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クリスマス番外編 中

 クリスマス終わって何日経ってるのかちょっと覚えてないですね……


 しかもまだ続きます。最近亀更新に拍車がかかっています……ごめんなさい。

 白亜の耳に、何かが割れる音が聞こえてきた。


 ため息をついてジュード達にそのことを報告する。


「また時計がやられたみたいだ……」

「ぁあああ……すみません師匠……僕の給料から天引きしてもらっていいので」


 ジュードの表情には疲れが見える。白亜とジュードのやり取りを聞いている周りの者は少しげんなりした様子になっていた。それもそのはず、今来ている客の厄介さを知らない者はこの場にはいないからである。


 その客とは、ジュードの姉の子供だ。


 ジュードには数人の姉がいる。リグラートは世襲制で、基本的には長子が王になる。


 ジュードの場合は次男ではあるが姉がたくさんいるので国を継ぐ可能性は低い。この国では女王が治めるということも珍しくないのだ。長子に何らかの問題があれば変わってくる話だが、ジュードの一番上の姉は常識人で頭もいいので次の女王として相応しいと噂されている。


 国王の補佐として働いていたり、王としての勉強があったりで白亜とはあまり接点はないが、白亜の彼女への印象は悪くない。


 ジュード自身が王という地位に全く興味がないので平和なものだ。


 姉達とも非常に仲がよく、たまに実家に帰ってはお土産などを持たされて帰ってくる。


 ただ、姉達の婚約者や結婚相手とはまた少し別の話になる。ジュードは継承権がかなり低い。末っ子な上に母親は妾、しかもエルフという異種族だ。


 エルフは排他的で知られる種族で、あまり人間との交流がない。そのためにエルフという種族全体のイメージがつかめず、おかしな印象を持っている人もたまにいるのだ。


 白亜はそんなことどうでも良いし、リンを含めてここに居るほとんどが人間じゃない。誰一人としてジュードを異物と感じる者はいないのだが、人間の社会だけで生きてきた他国の王子などはエルフと聞いて変なことを想像するものもいるのだ。


 獣人族は人を食う、なんて言う者もいる。それに近い『別種の生き物』だと思い込まれてしまうことが、残念だがないわけではない。


 その思い込み勘違い野郎が、他者を迫害するのだ。


 今回屋敷にきている三番目の姉は、悪い人ではない。おっとりした優しい女性である。だが、その結婚した相手がやたらと曲者だった。


 少しリグラートから離れた土地にある国の王子なのだが、白亜が驚くほどの傍若無人っぷりを発揮している人だ。白亜も我が道を行くスタイルという点では近しいところがあるかもしれないが、彼はその比ではない。


 白亜が彼と初めて会った時はジュードも初対面。しかもその場は結婚式だった。もともと三番目の姉と傍若無人な王子は婚約者ではあったのだが、国がそこそこ離れているので会うことは滅多にないという状況だった。


 そのため弟であっても遭遇する機会はかなり少なく、初対面が身内になる日になったらしい。


 白亜にとっては政略結婚云々は珍しく思えたのだが、ジュードからすれば「そんなものです」くらいの感覚らしい。


 本当は結婚式より大分前に両家の顔合わせがあって、互いの家族を知る機会があったのだが……時期が少し悪かった。なにせ丁度その時に白亜が魔王に攫われるという事件が発生していたからである。


 正直ジュードは顔合わせの場に行くべきではあったのだが、白亜が心配すぎてそれどころではなかった。口では白亜は大丈夫と言っていたジュードだが、かなり憔悴していたのもあり「参加しないでも良い」と直接父親から言われたのだ。色々大変だったジュードはその言葉に甘えて白亜の捜索に全力を注いだのである。


 そして、結婚式での初対面。


 姉の結婚相手がジュードとの初対面で握手を拒否したのである。ついでに白亜も拒否された。


 白亜が心の声を聞いたところ、ジュードのことを「喋る猿」と見下していた。それを聞いた白亜は『お前の方が猿だろ』とナチュラルに思った。ちなみに白亜を拒否した理由は目が気持ち悪かったからである。それはなんとなくわかったのでスルーした。


 どうやらやたらと自分の見た目に自信があるらしい。周りにいる他の客の容姿も揶揄って馬鹿にしていた。


 だが残念ながらジュードの方が圧倒的に顔がいい。確かにその王子も美形かそうでないかで分ければ美形の部類に入るかもしれないが、ジュードの場合は一万人いたら九千九百九十九人は美形と答えるほどの美男子だ。一人入れなかったのはこの王子の分である。


 白亜の顔はよく人形に例えられるが、ジュードは見た目からして爽やかさが滲みでているタイプだ。作り物めいた白亜よりジュードの方が好きという者もいるだろう。


 この王子……白亜は嫌いな人物の名前を覚えないので仮に【猿王子】とするが、その猿王子は腐っても王子である。相手を見下していても表情にはほとんど出ない。


 心の声を聞き取れるという反則技を使える白亜だからこそ、猿王子の醜悪さに気づいているのだが周りはほとんど気が付いていない。流石に握手を拒否られたジュード本人はわかっていたが。


 その時白亜はチラリとジュードの顔を見たが、ジュードは小さく首を横に振った。両家の関係は悪くない。姉とは結婚後もあまり親密にするつもりはないそうだ(王族同士の結婚ならよくあることらしい)。ならばここで波風立てることはしないでおこう。


 それがジュードの判断だった。


 その判断に白亜も従った。正直自分はともかく、弟子に対してかなり失礼な態度をとった猿王子に、何か簡単な呪いでもかけてやろうかと一瞬考えた白亜だったがやめておいた。シアンに諭されたのも大きい。


 あの時からかなりの月日が経過し、忘れられている頃だろうと思っていたが……最近「リグラートのハクアという街が最高だ」みたいな話が口コミで広がって猿王子が見学にきたのである。それが面倒の始まりだった。


 街を運営しているのがジュード達と知るや否やとんでもない要求を大量にふっかけてきたのである。


 あまりにも目に余るものがあったので国王に相談し、色々根回しした上で「あんまりやり過ぎるようだったら普通の貴族としての対応と同じで構わない」という言葉をもらうことに成功した。


 それで一度は追い出すことに成功したのだが、一度転んだだけでは痛みを忘れる体質なのかすぐにまた訪問してくるようになった。どうやら猿王子はハクアファンクラブのメンバーが作ったカジノにハマっているらしい。


 カジノとはいってもあまり多くの金が動かない仕組みにはなっている。そこで身を崩す人が出たら白亜が悲しむだろうというファンクラブ会員の気遣いから作られた『優しいカジノ』だ。そのため売り上げはそれほど高いわけではない。どちらかというとテーマパークやゲームセンターに近い。


 そのせいで入り浸る者がいるのも事実だが。


 最初は猿王子だけだったのだがいつの間にか子供も連れてくるようになり、二人があまりお邪魔しては迷惑になるからとストッパーとして三番目の姉も来ているのだが、彼女はあまり気が強い方ではないので抑えきれていない。


 子供のことだがジュードとの血縁関係はなく、猿王子の妾の子である。猿王子も子供も白亜からしたら正真正銘の他人だ。しかも礼もまともに覚えていないのである。その他人が自分のテリトリーで暴れまわるのは気分がいいものではない。


 今回ここに来たのも、この街の名物を狙ってのことだった。


「クリスマスにお正月……日本の行事をダイ達が勝手に広めた結果、それを求めて押しかけてくる人が現れようとは……」


 この街には様々な文化が混在している。白亜の記憶にある日本の文化もその一つだ。面白そうなものばかりがツギハギで取り入れられているのでよくわからない事になっているのも事実だが、楽しければそれでいいというスタンスなので、特に気にしていない。


 そのちぐはぐ文化は街の外にも影響を与えつつあり『おかしな行事を年がら年中やっている街』として認識され始めている。それに関してはその通りだし宣伝になるので別にいい。だが、噂を聞いてやってくる面倒な客はたまにいる。その一人が猿王子なのである。

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