「危険ですね」
「……で、どうしてこうなったか言い訳を聞きましょうか?」
「「……ごめんなさい……」」
美織と欄丸が白亜に説教されていた。
このことに関しては、結構あることである。特に欄丸に関しては色々と不注意が過ぎることもあり、そこそこの頻度で白亜に怒られている。
だが、今回白亜はいつも以上に目が死んでいる。要するに怖い。
ことの発端は二週間前に遡る。
一旦リグラートでの仕事を終えて帰ってきた白亜に、とある人物から電話がきた。
その人物は、亜人戦闘機対策部隊の元トップ、水口である。
亜人戦闘機は白亜が元凶を叩きのめした(物理的に)ので、その運用自体もストップしている……ことはない。
実は、亜人戦闘機は遠隔操作で動かしているものと自律思考で動かしているものの二種類があったのだ。
揮卿台 白亜だったころはまだ技術もそこまでのものがなく、遠隔操作か、中に直接入って動かすかの二択だったらしい。ちなみに中に入って操作するのは危険度も高い上に操作性もかなり難しいのでほとんどやらなかったそうだ。
相討ちでなんとか倒した、あの亜人戦闘機は中に人が入っていたらしい。ということは割と最近知った。
だが、時間が経てば技術も進歩する。実のところ、ここ十数年ほどは亜人戦闘機の半数近くが自律思考式のものだったらしい。
白亜も美織に隠れて亜人戦闘機を壊して回っている際に、反応が遅い個体がいることに気づいてはいた。
どうやらそれが完全自律式の亜人戦闘機だったらしい。
亜人戦闘機の半数が、人の手を離れていた。それが問題だったのである。
遠隔操作で動かすタイプのものは人が動かさなければそのまま停止しているだけなのだが、勝手に行動している方はそうはいかない。
しかもとんでもないことに、生産まで自分たちで行うというのだから技術の差がすごい。
つまり、稼働の必要がないにも関わらず、自律式の亜人戦闘機は勝手に地球を捜査して数を増やしているのだ。
そしてそれは、停止信号を送れば止まるはずなのだが。
今生き残っているあちら側の人は当時ほぼ奴隷の扱いでそんな重要なことは知らないし、知っていたであろう人の範疇を超えた存在は白亜の手によって見事にボッコボコにされた。
そのため、本来なら必要なくなった筈の亜人戦闘機対策部隊はいまだに活動しているのである。
……とはいえ、自律式のものはそんなに強くない。生産にすら人が関与しないので装甲も薄く、気力がなくとも倒せる程度のものである。
しばらくすれば本当に気力が要らない時代が来るだろう。
まだもう少しは必要なのだが。
白亜は携帯電話をとって通話のボタンを押す。
「お電話をかけてくるとは珍しい。何かありましたか?」
「はい。困った時にのみ頼みごとを押し付けるのは、こちらも心苦しいんですが」
「構いませんよ。そもそもの発端は私のせいでもありますし。……それでご用件は?」
美織への小テストを作りながら携帯を肩と頰で挟んで電話する。
「亜人戦闘機の新形態が出ました」
滅多に感情を表に出さない白亜でも少しは動揺したらしい。不安定な状態だった携帯電話がするりと落ちる。
地面に落下する前に即座に空中でキャッチし、改めて携帯電話を耳に当てた。
「新形態……? なぜ」
「それが、向こうの住人からの連絡なんです。なぜこうなったのか全く不明だとか」
亜人戦闘機の自律生産は、元のプログラムあってこそだ。設計図が完璧にあるからこそ作ることができるのであって、改造したり組み替えたりということはできない筈なのである。
ヒカリをはじめとした白亜の作った武器たちには逆に生産を禁じて自己進化を許したが、亜人戦闘機たちは両方をやってのけてしまったということになる。
「危険ですね」
白亜の目が細められる。
生産と自己進化を可能にしてしまえば、倫理観というものに縛られない機械は物を作り出すことに抵抗が一切なくなる。
兵器の大量生産ならまだ白亜で対処できるが、亜人戦闘機そのものが凶暴化でもしてしまえば日本中大パニックだ。
今はまだ『調査』という名目で動いているという命令が効き続けているので大きな混乱はないし、徐々に解決できるだろうが、凶暴化が始まれば悠長なことは言っていられない。
多少強引でも早急な対処が必要である。
「生産所はどうです?」
「まだ見つかりません……」
「そうですか……」
亜人戦闘機が作られているところは、いまだに発見されていない。
というより、何箇所もある上に、移動するという厄介な性質を抱えているのだ。
白亜も三件ほど潰しているのだが亜人戦闘機がまだ街中に出回ることを考えるとペースが追いつかない。
「とりあえず、新種についてのデータを送ってもらえますか?」
「もう送らせていただきました。共有データのファイルに入っています」
「ありがとうございます。とりあえず確認させていただきます。一応こちらでも他に発見例がないか探してみます」
「お願いします」
言うが早いが、早速パソコンを立ち上げてデータを確認する。
そこに載っていたのは、確かに白亜も見たことのない種類のものだった。
「……かなり装甲が厚いな。銃弾は通らないかもしれない」
『解析します』
「頼む」
シアンに詳しく解析を頼む間に、専用の通信機を懐中時計から取り出して電源を入れる。
「……俺だ。少し頼みたいことがある」
開口一番、即座に用件だけ伝えた。




