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『ちゃんと話聞いてますか?』

 白亜が全員の記憶を一部消していることもあり、意外と大きな混乱が起きなかったのは不幸中の幸いだった。


 白亜が消したのは『死んだときの記憶』だけだが、それがあるのとないのでは大きな差が出る。


 自分が死ぬ瞬間は、かなりキツイ事を白亜は身をもって知っている。


 痛みは勿論、その瞬間には強い想いを抱くことが多い。白亜の場合は怒りや憎しみに近いものが多いが、相打ちでも復讐を果たせたのでまだスッキリして死ねた(それが良いことなのかはわからない)


 だが、ここにいる人たちは全員事故死している。恐怖や後悔が大きく残ってしまうと、これから先ここで生きていく上で差し支える可能性があることは白亜でもわかっていた。


 彼らを強引にこちらの都合に引き込んでしまっているのも事実。考えた末の記憶削除だった。


「えっと、あの」


 考え込んでいる白亜に声をかけたのは、最初に声をあげた女性だった。


 天照大神から貰った情報に照らし合わせると、彼女は高校三年生。この中では比較的若いが、誰よりも落ち着いている。名前は確か、横山(よこやま) (めぐみ)


「はい」

「あの。自己紹介……っていうか、日本語わかります?」

「……リシャットです」

「それだけ……?」


 名前以外に何を言う必要が? と首をかしげる。


 ちなみに今の白亜は金髪碧眼のリシャットスタイルだ。流石に本来の髪色でこの中にまぎれるのは無理がある。今でも十分目立っているが、黒髪にしてしまうとそのまんま揮卿台白亜になってしまう。


 むしろ色々と危うそうなのでこれで行くしかない。


 全くの別人に変装することもできないことは無いが、微妙に面倒なのでその手間は省いた。


 白亜がぼーっとしている間に、周りの人たちは情報交換を始めていたらしい。


 とはいってもただの自己紹介だったので、既に名簿で全員の名前を覚えている白亜は参加する必要もなかった。


 だが、側から見ると『この異常事態でも人の話聞いてない』変人でしかない。


 実際そうなので、白亜もその認識でいてくれて構わないと思っている。


 そうこうしていると遠くから馬車の音がしてきた。それも一台ではなく複数。おそらく白亜以外の誰もこの音には気づいていないだろう。


 このままだと移動を始めてしまいそうなので、一応全員に「向こうから何かくる」ことを伝える。


「あ、本当だ。何か音がする」


 十数秒遅れて、横山が反応した。白亜はそれに多少驚く。


『相当耳がいいですね』

『常人にしてはかなり早いな』


 白亜は別として、普通の人間ならまだまだ気付ける音の大きさでは無い。耳を澄ましているからとはいえ、かなり繊細な音でも聞き分けられる耳でも無い限り聞き取るのは難しいだろう。


 その証拠に、さらにかなり時間をおいて周りの人たちが気付き始めた。


「……どうする? とりあえず会ってみるか?」

「どんなやつなのかもわからないのに? そもそも人間なのか? この音がライオンの群れとかだったらシャレにならないぞ」


 まだ目視できる範囲にいないので、逃げるなら今のうちである。だが、逃げたら唯一の情報源を失うことになりかねないのも事実だ。


「おそらく、人かと。音が人工物っぽいです」


 白亜は多少ヒントを与える。あまりたくさん関与してもいけないだろうとは思うが、少し話すくらいなら問題はないだろう。


 その後少し話あった結果、とりあえず会ってみようということになった。その頃には、近付いてきている相手も目視できる範囲にまで接近していた。


 周りの人たちは若干ビクビクしながらも、助けを求めるように手を振る。


 ここで無視されたら本当の意味で遭難だ。


 運が良かったのか、必然だったのか。馬車は近付いてきて、目の前で停車した。


 頑丈な造りではあるが、華美な装飾が入っている。白亜は一目見た瞬間に貴族用だと察した。


 この世界に貴族がいるかどうかは不明だが、身分が高い相手であることは明白だろう。


 先頭の馬車の扉が開く。出てきたのは二十代そこそこの男性だ。皺ひとつない服を着込んでいる。


 黒いスーツに近い服を着た男性は柔和に笑みを浮かべて馬車を降り、丁寧に頭を下げた。


「お待ちしておりました。マレビトの方々。ご案内いたしますので、どうぞこちらへ」


 マレビト、とはこの世界に来た他世界の人の総称だ。ここにくる前に多少そういったものの基本知識や常識はざっと聞いたが、ここにいる白亜以外の人たちは何もしらない。


「「「???」」」


 全員わけがわからない、といった表情だが、敵対者ではないことはなんとなくわかったために言われた通りに馬車へ乗り込む。


 白亜は馬車の中で黒スーツの男性の話をぼんやりと聞きながらこっそりため息をついた。


(ここからが俺の仕事だなぁ……)


 白亜が任されたのは監視だ。人を見るのがあまり得意ではない白亜にとっては中々難しい課題である。


 ちらりと監視対象者の勇者になる予定の男性を見ると、真剣に黒スーツの話を聞いていた。今のところ問題はなさそうだが、どうなるかはわからない。


『ちゃんと話聞いてますか?』

(……シアン聞いといて。後で教えて)


 やる気のない白亜に、シアンが大きくため息をついた。

 白亜はあまり乗り気ではないようです。

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