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「末っ子?」

 白亜の神としての能力は時間を巻き戻し、早め、空間を捻じ曲げたり切り取る事に特化している。


 時間と空間を操る能力は汎用性がとても高い分、扱いが相当難しい。


 例えば時間を巻き戻す能力だが、ほんの少し調整をミスしただけで数分戻すつもりが数週間分巻き戻ったりする。しかも一度戻してしまうと一定期間が開かなければ再び発動させることができないので乱発もできない。


 白亜の場合はシアンがいるので調整に関してはかなり補助してもらえる。ただ、問題なのは戻す時間だ。


 この緩衝材が何月何日に作られているのか、そこがわからないのでピンポイントでどれくらい巻き戻せばいいのか、というのがさっぱりである。


 昨日買ったのかもしれないし、実は白亜の練習用にと随分前から用意してあったのかもしれない。


 しかも問題なのは例え製造日が分かっても逆算した日数分戻せばいいわけではないのだ。


 エレニカはこれを買ったあと、しばらく自分自身の能力でどこかに仕舞っていたらしい。その能力では収納されたものの時間が停止するそうだ。


 結構前にエレニカがこれを買って、かなりの時間収納されていたと仮定すると日数を計算する必要がある。


 その上、エレニカが「俺がいつ買ったか実際に確認に行くのはナシね」と言ってきたので過去のエレニカの行動をストーカーして製造日を調べることは却下された。


「これ、ただでさえ時間戻すの難しいのに、戻すべき時間もわからないって……いつになったら終わるんですか」


 白亜の愚痴にエレニカが苦笑する。


「本当だったら神として数百年くらい生きてる神がやる試験だからね。なんなら俺のところの末っ子はまだこんなこと出来ないよ」

「末っ子?」

「前にちらっと会ったことあると思うけど、人間神のレイラだよ」


 レイラという名前に聞き覚えが微妙にない白亜が一瞬言葉に詰まると、シアンが助け舟を出してくれた。


『以前お会いしましたね。あの時は確か、エレニカ様への伝言をお伝えに来たと仰っておりました』

「そうそう。その子」


 シアンが白亜に見せた映像で、ようやく白亜も思い出した。


 エレニカに指導してもらっている時に割り込んできた女性だ。ひどい方向音痴と聞いている。あの時エレニカはレイラに「キョクセイ」と呼ばれていた。儚いという言葉がしっくりきそうな柔らかい雰囲気を持っていた。


「息子の中では特に気弱で心配になるんだけどね。いつまでも幼いなんて事はないのに、なんとなくまだまだ小さいって思っちゃうんだ。本人、それは嫌だって思ってるみたいだけど」

「そうなんですか……? 息子?」

「え? うん。息子。……あ、調整失敗してるよ。話しながらでも集中しないと」


 息子というワードに軽く驚いて手元が狂った。


 再び作業に取り掛かるが、やはり多少は気になってしまう。


「あの、レイラさんって……息子?」

「そうだよ。あ、女性に見えたんでしょ。わかるよスッゴイ言われるもん。俺に全然似てないし」


 確かにそこも気にはなる。だが、一番気になっているのはそこではない。


 白亜やエレニカだって女性っぽくはない。男性と間違われたいと思っているかのような格好をしているのだから、当然である。別に男性と間違われる事に対してもなんとも思っていない。


「それじゃなくて……旦那さん居るんですか?」

「あー、いや違うよ。俺は確かに不死鳥だけど、卵生じゃないし子ども作るのに相手も必要ないよ」


 エレニカに聞いたところ、面白いことがわかった。


 子どもというのは一種の分身体に近い存在らしい。だが、自分の力を削りそれを核として作った子どもは自分とはかなり違う存在になるのだそうだ。


 性格や容姿などはある程度似ていても別のものになるらしい。その証拠に息子や娘もいる中で不死鳥なのはエレニカだけである。不思議な事に、作ると言っても自分の意思ではなく勝手に発生してしまうこともあるそうだ。


 日本やリグラートとは全く違う体系である。


 基本的にはこの形で神が増えるため、全員エレニカと繋がりがあるらしい。世界の管理を一家で行なっていると言っていい。


 白亜みたいに超人が色々あって結果的に神になるというパターンは日本でもかなり珍しいケースであるが、それは他の世界からすると、そうでもなかったりする。


 むしろエレニカの家族のように「一個体から派生した存在」のみで構成されている方が珍しいのだそうだ。


「まぁ、俺みたいに自分の一部を切り取って新しい神を創るって行為ができる神がもういないってだけなんだけどね。昔はいたけど、今は俺だけになってる」

「難しいんですか?」

「命を削ってるに等しい行為だからね。そんなことしてピンピンしてる神はあんまりいないよ」


 神って不思議だなと、改めて感じた白亜だった。

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