『かしこまりました。十分ほど頂きます』
白亜が真っ先に連絡を取った相手はヒカリだった。
通信してすぐに新型の調査データを送り、自身も転移で飛んできた。
『お待ちしておりました』
「早速だが本題だ。データはさっき送ったが、新型の情報はこっちにもないか?」
『はい。遭遇データはすべて見直しましたが、該当するものはありませんでした』
白亜は数秒目を瞑る。新しくできた亜人戦闘機をヒカリも知らないとなると、ここ数日で完成した可能性が高い。奴らに関する情報なら、白亜以上に詳しいのはヒカリだろう。
なにせ元はそのために作られたのだから。
考えがまとまったのか、白亜はゆっくりと目を開ける。
「……試してみるか。ヒカリ、少し頼みたいことがある。手が要るから、稼動可能な弟達を可能な限り集めてくれ」
『かしこまりました。十分ほど頂きます』
言うが早いが、ヒカリは即座に動くことのできる機械達を招集した。
この拠点を守る最低限の戦力と、情報を伝えるための物のみ残して。
きっかり十分後、ヒカリの弟達……白亜の作った兵器達が集まっていた。
機械なので体力というものはないのだが、ほぼ全機が全速力で集結したせいでバッテリーが持たず半数以上の機械達が補給専用機器である『ハツカ』に充電ケーブルを繋いでいた。
ハツカは白亜の作った物たちの中でも戦闘に重きを置かれていない珍しいタイプの物だ。
作られた経緯が経緯なので、サポートに特化しているヒカリであっても戦うことができる。ただし、ヒカリの場合は体のスペック的にはそこまで高くはないので、あくまでもサポートではあるが。
ハツカの場合は、戦闘能力に関してはほぼ皆無と言っていい。他の機械達がヒカリを除けばほとんどが最大でも大型犬くらいの大きさなのに対し、ハツカは高さ二メートルほどもある。
ちなみに、白亜の知らぬうちに魔改造された結果により馬になれる。ただし足は遅い。
あくまでも補給のための装置なのだ。
ハツカは内部に溜め込んである気力のエネルギーを利用して自家発電し、それを他の機械達に運ぶことができる。
気力を使うという点では亜人戦闘機と似たエネルギー運用ではあるが、白亜の場合は他の気力持ちの人に比べて圧倒的に量に余裕があるので、コストはほぼゼロに近い。
亜人戦闘機が使っていた気力を変換するベクトル・シリグは、効率が悪かったために使い物にはならない代物だったが、ハツカは気力を完璧に理解している白亜だからこそ完成した物であるといえよう。
とはいえ、いつ補給できるかわからない白亜の気力をあてにするのではなく基本的には太陽光発電で賄っている。
床にしゃがみ込んだハツカの周りを、ケーブルをくっつけた機械達が埋め尽くしている。ちょっと異様な光景だ。
「……こんなに急がなくても良かったのに……」
ハツカからの充電を終える前に、白亜はそれぞれに調べて欲しいことを伝えて解散した。
その日の晩、早速ヒカリから連絡が入った。
『先ほど、上空を見回り中の空狐から連絡が。亜人戦闘機を発見したとのこと。ですが旧式ですね』
「旧式の方か。まぁいい、座標と映像を送ってくれ」
『かしこまりました』
白亜の前にある薄い半透明の板に、上空からの映像と地図が表示された。
それを確認してから白亜は数秒黙り込み、すぐにヒカリに新たな指示を追加する。
「ここから、ここ。それと、ここを重点的に見回り頼む。50キロ圏内はくまなく」
『はい。伝えます』
通信を切って、小さく息をつく。
「難しいな……時空間を歪ませて移動する無人工場をどう見つけるかが問題だ」
『見つけたところで入れるかもわかりませんしね』
シアンの言葉に頷く。
移動する---つまり空間ごと別の場所に出現する亜人戦闘機の工場を潰すには、まず入り込めるかが重要だ。
白亜は一応時空神とはいえ、かつて行方不明になった伊東を探した時も大変だったように、なんでもできるわけではない。
時空間をある程度は弄って大抵のことはなんとかできる白亜だが、入れない空間も存在する。
それはあまりにも狭すぎるとかの物理的な問題ではない。
歪められる範囲があまり広くないので、弾かれてしまうのだ。
簡単にいえば、ペットボトルを潰す時、柔らかいものは絞って小さくできるが、二リットル入っている大きな物であれば絞るのはかなり握力がないと難しいだろう。
白亜の場合、柔らかいペットボトルしか潰せないのだ。そのため硬いペットボトルは潰すことができず、空間を歪めることも入ることもできない。
これがエレニカみたいな圧倒的な格を持っている神ならば簡単に硬い物でも片手で握りつぶせるのだが、今の白亜には難しい。
神としての力は破格とはいえ、まだ成り立てなのだ。使い方もあまり上手くない。
今回の件、どうしようもない場合はエレニカに後処理を頼むしかないかもしれない。
「また迷惑かけるのは避けたいけど……」
『今回の件はかなり危険度の高い重要案件です。きっとエレニカ様も引き受けていただけるでしょう』
「そうだな……」
ここでチカオラートの名前は白亜の頭を過るどころか掠りすらしなかったのは、もう無意識にチカオラートを意識の端に追いやろうとしているのだろうか。




