「あれ? 俺なんか変な事言った?」
笛の説明を終えて、いよいよ謎の液体に話が移る。
「で、その液体ね。簡単に説明すると『魂の水』って感じかな? 三百倍ほどに希釈すれば死者を蘇らせることができる回復薬になるんだ。まぁ、死者といっても魂が剥がれる前に使わないといけないから死後10秒以内って感じだけど。ただこれが凄いのは病気にも効くんだよね。未知の感染症とかにも効くよ。いい状態に戻すってだけだから元の体質が原因の病気にはあまり効果ないけど」
白亜の知っている回復薬の類は病気に効くものは少ない。
症状を緩和するものはあるが、完治させることのできる万能薬のようなものはレシピもないのだ。
怪我は治せるが病気は結構難しかったりする。その理由はよくわかっていないが、回復魔法が『かけられた人の自然治癒力を引き出す』というプロセスを経ていることが多いため、自然治癒では治らない病気や治癒力の低い人はそもそも引き出せなかったりということがあるからとされている。
「病気にも効くんですか……凄いですね」
説明を横で聞いていたリンが若干興奮した面持ちで白亜の手の中を覗き込む。
リン自身、薬師として働いていたりもするので気になるのだろう。
「一応神の薬だからね。依存性とかも多分ないし」
「多分?」
「今のところ事例はないからね。大昔にそれを数本飲み干した馬鹿がいたけど、何にもなかったし。ただ、稀に凄い効きにくい人や効きやすい人はいるから無闇に使わない方がいいとは伝えておくよ」
エレニカの言葉に頷く。こんな薬、簡単に人前に出せないのは白亜でもわかる。
『先ほど希釈して、と仰いましたが、薄めずに使うとどうなりますか?』
ふと疑問に思ったのだろう、シアンが尋ねる。その言葉にエレニカも軽い口調で答えた。
「ああ、新しい生物が作れるよ? 低位の神とか作れるんじゃない?」
さらっと告げられた言葉にシアンと白亜、リンの動きが一瞬止まる。
数秒間の沈黙。なぜ周りの時間が停止したのか不思議に思ったエレニカが首を傾げた。
「あれ? 俺なんか変な事言った?」
この若干凍りついた空気で変なこと言ってないと思えるのが凄い。
『神が、作れる? と?』
「え、うん。ハクア君ならできると思う……けど……」
倫理観がぶっ飛んでいる、と思ったがエレニカはそういう類の存在だった。
普段の軽さから忘れがちだが、おそらく普通とは違う価値観なのだろう。
「そんなこと、やって大丈夫なんですか?」
「え、だめなの? 生命創造とか、俺結構やっちゃってるよ」
「いやエレニカさんはいいと思うんですけど……」
名実ともに最強の神であるエレニカならともかく、神なりたての白亜がやっていいものなのだろうか。
それと白亜には気になることがある。今回の決闘の褒美として、なぜこれを持ってきたかということだ。
実は何をレーグから貰うかは事前に相談されていた(シアンが)のだがよくわからなかったので「おすすめで」とお願いしていたのだ。おすすめが生命創造の薬というのが若干なぞである。確かに凄いが、レーグの持ち物からなら、もっと戦闘向きのものなどもあったのではないだろうか。
エレニカにそう聞いてみると、
「ああ、だって君はここの人達が好きなんだろ? それなら戦う道具じゃなくて守るものの方がいいかなぁって思って。君の力で新しい神を作ってこの街を守らせればかなり高い守りの加護は付くだろうし、回復薬として使うにしても、未知の病気にも大抵効くから初期に罹って病状が悪化する人も少ないだろうし……君の性格からこの薬を選んだんだけど。間違ってたかな?」
言われて、納得した。確かにこれが一番欲しいものかもしれない。
仲間や友人たちを守ること、それが白亜の一番やりたいことだ。
改めてそう認識して、これを選んでくれたエレニカに感謝する。
「間違ってないです。……ありがとうございます」
不意に感謝されてすこし照れたらしいエレニカは小さく笑いながら言葉を付け足した。
「なんども言うけど、それは君が君の努力で勝ち取ったんだ。俺は何もしてないよ。それより、それは絶対に人の手に渡ってはいけないものだ。それはわかるよね?」
言われて、白亜とリンは同時に深く頷いた。これが世の中に出回ってしまえば大混乱間違いなしである。
なにせ本物の万能薬だ。しかも神をも創ることができるとなるとその価値は計り知れない。
「さっきも言ったけど、君なら新しい神……眷属を創ることもできる。その力は高位の神でも持っていない力だ。俺みたいに特殊なやつなら別だけどね。だからレーグも隠し持っていたんだ。こんなものがまだあるとは思ってなかったからビックリしたんだけど、どこからか情報が漏れて君がこれを持っていると他の神に知られる可能性もある。できるのならなるべく早く使ってしまうのも手だ。回復薬として保管したいのなら、絶対に取られない場所へしまってくれ」
想像以上に凄いものらしい。どう使うかはまだ決めていないが、決して雑には扱わないようにしようとシアンは心に決めた。そして白亜にはなんどもそう伝えた。




