IFルート 白亜が王都に行かなかったら
英語の授業で、クリスマスの挨拶はメリークリスマスではなく、ハッピーホリデーの方が常用だと最近知った龍木です。
毎年恒例クリスマス番外、ではあるのですが今年はちょっと趣向を変えて凄く番外編っぽいことやってみました。
所謂『もしも〜だったら』という内容のお話です。
評判良かったらこれからもちょくちょくIFルート書いていこうかなと思います。
今回は「白亜が王都に行くことがなく、ジュードと出会っていない」世界線のお話です。一応12/25日の話として作ってはいますが、リグラートにクリスマスなんてないのでただの日常のコマになっています。
興味ないなと思った方は読み飛ばしていただいて結構です。それでは、どうぞ。
これは、とある駆け出しの冒険者が依頼で偶然訪れた村の話。
その冒険者はランク2。まだまだ新人の彼はあまり争いごとには慣れておらず、周りの同年代の駆け出しよりも自分自身をよく分析していた為、討伐依頼よりも荷運びや採取の仕事を主に引き受けていた。
彼は「同年代に比べれば弱いわけではないが、中の下くらいの強さ」だった。
この年頃だと武器を握ったことにより、自分がより強くなれたと増長してしまうことが多い。
彼は自分が弱いことをしっかり自覚していたからこそ、慎重に仕事を選んでいた。
「荷運び……これでいいかな」
その日も彼は、掲示板にあった一枚の荷物運びの依頼を手に取った。
少々王都からは離れている村で、着くまでに馬を使っても一日近くかかってしまうからか人気がない依頼だった。
普通荷運びは討伐依頼を受けられなかった冒険者が暇つぶし感覚で請け負ったり、どうせ移動の際に目的地を通過するからと序でに受けることが多い仕事だ。これをメインでやる人は少ない。
この村はかなり辺境にあり、どこかに行くときに寄るという場所でもない。従って報酬はそこそこでも受ける人がいなかったのだろう。
報酬がそこそことは言うが、あくまで荷運びの依頼の中での話だ。
普通に討伐依頼やった方が実入りがいいし時間もかからない。
正直、魔物討伐ができるのならこれはスルーするだろう。
だが彼には良い依頼だ。辺鄙なところではあるが森も近いし、珍しい薬草なども手に入るかもしれない。
依頼序でに採取もできないか確認するだけでも利益は出る。高値で売れそうな物でも見つかれば知り合いの承認経由で買い取ってもらえるし、薬草なら薬師の母に渡して薬にすれば良い。
彼にとって危険の少ないこの依頼は、他の冒険者よりも魅力的に見えた。
「すみません、アシルさん。これで」
「ああ、ロディスさん。……はい。確認しました。依頼用の馬は貸し出しますので、この札を厩舎の者に見せてください」
「ありがとうございます」
彼……ロディスはギルドの受付に立っていたアシルから紙と札を受け取ってギルドを出た。
遠く、鐘の音が聞こえる。
時間的にはまだ早い。次の鐘の音が丁度昼時に鳴ると考えると、今から出て野営して向かうのが良いだろうか。
答えはすぐにでた。今日このまま時間を潰しても勿体ないと判断したのである。受付で渡された紙を手に持って、とある商店に向かった。
扉を開けるとドアベルがコロコロと来客を告げる。
「ああ、ロディー。いらっしゃい」
気さくに話しかけてきたのはここの店主だ。店主とはいっても学生の頃からの友人である。
「今日は依頼を受けたから荷物を受け取りに来たよ」
「あれ受けてくれたんだ。助かるよ。誰にも受けてもらえてなくって困ってたんだ」
ロディスがこの依頼を受けたのは、この店主の依頼だからと言うのもある。
「持ってくるからちょっと待ってて。あ、書類にサインしてくれる?」
「わかってる。やっておくから持ってきて」
このやりとりも珍しくない。この店は世間的にはあまり有名ではないが、鍛冶仕事をしている人専用の道具を取り扱っている為、あらゆる地域で一定の需要がある。
こんな風に遠くの村に運んで欲しいと言う依頼は多く、遠すぎて誰も届けてくれないと言うのはよくあった。
ロディスは勝手にカウンターの中に入って書類を埋めていく。一応お金の管理もカウンターでするのだが、ロディスを信頼しているからか咎める気配は一切ない。それだけの仲である。
「はいこれ。お願いするよ」
「わかった。それと何か珍しいものがないか調べてみたいから、ちょっと帰るの遅くなるかも」
「了解。お母さんの事は任せて」
「助かるよ」
ロディスの母は病気がちだ。自分の病気を治したいからと薬師にはなったが、どの薬でも完治は程遠い。
昔よりもかなり良くなってきてはいるものの、やはり心配だった。
だからロディスは長期間留守にする時は、友人にもしもの時のことを頼んでいるのだ。
ロディスが王都を出て丸一日。
件の村に到着した。着いてから、村を覆う柵に目をやり小さく感嘆の声を漏らす。
木で出来た柵だ。細かな装飾があるわけでも、魔力を散らしたり物理攻撃の威力を軽減する鉱石や魔法がかけられているわけではない。
だが、どうみても無駄がない。ロディスに建築の心得はないが、一目見ただけで「これは壊せない」と思わせる何かがあった。
あまりにもぴったりと木が組み合わさっているために繋ぎ目すらよく見えない。
計算尽くされたものとはこんな物を言うのだろうかと素直に感心した。
村に入ると、柵の素晴らしさとはかけ離れた普通の住居が並んでいる。いや、家々が遠すぎてポツポツと点在しているだけなので『並んでいる』と言う表現は間違っているかもしれない。
あの柵があまりにも見事だったために、他のものが全部見劣りして見えるのだ。
柵を見ていなければ、この家々をみても何も思わなかっただろう。
そんなことを考えつつ配達先の鍛冶場へと向かった。
鍛冶場の扉をノックすると、数秒で中から人が出てきた。
ロディスは依頼を受けていることを示す札を見せる。
「すみません、冒険者ギルドからの依頼で参りました。ロディスと言います」
「ああ、頼んでいた道具か。ありがとう」
中から出てきた鍛冶師は受け取ってすぐにそれを確認し、依頼完了のサインをしてくれた。
「それで、近くの森に少々興味がありまして、しばらく滞在させていただきたいんですが宿はどこでしょうか?」
ロディスが宿の場所を聞くと、鍛冶師が申し訳なさそうな表情になった。
「この村に宿屋はないんだ。何せ人が滅多にこないからね……」
「えええ……?」
せっかく村にいるのに野宿になるのか、と落胆するロディス。だがこれは珍しいことではない。
辺鄙な村ほど人は来ない。滅多に来ない旅人を泊めるための場所を常に用意しておくなんてコストがかかるだけである。
「泊まるところが無いのなら家に泊まってくかい?」
「いいんですか?」
「この村じゃ他人を泊めるなんて普通だからね。別に構わんさ」
宿屋は見つからなかったが、寝泊りする場所は見つかってホッとする。
鍛冶師に促されて鍛冶場に入ると、一人の青年が大きな紙に何やら書き込んでいた。青年はロディスの気配を感じ取ってか、手を止めて振り返った。
青年の顔を見た時、ロディスの呼吸が一瞬止まった。
あまりにも整っているせいで人形みたいだ、と思うより先に何故か「死ぬ」と直感的に感じ取ったのだ。異様な色に染まった眼に見られた瞬間に殺気に似た何かに触れた。
「……どちら様ですか?」
「冒険者の方だよ。仕事道具を届けてもらったんだ」
「……そうですか」
青年が目線を逸らすとロディスの呼吸も再開する。ロディスは、幼い頃に父を失くす原因になったケルピーを幻視した。今度は自分が殺される、と無意識に錯覚したのだ。
「ああ、ロディスさん。彼女はハクア。この村で農業を営んでいる」
「え、この人農家……? と言うか、彼女……?」
明らかに一流の冒険者と比較しても見劣りしない殺気を浴びている方としては、農家と言われてもピンと来ない。そもそも女性だったのかと軽く驚く。
混乱しているから軽くで済んでいるだけかもしれないが、案外すんなり理解できた。
「農家の人がなんでここに?」
「彼女は村の……相談役? みたいな立場なんだ。次期村長は彼女だと思うよ」
「……村長なんてやりませんよ。人に指示できるとは思えませんから」
ハクア、と紹介された青年? がぼそりと反論した。
鍛冶師は豪快に笑ってハクアの肩を叩いた。馬鹿力によってかなりバンバンと叩かれているものの、ハクアの体の軸は一切ブレておらず巨木みたいに平然と耐えている。
「そんな謙遜するな。ハクアが最も相応しいと誰だって思ってるさ。柵も森の地図も、誰もが君を認めるものだ」
「……いや、謙遜じゃなくて……」
聞く限り、あの柵はハクアが作ったらしいと知る。確かにあれだけ見事な柵を作る技術があり、見てはいないがおそらくかなり強いところが揃っているだけで十分素質はあるように思える。
別に村長に建築技術が要るわけではない。必要なのは村を守る知識だ。
あの柵は全て均一の厚さではなかった。あるところは分厚く、あるところは薄めに作られている。
おそらく攻撃の当たりやすい箇所を重点的に強化した結果があれなのだろう。村を守る知恵を持っていないとできない芸当だ。
「あ、あの。森の地図があるんですか?」
「……はい」
「それ、分けてもらうことってできますか? お金は払います」
「? ……どうして?」
「僕は薬師の息子で、ある程度薬草の知識があります。この森に特殊な薬草などがあれば是非売っていただきたいんです。勿論自分で取りに行きますから」
それを聞いてハクアが小さく目を細めた。感情があまりにも読み取れなさすぎて怖い。しかも何故そんなに死んでいるのかと聞きたくなるほど表情が死んでいる。
不幸が続いて引退した冒険者でも、もう少しマシな表情をしている。
「わかりました。……地図はお渡しします。薬草も……取り尽くさなければお金は結構です」
「それでいいんですか?」
「……ただし、私も行きます」
「え?」
というわけで、何故かハクアと一緒に行くことになってしまった。謎すぎる。
ロディスの心臓は高鳴り続けている。恋心とかそんな感じの可愛らしいものではなく、純粋に命の危機を感じるのだ。
ロディスは昔からそういう感覚には鋭い。危険を察知し、予測することは誰よりも上手い自信があった。
その感覚が警鐘を鳴らせ続けている。この人はヤバイと。
「あ、あの。ハクアさん? その、もう少し警戒を解いてもらえると……」
「……ぁあ、そうですね。失礼しました」
言われて初めて気づいたのか、すぐにのし掛かるプレッシャーが消えた。うっすら残っていない気がしないでもないが、さっきと比べたら雲泥の差だ。
それから無言で歩き続けるハクアに、いい加減無言はきつくなってきたロディスが話しかける。
「強い、ですよね?」
「……さぁ、どうでしょう。人間、死ぬときは死にますし……強い弱いの基準って人それぞれじゃないですか? 貴方にとっての基準で考えてもらえればいいです」
そのあたりの関心が一切ないのか、さらっとそう言われた。
それからも頑張って話しかける。
何故農業をやっているのか、相談役とされているのか、何者なのか。ほとんどの質問には「親がやってる仕事だから」とか「気づいたらそんな立場になってた」とか答えてくれたが、自分の強さに関することはほとんど答えてくれなかった。
明らかにこんな場所で収まっているべき人間じゃない。もっと偉業を成し遂げられる生活はあるはずだ。
それなのに、何故かそれを選ぼうとはしない。ロディスにはあまり理解できなかった。
「これはキキル草です。煎じてお茶に混ぜるとリラックス効果があります」
「この苔みたいなやつですか?」
「はい。二日天日干しにしてから煎じるんです」
ハクアが付いてきた理由は『薬草の知識を知りたいから』だった。覚えておいて損はないと判断したらしい。意外と勤勉だった。
「なんで街とかに行かないんですか? 絶対英雄になれますよ」
「……英雄なんかには、なれませんよ」
何故か、少し悲しそうな声色だった。なれません、とは言っているが「なりたくない」と言っているような気がした。
昔何かあったのか、聞いても答えてくれなかった。
このIFルートでは白亜が一生暗いままの人生を送ります。
ジュードと会っていなければ学校にも行きませんし、必然的にリンとも会っていないことになります。そのため村から殆ど出たことがない、と言う状況になると思います(白亜の性格的に村から出て旅しようとか多分思わない)。
ただ、おそらく重宝はされるので早死にすることもないと思います。
そこから先は転生することも多分ないので白亜のお話は一生村の中でひっそり暮らす感じになりそうですね。でも村の生活水準は上がりそう。




