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『ご本人がこう仰られているので、問題ないと思いますよ』

 レーグとの決闘から数日後。


 リンと共に仕事をしていると突然部屋の扉が数度ノックされる。きっとジュードだろうとリンが扉を開けると、そこにいたのはエレニカだった。


「!?」


 リンはエレニカを見て固まってしまう。白亜はさらっとエレニカと接しているが、エレニカの雰囲気は明らかに異質なのだ。体が硬直しても無理はない。


 そんな様子をリンを見て、エレニカが慌てて気配を抑える。


「あっ、ごめんね! ハクア君だけがいると思ってたから、ちょっと油断しちゃってた……これで大丈夫かな?」

「えっと、はい……」


 恐る恐るといった様子でエレニカを観察するリン。白亜は、そういえばエレニカとリンは初対面だったと思い出す。


「リン。こちらエレニカさん。前にも話したけど、今の俺の先生。エレニカさん、彼女はリンです。学生の頃からの仲間です」

「ああ、君が! ハクア君から話は聞いてるよ。悪かったね、なんか威圧しちゃったみたいで」

「い、いえ。こちらこそ、ハクア君がお世話になってます」


 最初に『白亜がお世話になっています』という事を話すあたり、完全に白亜の保護者的なポジションになりつつある。リンとジュードは特にその傾向にある気がする。


「いやぁ、急に来ちゃってごめんね。この前の事後処理が色々解決し始めたから、その件でちょっと寄ったんだ」


 立ち話も何なのでエレニカを部屋の中に通す。リンはどこか落ち着かない様子でエレニカを気にしている。


 視線を感じてか、エレニカがリンに話しかけた。


「俺の顔に見覚えでもあるかな?」

「あ、いや……そうじゃないんですけど、なぜか……気になるというか」

「? 俺が?」


 リンの様子が少しおかしい。妙にエレニカの方を確認している感じがする。


 これが急に押しかけてきた不審者ならわかるのだが、エレニカの話はこれまでも結構している。そんなに警戒するほどの相手でもないはずだ。


 ただ、リン自身もなぜこんなに気になってしまっているのかがわからないらしい。


「そうだなぁ……ちょっと失礼」


 エレニカはリンの手をそっと掴んで観察する。数秒見ていたかと思ったら、大きく頷いた。


「ああ、わかった。君って精霊が混じってるよね?」

「は、はい。一応……」


 リンの種族はずっと昔に精霊の血が入っている。しかし精霊の力を行使できるほどの血の濃さはなく、血が多少混じっている関係で精霊と契約を結ぶことができない。それが原因で迫害を受けることもある。


 基本的に精霊は精霊を契約によって従えることはできない。キキョウのような例外はあるが、普通は契約という形で呼び出すことはできないのだ。


 以前ジュードが初めてキキョウに会った時に土下座してまで敬意を表したほどに、特に高位の精霊は特別な存在なのである。


 それ故に精霊を呼び出せる契約は、それそのものが神聖なものだとされることも多くある。


「俺、一応精霊の一種なんだよ。だから多分種族的な問題じゃないかな? 君たちの知る精霊と俺の属する精霊はちょっと質が違うけど、存在の核は似てるし」


 それを聞いてシアンが納得したと呟いた。


『相手が精霊神なら、確かにそう感じるかもしれませんね」

「そう……なのか?」

『今までの精霊への態度を思い出してみては?』


 シアンに言われて、リンの精霊への態度を思い出してみた。


 キキョウやルナにかなり下手に出ていた印象は、確かにある。あまり反論したりするイメージがない。何となく種族の話なども聞いてはいたが、エレニカを見て何となくで感じ取ることができるほどのものだったとは思っていなかった。


「君はハクア君の仲間なんでしょう? つまり俺の弟子の友達ってことだし、気軽に接してくれて構わないよ。この世界での精霊の立ち位置は何となく知ってるけど、俺自身はあんまり仰々しいのとか得意じゃないし」


 おそらく、普通の人の感覚からしたらエレニカなんて見ただけで即土下座だろう。敬意を示すという点で。


 最高位の精霊の、さらに上の存在なのだ。リグラートではどういう扱いになるのか全くわからないが、一般人は会話など許されない存在として認識されるのは確実である。


「え、でも……」

『ご本人がこう仰られているので、問題ないと思いますよ』


 リンはシアンからのフォローに恐る恐るといった感じで頷いた。


 どうやら何となく、という漠然としたイメージではあるものの【妙に近寄り難いオーラ】に近いものを感じるらしい。どう見ても避けられているのを察してエレニカが若干肩を落とした。


「俺……胡散臭そうとか、詐欺に引っかかりそうとか今まで色々言われてきたけど……脅しとかしてないのに、ここまでナチュラルに警戒されるの初めてかもしれない」

「…………」


 白亜はフォローの仕方がわからず、黙るしかなかった。


 そのまま気まずい沈黙が流れ、空気を変えようとしたエレニカが箱を取り出した。手のひらサイズの箱で、高級感を感じる。細かな装飾が施され、魔法的にも物理的にも開けるのが大変だと一目見てわかるほど頑丈そうだ。


「遅くなったけど、本題。これを君に渡したくてね」


 エレニカが箱を開けると、中には半透明の液体で満たされた小瓶と首から下げることのできる紐のついた笛が入っていた。取り出すと、液体は光の当たり具合によって様々な色に変化していくのがわかる。見たことがない液体だ。


「これは?」

「瓶の方はレーグの秘蔵の品だ。それは後で説明するとして、笛の方は俺からだな。これからは緊急事態が起こったらそれを使ってくれ。神々の面倒ごとに巻き込まれそうになったら吹いてくれれば俺かレーグが駆けつける。レーグのことは信用できないかもしれないが、誓約書で縛ってあるから大丈夫だと思ってくれていい」


 どっちが来るかは吹くまでわからないらしい。エレニカが基本的に動いてくれるそうだが、仕事が忙しいので動けない時もある。その時はレーグを行かせる、とのことだった。


 正直人となりは全く信用できないが、戦闘力は認めている。それにエレニカの言葉だし、とシアンと話し合って今はレーグを信用することに決めた。

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