『昔を思い出しますね』
前回、風邪をひきましたと前書きに書きましたが。
また今週風邪をひきました。
風邪治って一週間後に風邪をひくという免疫力の無さに自分でもびっくりです。
中国では新型のウィルスが流行っているみたいですし、皆様もお気をつけください。
真っ暗でも十分視界を確保できる白亜は、面倒だったのでこの部屋の明かりをつけなかった。
そのおかげで今この部屋に入ってきた人物は、今白亜が勝手に入り込んでいることをまだわかっていないらしい。
扉を開けてから魔力を流して部屋全体の明かりを点けた。
白亜の魔眼もそれに合わせてシアンが光量を調節する。
普通、暗いところから一気に明るいところへ移動したりすると目のピント調節が間に合わず一瞬視界が白く染まるのだが、白亜の場合は暗視に加えて明視という特性も持っているのでどれだけ明るくとも問題ない。
なんなら太陽を直視しても大丈夫だ。
部屋に入ってきた人物はまだ見えない。だが、足音に関しては聞き覚えがない気がする。
歩調や歩き方で、足音は人によって異なる。
ただ、それで完璧に認識することは基本的に不可能だ。靴を変えるだけで音は変わるし、その日の体調、気分によっても歩幅は変化する。
あくまで【こんな足音がする傾向がある】というだけである。
匂いや声で判別する方がよっぽど正確だ。
『遠視を使えたら相手の姿が見えるのですが……』
普段ならここで魔眼を使って相手を確認するのだが、今は幻覚魔法を使用している。
自分の姿を一定期間消す、という強力ではあるが少し地味なこの魔法は意外にも消費魔力が大きい。
姿、匂い、それと音もほんの少し遮断できるので結構便利な魔法だったりする。
そのため普通の魔法使いでは10秒ほどしか維持できない、燃費の悪い魔法だ。
白亜の場合は全く問題ないのだが、この魔法は消費魔力が多い以外にもコントロールが難しいという欠点を抱えている。
そのため千里眼を使えるほどの余裕がないのだ。
実は余裕なら少しあるのだが、もし相手が友好的な者でない場合に戦闘になる可能性を考えると、切り替えに時間がかかれば命取りだ。
白亜が命取られることは多分ないが、この城の者に迷惑をかけるわけにもいかない。
……もうかなり迷惑はかけてしまっているが。
どうしようかと白亜とシアンが頭を捻っていると、扉がまた開いて足音が遠ざかっていった。
完全に聞こえなくなってから物陰から這い出す白亜。隠蔽の効果は切れていた。
「……案外あっさり帰ったな……」
『部屋の中心で何かやっていたみたいですね』
相手の姿は確認していないが、仕方がない。
とりあえず今の人物が何をしていたのかチェックする。
「魔力認証式の鍵……やっぱ開けちゃうか……証拠隠滅すれば」
『結局そうなるんですね……』
開けないと決めていたが、今この部屋にきた人物の足音に聞き覚えがないので侵入者の可能性も考慮して、シアンも無理に開けるなとは言えない雰囲気になっていた。
普通、魔力の波長を読み取って鍵がわりに使うこの手の錠前は本人にしか開けることができない。
指紋や声紋はどこからか入手できるかもしれないが、魔力という形のないものは基本持ち込めない。
魔力をためておく道具を使う、という方法なら持ってこられるかもしれないが、意味もなく魔力をためて保管する人など早々いない。魔力とは、外部に持ち出されにくい代物なのだ。
「こうして……で、ここを、押して……よいしょ」
……白亜には全く関係ない話ではある。
日本でも子供の頃には針金でピッキングしてしまっていた白亜に開けられないものは基本ない。
ちなみにピッキングを覚えた理由は、家の鍵を通学の時にショートカットで使っていた山中のどこかに落としてしまって家の庭で一人野宿したことがあったからだった。
鍵は川底に落ちていたのを見つけて拾うことができたので良かったが、もうあんな思いはしたくないという強い願いが『鍵あけの技術会得』に繋がったのであろう。
まだ夏だったからよかった。冬だったら雪に埋もれて凍死である。
「できた」
ものの10秒ほどでサクッと鍵を開けてしまう。
中をのぞいてみると、数冊の分厚いカバーの本が入っている。
ずっしり重いそれを持ち上げてみると、どうやらアルバムらしきものだとわかった。
机に広げてみると、ジュードと白亜、リンが学校を卒業した記念に撮った時の写真が出てきた。
「これ……ジュードの?」
パラパラと捲ると、コメントの書かれた写真がいくつも出てくる。
見慣れている白亜はすぐにわかったが、ジュードの筆跡に間違いない。
どうやらこういうものをマメに記録するタイプだったらしい。
見ていると懐かしさを覚えるアルバムは数冊に渡って白亜たちの行動を事細かに記録していた。
気づけば、なぜか全て読み込んでしまっていた。
『昔を思い出しますね』
「ああ、そうだな……」
パタン、と閉じて元の場所へしまう。鍵をかけ直し、地下室を出た。
「まぁ、大事なくてよかったよ。なんかヤバいものでもあったらどうしようかと思ってたし」
『ええ、それは本当に』
ただのアルバムしかない平和な場所だった。
そのあと城を歩き、先ほどの足音の相手を発見した。白亜もよく知るメイドで、今朝方足を挫いてしまったため少しよろけながら歩いていたのがいつもと違う歩調の理由だった。
後日、城内に何者かが侵入したと大騒ぎになった。
あのメイド以外誰も地下に近づいていないのに、なぜかそこから人が出てきたという痕跡が残っていたのだ。
入る時に隠蔽をかけたのだが出るときは効果が切れており、痕跡が少し残ってしまっていたらしい。
そのため城から地下へ向かい帰ってきたのではなく、外から誰かが侵入し今尚潜伏しているのではないかという噂が流れた。
ジュードからその話を聞いた白亜が白状し、一旦その件は落ち着いたのだが。
それよりも勝手に棚を開けて中身を見たことに対してジュードからこっぴどく叱られた。




