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「いえ。あのウサギの味が知りたかっただけです」

ちょっと短めです。

 量は多かったが、唐揚げは美味しかった。


 肉質自体はかなり柔らかく、簡単にフォークで解せるほどだった。


(顎を蹴り砕いた時もかなり首が回ってたし、筋肉の柔軟性が高いんだろうな)

『そうでしょうね。あれだけの巨体を支えるには体の柔らかさも重要なのでしょう』


 その後もちまちまと食事をしているとエヴォックが店に入ってきた。


 白亜の隣に座ると、店主に声をかけてワインとバルバ・ゼールの唐揚げを注文した。


「これ、この店の名物って知ってて注文したのかい?」


 手元の唐揚げを示される。


 白亜は当然何も知らないので首を横に振った。


「いえ。あのウサギの味が知りたかっただけです」

「君からしたらただのウサギだろうね……あれって相当な力量がないと難しいから常に看板メニューとしておいているこの店って結構すごいんだよ」


 白亜からただのでかいウサギだが、バルバ・ゼールは普通に強い。


 リグラートでランク認定するのなら8ランクあたりだろうか。この世界のベテラン冒険者の平均が7だとすると、ベテランで組んで戦えば勝てないわけではない相手、という認識が正しいだろう。


 めちゃくちゃに強いわけではないが、確実に弱い部類には入らない。


 しかも、ランク8認定なのは単独での遭遇の場合のランクだ。群れとなるとおそらくランクは10以上に跳ね上がる。ただでさえ足が早いバルバ・ゼールが多方向から一気に攻めてきたらかなり危険だ。


 一匹だけならまだどうにかなる。あまりにも体が大きいため小回りが効かず、バルバ・ゼールは直線的な動きしかできないからだ。


 それが群れとなると向かってくる方向の特定ができても逃げ場がなくなるので人間の方が容易く狩られる側に回ってしまう。


 この店で卸しているバルバ・ゼールはおそらく単独のものを狩ったものだろうが、それでも入手は楽ではない。そう考えると、常にバルバ・ゼールを売っている店は凄いと言われても納得できる。


「そうなんですか」


 白亜の反応は相変わらず薄いが、一応これでも感心している。


「そうなんだよ。ああ、それと、これが買い取り金額だよ。確認してほしい」


 エヴォックが差し出した紙には800万ゼール以上の大金が書き込まれていた。


「これ、桁合ってます?」

「合ってるよ。君の持ってきたものはどれも質が良かったからね。少々色をつけさせてもらったよ」


 800万といえば日本円で80万だ。白亜からしてみればそのくらいのお金はすぐに稼げる程度のものでしかないが、一時期本当に貧乏な時期があったために小市民なのは抜けていない。


「あ、じゃあ60万はとりあえず借金の返済に当てます」

「ゆっくりでいいのに。武器も買わなきゃでしょ?」


 中古で買った剣が折れたことをまだ話していないのに何故そんなことがわかるんだ、と一瞬思ったが、壊したのは白亜自身なので特に何も言わない。


 自分自身の未熟さで剣を折ってしまったのだから、それに関して文句を言うのは間違っている。


 白亜はその後、エヴォックと軽く話しをしてから宿を取りに店を出た。


 誰かと共同生活するのは慣れているが、今回はあくまでも仕事である。一ヶ月間は生活を保証されているとはいえ、白亜はなるべく一人の空間が欲しかった。


 宿を取ってから部屋のベッドに寝転がる。固めのマットレスに若干の不満を覚えつつ前田の動きを観察しては報告書に記載していく。


 前田はエヴォックのギルドで登録をしてから意気揚々と街の外に出て行った。


 街の周辺に巣食う大きめの芋虫の退治の依頼だったそうで、1メートル近くの芋虫が剣で切られて倒れていく様を観察していたら白亜の方が気持ち悪くなってきた。


 この依頼を受けたのは昼過ぎだ。


 依頼はきっと朝からあったのだが、芋虫と戦うことが嫌な人(特に女性)が多かったためこの時間まで残っていたのだろう。やはり売れ残る依頼は良いものではいなと改めて思った。


 前田は街に帰ってきてから芋虫を切った剣を入念に洗っていた。


 触りたくないらしい。触りたいという人は滅多にいないと思うが。


 白亜ももちろんその一人である。

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