「問題ありません。武器は自前のがありますので」
前田は『普通の人間』から外れたモノがいる事を知っていた。だが、何故か白亜はそれを知らされていなかった。
一応、前田は神に選ばれている。この世界に送り出すべきかは測りかねていたので白亜にその調査が回ってきたが、資格があると判断されてここにいる。
その資格を決めるときに前田の事を調べないはずがない。ましてや人以外のモノを知っていると言う情報を掴んでいないとは思えない。
力をうまく使えない白亜ならともかく、今回の件には少なくともこの世界の神と日本の神の一部は関わっている。それくらいは調べる力があって当然だろう。
「……知らされていない事には何の目的がある? まさか忘れてた、なんてことはないだろうし……」
『日本で何かしら異形との関わりがあった』なんて、こんな重要な情報教えるまでもないと判断されることはまずないだろう。
何か目的があって意図的に白亜には伏せた可能性が高い。
『そうでしょうね。ですが今は一旦守る事に集中しましょう。正体を軽く明かしてしまったので、もう隠す必要もありません』
『隠したところで無意味だな』
(色々遅いことはわかってるよ。アンノウンでさっさと片付ける。雨で汚れるのも嫌だし)
あんな巨体を蹴り飛ばしたのだ。もう隠したところで無駄である。
それなら手の内を多少明かしても速さを重視するべきである。
白亜は腰の剣を抜いて鞘ごと前田にほうり投げた。
「今はとりあえずそれを。貴方の剣はもう限界でしょう?」
前田は慌ててキャッチしたそれを引き抜く。
今使っている剣よりも重いが、刃渡りが広い。厚みもかなりあるので今度は一発受けたくらいでは壊れることはなさそうだ。
「あまり切れ味は良くありません。叩き斬る要素が大きいので棍棒みたいなものだと思ってください。万が一の時はそれで身を守ってください」
「あんたは……」
「問題ありません。武器は自前のがありますので」
上着の内側に隠していたアンノウンを取り出して2本ずつ繋げ、両手に構える。
4本全て繋げて槍や薙刀の形状にしても良かったのだが、今回は守る事に焦点を置くために隙が大きくなりやすい長物は控える事にした。
両手に持つ白い棒の先から半透明の刃が突き出る。それを見て前田が唖然とした。
「そ、それ! まさか……!」
気力を知っている前田は、白亜がどのような人物なのかある程度わかったのかもしれない。
「お話は後程。……来ます。一応止めますが、抜けてくることも考慮して構えておいてください」
白亜の見据える先には黒蜥蜴の群れがあった。
数匹どころではない、最低でも二十はいるであろう数の蜥蜴。
馬車よりも大きい生物が群れをなして突っ込んでくるのだ。
これで怖がらない人は精神がおかしいか、余程の自信家か爬虫類好きか。
白亜の場合はどれでもない。ただ『相手は確実に格下であり、おそらく負けることはまず無い』という事実を確認しているだけである。白亜にとってあれは微生物の群れと大差ない。
微生物だって数千から数万匹もの数だったら恐怖の対象になり得るかもしれないが、正直微生物がいくら全力で突っ込んでこようと普通の人なら無傷だ。白亜の感覚的に言えばそれくらいの精神状態。
「まぁ……普通に襲いかかってくるやつは殲滅で行くか」
『そうですね。正直対話も難しそうですし、逃げたものを追うことはしなくとも襲ってくる相手は皆殺しでいいと思います』
『なかなか怖いな、そなたらの会話……』
1匹も殺さず追い払うのは難しい。下手に苦手な事に手を出して前田やそのパーティメンバーが殺されてしまっては元も子もない。
白亜は正面にアンノウンを構え、間合い数歩手前に入った瞬間に群れの中心に飛び込んだ。
蜥蜴達はまさか自分から獲物が飛び込んでくるとは予想できなかったらしく、大袈裟に驚いて体勢を崩す。
それを見逃すはずもなく、白亜が両手のアンノウンを振り抜いてから正面を袈裟斬りにする。両隣と正面の蜥蜴の皮膚を深々と切り裂き血飛沫が上がった。
両隣の蜥蜴はそれぞれ的確に前足の腱を切られており、片方の前足は機能しない。正面の蜥蜴は運がいいのか悪いのか、ほとんど首の皮一枚しか繋がっておらず即死は確実だった。
白亜は返り血を避けつつ一旦後退する。
群れの中央で二体が重傷、一体が死亡した蜥蜴はパニックを起こしたのか列が解けて散り散りになる。
数匹はそのまま全力で森へ引き返していってしまった。
血を盛大に被った個体もいたので、近距離で白亜の動きを見て敵わないと悟ったのかもしれない。
結果、その場に残ったのは怪我をした個体合わせて八匹だった。うち三匹は死亡、もしくは重傷を負っているので、ほとんど戦闘能力はない。
動ける五匹は白亜の挙動を確認しつつ、ジリジリと迫ってくる。
「……もう、いいか」
『はい。やってしまいましょう』
逃げる意思はなく、襲いかかってくるのは確実だと理解した白亜はアンノウンを静かに構えて前にでる。
一歩一歩、ゆっくり歩いて巨大蜥蜴の群れに向かっていく様子は事情を知らない人なら自殺行為にしか映らないだろう。
だが、それは逆である。白亜に向かって進んでいる蜥蜴の方が自殺行為をしているのだ。
白亜は軽く目を閉じ、左手を降ろし右手のアンノウンだけをまっすぐ前に突き出した。
エレニカとの鍛錬で身につけた『最適な力の込め方』を思い出す。ペンというただの棒で柔らかい石を等分割する技、それを刃物でやったらどうなるだろうか。
目を閉じたまま感覚に従ってアンノウンを振った。
1秒後、目を開けると地面には大きく一本の亀裂が入っており、そこに立っていた四匹は真っ二つになって地響きを立てながら崩れ落ちた。それから逃れた他の蜥蜴もどこかしらが綺麗に切断されていて致命傷であることは明らかだ。
「……すごいな、ここまで成果が出るなんて……」
目の前の光景に、やった本人が一番驚いていた。




