「一個だけ、開けてみるか」
昨日風邪ひきました……インフルではなかったです。
皆さんもお気をつけください……。
時計の鍵が解除されたのを確認してからゆっくりと横にずらすと、音を立てることもなく滑らかに時計が動いた。
その後ろの壁には取っ手がついているが、白亜はそれを見向きもせず床の板を観察する。
数秒じっと見てから若干色が違うところの床を押すと再びカチリと音がしてそこから取っ手が現れた。
実は壁の取っ手はフェイクで、それを引っ張ると警報が流れる上に本来の扉は開かなくなる仕組みである。白亜の目でも初見では引っかかりそうな二重ロックに感心しつつ床の取っ手を引くと地下につながる梯子が現れた。
かなり深く、暗視ができなければ底は見えないだろう。
もちろん魔眼で全部解決する白亜にはなんの問題もない。
さほど苦労もせずスルスルと梯子を降りていく。
「結構深いな……」
『王族の逃げ道ですからね。魔法的にも物理的にも地下は良い隠れ場です』
魔法使いというのは言葉によって事象を書き換えることを得意とする。ただ、それにはいくつかの制限があり、基本的に見えない場所に魔法を打つことはかなり難しい。
白亜でも見えない場所に魔法を打ち込むのは苦手だ。
目を瞑っている状態なら周りの音や空気の動きで、地形、相手の場所、物の位置を把握できるのでそこそこ正確には打てるのだが、それでもやはり目で見た方が確実だ。
特に失敗すれば体が真っ二つになりかねない転移などは、今どれだけ危険な状態であろうと向こう側を見てからでないと飛べない。
そのため、地下に逃げられると魔法使いからすればかなりやりにくい。
地面を掘り進むというのもかなりの労力を必要とするので、単純に力技で突破、というのも難しい。
地下というのは、逃げるルートの確保という面では最も優れているのだ。
「お、ついた」
なんの障害もなく地下室に到着した。
周辺には感じたことのない魔力が充満している。
やはりここで間違いない。
人の気配は感じられないが、念には念を入れておく。
白亜は幻覚魔法を使い、自分自身を認識できないよう操作した。これでもし誰かと遭遇しても、相手は白亜には気づけない。効果時間は10分程度とそれほど長くはないが、この魔力の正体を確認するだけならそれくらいの時間で十分事足りる。
そっと扉を開けると、中はほんのり明るい。
壁にはそれほど強い光ではないものの、生活ができる程度の明かりを灯す魔力で動くライトがついている。
これくらいの光量なら空気中の魔力を取り込めば半永久的に光ることができるので、魔力の充填が不必要になる。薄暗いのは魔力を節約しているからだろう。
「これは……魔力認証型の……棚?」
『魔力はここから出ていますね。設置の時に使ったのでしょう』
魔力認証型の鍵は、魔力の波長を鍵として使う最新式の鍵である。
魔力の波長は人によって違うので、それを機械に覚えさせてその人しか開けられないようにセッティングするのだ。その機械の設置はかなりのお金がかかる上、設置の後に調節も必要になる。その調節に魔力を使うのだ。
その時の魔力がまだ残留していて、白亜がそれを敏感に感じ取ったのだろう。
『誰が設置したんでしょうか?』
「さぁ……?」
部屋全体を見て回ったが、この部屋全部にある棚が魔力認証型のものだった。
これだけたくさん設置すれば、あれだけ魔力も残るはずである。
白亜の魔眼で物の情報を見たり遠くを見たりすることはできるが、過去を見ることはできない。
誰が設置したのかもわからないのでは、見ていいのかもわからず迷う。
これをこの城の人間が設置したのならいいのだが、もし外部から侵入してきている何者かが設置しているのなら。
この部屋は城のあらゆる場所とつながっている。ここから毒ガスでも流されたらひとたまりもない。
この部屋に入ることは難しいが何か抜け道でもあるのなら、意外と簡単に入り込めてしまうのかもしれない。
「一個だけ、開けてみるか」
『えっ』
シアンが焦る。
もしこれが白亜がみてはいけないものであったなら見つかれば責任問題になりかねない。
全力で隠蔽すれば多分バレないだろうが、そういう問題でもないのだ。
『ま、待ってください! もし、もしも我々が覗いてはならないものが出てきたらどうされるおつもりですか!』
「……見なかったことにする?」
『そういう問題ではありません! 見てしまったという事実が問題なのです!』
「みちゃいけないものって何」
『……国王様の、不倫の証拠、とか……』
確かに見てはいけないものである。
「………あの人不倫してないよ」
『そんなことは重々承知しております! そういうものも見つかるかもしれませんという例えです』
そう言われると、白亜も開けるのをためらう。
確かに、そういうものが出てきてしまったら対処に困る。
黙っておくにしても、気になって仕方がなくなってしまうだろう。
「……わかった。開けるのやめる」
『そうですか。では……! 扉です』
「わかってる。……まだ気付かれてない」
息を殺して即座に机の隙間に潜り込む。誰かがここに来る。
時計の下の隠し扉を何者かが開けた音がした。
ただ、地下への道は音が反響するので足音や呼吸音で誰が来ているのか判別ができない。
そのままじっとしていると、地下室の扉が開いた。




