「俺とどっちが良いですか」
「発想も行動に移すタイミングもいい。良い弟子を持ってるね白亜君」
エレニカはジュードを絶賛している。
どうやらかなり気に入ったらしい。
「俺とどっちが良いですか」
「え? うーん……君意地悪な質問するなぁ。正直にいうと、戦い方に関してはジュード君の方が俺好みだね。型の破り方が上手い。相手の裏をかくというのは、弱者が強者に敵う唯一の方法だ。俺が目指してる流派の在り方としてはこれ以上ないと思える」
本当に絶賛である。
どうやらジュードの戦い方はエレニカの理想形らしい。
「白亜君はそもそも根底から性質が違うから。君は力に関しては恵まれている。いくら鍛えても魔力がない人だっていることを考えたら、それは君でもわかるよね?」
エレニカが白亜に教えているわざは『どんなものでも武器にする』方法だ。
蝋石を完璧に切って見せたその力量からわかるように、ペン一本ですらそこらのナイフを凌駕することができる。
それは、弱者が強者に立ち向かうわざなのだ。
強者ならば、もっと切れ味のいい剣を調達すれば良い。
弱者はそれができないから、武器として普段は考えることも出来ないほど貧弱な道具を武器として使うのだ。
だが白亜はどうだろうか。
岩を切断するだけなら手刀で事足りると素で答える超人である。
正直、大抵のことなら武器や道具なんていらないのだから常人からすればその時点で強者である。
「勿論、君は強い。それに関しては世界を渡り歩いてきた俺が保証する。だけどそれが弊害なんだ。強すぎるが故に裏をかくのが苦手だ」
確かに白亜は予想外の動きが苦手だ。するのもされるのも。
そんなことする必要もなく勝ててしまうため、そもそも相手の裏をかくという行為に慣れていない。
「じゃあ、ジュードを弟子にしたいと思いますか」
「いや、それはあんまり」
『なんで?』
白亜の質問に即答したエレニカ。
今まで絶賛してたのに、なぜそこを断るのだろうか。
「いや、だから言ったよ。彼の戦い方は俺の理想形だって。俺が歪めるわけにはいかないからね。なにか教えれば彼はどういう形であれ吸収してしまう。進歩は変化だ。悪い方へ進まないという確証もない」
つまり、ジュードの戦い方はエレニカの中では完成形に近いのだ。
それを少しでもおかしな方向へ進ませたくない、と。
「ジュード君の戦い方は非常に良い。少なくとも俺の中ではかなりの高評価だ。それ故に、正直俺が教えられることはないんだよ。白亜君は俺と戦い方違うから多分覚えておいて損はないと思うけど」
そこまで聞いて、ジュードが首をひねる。
「ですが、僕は師匠に習っています。戦い方も師匠にかかなり近くなっていると思いますが。……全然勝てませんけど」
「うん。それはなんとなくわかった」
エレニカが小さく笑う。
なんでも、白亜とジュードは走り方がそっくりらしい。動作があまりにも似ているので試合の途中で何度か笑ったそうだ。
「本当、白亜君を撮った動画を見返してる気分だったよ」
そこまで似ているのだろうか、とジュードの方をちらと確認したらジュードも同じタイミングで白亜に目を向けていた。
『どうやらちゃんとそっくりですね』
脳内でシアンが苦笑した。
「ま、俺が言ってるのは動きじゃなくて考え方さ。いわゆるセンスってやつだよ。これに関しては中々磨くのが難しいんだ。次どう動いて、その次どうするか。それを直感的に理解しながら最適解へと導かなきゃならない。君は理論型みたいだから難しいかもしれないね」
あまりにも頭で考えすぎるのはいけないのだと、大雑把にそう言う。
だが、中々難しいことだ。これに関しては考え方や性格もある。
直すのもかなり厳しいだろう。
「だから君は俺の流派を学ぶことに意味があるのさ。俺は君を矯正したいんじゃない。こんな方法もあるよって看板立ててるだけなんだ。師匠ってそんなもんだろ?」
教わったことに従うか、無視するか。
その判断は弟子に委ねられる。
それは白亜自身よくわかっていた。
ずっとずっと昔から。




