正直放置したい。が、放置して付き纏いされても迷惑だ。白亜は大きくため息をついた。
「なんでこんな変な奴が知り合いに多いんだ……」
「……それ君が言っちゃうの?」
「………」
白亜に軽く睨まれて目を逸らす。シアンは口には出さなかったが、今回はレイゴットの言葉が正しいと冷静に判断していた。勿論白亜には伝えなかったが。




