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『火事か何かでしょうか?』

 今回の件に関しては、やらなければならないことが最低でも三つある。


 一つは、無人工場を見つけ出すこと。ただし、これは移動するので見つけ出すというより毎度毎度出てくる場所を特定する必要がある。


 二つ目は、被害を出さずに入り込むこと。無理に入り込もうとして入り口を広げてしまえば、事故が起こる。亜人戦闘機の移動に伊東が巻き込まれた時と同じだ。それにそもそも白亜は空間を歪めて別空間に入ること自体があまり得意ではないため、これに関してはできそうになければエレニカを頼るしかない。


 三つ目は、工場を破壊、もしくは機能を停止させること。工場を作ったのは仮にも神と呼ばれる存在だ。そう簡単には潰せないだろうと予測して、無理に壊さず停止させるだけでもいいだろう。


 今まで『手を出さなければ大した被害を出さないから』といった理由でリスクを避け、工場を放置してきた白亜だったが、そうも言っていられない。


 これからも亜人戦闘機が新たな進化を遂げてしまい、凶暴性が増せば取り返しのつかないことになりかねない。


 動物よりも圧倒的に改造が楽な機械だからこそ、危険度は跳ね上がる。


「これでとりあえずはいいか……問題は見つかってからだな」

『ひとまずお帰りになられますか?』

「ああ、そうだな。何か進展があればすぐに連絡してくれ」

『かしこまりました』


 ヒカリと情報交換を終え、とりあえず屋敷に戻る。


 そもそも今日はこんな問題を解決するために帰ってきたのではなく、必要なものがあったから買い物にきたのだ。


 他の理由としては美織が帰ってこいと少々騒がしいのもあるが。








 帰るついでに買い物を済ませ、転移ではなく徒歩で屋敷に向かう途中、周囲が非常に騒がしいのを聞きつける。


 耳のいい白亜では、聞こえすぎて耳が痛くなるほどの騒がしさだ。


「なんだ急に……? 何があったんだ?」


 周りの音に耳を傾けたいが、今それをやると使いすぎで頭が痛くなりそうなのでやめておく。


 歩いていくにつれて、なぜかパトカーや消防車が白亜の横を追い越していく。


 するとここで、白亜の鼻が木の焼ける匂いを嗅ぎつける。


『火事か何かでしょうか?』

「わからん。ちょっと急ごうか」


 普通の大人の全速力くらいの速度に抑えて走ること20分。


 大勢の人だかりの中心にあったのは、白亜が今目指していた屋敷である。


 煙は見えないが、白亜の嗅覚では辺りに焼け焦げた匂いが漂っているのがわかった。


「一体何が……っ!」


 屋敷の警備は白亜が手を加えているので、早々危険なことにはならないだろうと楽観視していたのが仇になった。


 正門からでは人が多すぎて入ることが難しそうなので、即座に脇道に入ってから転移で敷地内に飛ぶ。


 念のために幻覚魔法を使って、周りからの認識を阻害する効果も発動させておいた。


 自分の部屋に直接飛んでもよかったのだが、周囲の確認をするためにも、一回庭を含めて全体を見るために庭から入った。


 庭にも人が相当数居た。だがそれは野次馬ではなく、警察や消防の人間らしい。やはり何かあったのだ。


「お嬢様は……」

『魔眼、お借りします』


 白亜の魔眼を使ってシアンが急遽、美織の場所を確認する。


 実は、白亜が探すよりシアンが白亜の体を使った方がこういった捜索は早く済むのだ。


 さすがはサポート特化能力といったところだろうか。


『庭に。物置小屋です。欄丸も居ます』


 即座に場所を割り出したシアンから聞いた場所に走ると、美織と欄丸が大柄な男から何やら話を聞いているところだった。


「リシャット! 帰ってきてたの?」

「はい。……一体何がどうなっているのです?」


 見た感じ無事であることに安堵しつつ、ちらりと欄丸の方を見ると、静かに目をそらされた。


 ……嫌な予感がする。


「えっと、君は?」

「ここの管理を任されています、リシャット・アルノルドと申します」

「管理? 責任者かい?」

「責任者というより、お手伝いですね。……それで、この状況は一体……?」


 色々と話を聞いたところによると。


 どうやらまた空き巣がでたらしい。また、という言い方は何かおかしい気がしないでもないが、この屋敷はどう見たって金がありそうな形をしているせいか、そういう輩が絶えない。


 ただ今回に限って言えば、偶然美織と欄丸が近所のコンビニから帰ってきたところと鉢合わせてしまったのだそうだ。


 屋敷は白亜の守りでガッチガチにロックがかかっている。窓ガラスすら、外からの衝撃では銃弾を通さない頑強さがある。もし何かあった時に窓を壊さなければならない(それこそ火事で逃げ場が無くなった時など)に壊れないと困るので、内側からの衝撃にはあまり強くないが。


 そんな家に入り込むことなど普通の人間なら基本的に不可能だ。


 白亜は昔、襲撃者が来たら迎撃するシステムを構築していたのだが、さすがにそこまでやって【あの家マジでヤバイ】などという噂でも立ってしまえば、美織の父……大地の仕事になにか影響が出てしまうかもしれない。


 会社経営とは、少しでも揺らぎがあればかなり響くのだ。侵入者を完膚なきまでに叩きのめす家に住んでいると世間に広まったら、印象が悪くなる可能性もある。


 ……白亜の場合、えげつない罠をわんさか仕掛けていたので。もっとソフトにすればいいだけなのだが。


 そんなわけで、庭には入り込めても家にまでは入れなかった空き巣は偶然鉢合わせた少女と細っこい青年を見て『こいつらビビらせて金目の物持って来させればいい』と思った。


 大抵はそうなるだろう。すでに見つかってしまっているのだし、この少女と青年という二人ならば抑え込めると思うのは当然かもしれない。


 だが残念ながらこの二人は普通ではなかった。


 美織も欄丸も、白亜から体術を教わっている。しかも欄丸に関してはかなり容赦のない仕込み方をしている。


 欄丸は、白亜としか手合わせをしたことがない。


 つまり『普通の人間』にしなければならない手加減を知らないのだ。


 その結果。


「右手首および肋骨にヒビ、左肩は脱臼していました。それに足にかなり酷い打撲があり、全治何ヶ月になるか……一体どこのボクサーですか、彼?」

「あー……別にボクサーではないんですけど……」


 ただの狼である。


 そして空き巣犯をボッコボコにした二人だったが、ここで予想外の事実が発覚する。


 空き巣犯は三人組だったのだ。白亜から言わせてもらえば「なんで複数犯の可能性を最初に考慮しないんだ」と欄丸に説教したいところである。欄丸も欄丸で美織を守るのに必死だったのだから、仕方がないかもしれないが。


 ……その美織も、容赦なく侵入者をボコっていたのだが。


 話は戻して、美織と欄丸に運良くボコられなかった残り二人は、逃げるために物置小屋に火を放った。


 運良く物置小屋に住まう猫たちは全員外に出ていて、一匹の被害もなく、ただ白亜の庭いじり道具が焼失しただけの結果になった。


 だが、予想外の火災に美織と欄丸は大慌て。通報も忘れて火消しに必死になっていたのだそうだ。


 気持ちはわかるが、あまりよろしい行為ではない。


 そうなったらまず距離を取ってから警察なり消防に連絡をし、そのまま屋敷からなるべく離れるのが得策だ。


 屋敷には白亜の防護がかかっている。小屋には耐震性をあげる魔法くらいしかかけていなかったので火が燃え上がってしまったが、いくら屋敷に火が近づこうが燃え移ることはない。


「それで、火に気づいた近所の人が110番通報をして」

「なるほど。状況はつかめました。お手数おかけして申し訳ありません」

「いや、そんな」


 白亜は二人に近づいて、小さくため息をついた。


「……次からは空き巣や強盗に遭遇しても、極力戦わないこと。何かあったら私を呼ぶこと。……二人ともわかりましたね?」

「「はい……」」


 今回は空き巣が油断してくれたからよかったものの、次は無事でいられるかわからない。安全面からも、会敵はなるべく避けてほしいところだ。


「それで、なんでコンビニに?」

「「…………」」


 なぜ、何も言わないのだろうか。


「お嬢様? 何を買いに行っていたのですか?」

「……接着剤」

「接着剤? 言っていただければお貸ししましたが」


 そもそもなぜ必要なのか? 白亜が首をひねっていると、美織と欄丸が目を逸らしながら小さな声で白状した。


「「……パソコン、壊した」」

「は?」

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