「狙ったか!」
「えっと、なんで俺となのか聞いても良いかな?」
急な対戦の申し込みに若干戸惑いつつ、エレニカはジュードに訊ねる。
「最近、悩んでいるんです。僕はこの街を守れるほど強いのだろうかと」
その言葉に白亜が首をかしげる。
「俺がいない時ジュードが守ってたんだから十分だろ」
「はい。でもそれは師匠がいなかったからです。これから先、師匠をめぐって戦争が起きるかもしれません。そうなった時、本当に僕たちは守りきれるのか……不安なんです」
エレニカは白亜に向かって軽く笑いかける。
「弟子に守られる師匠かぁ」
「別に好きで狙われてるわけじゃないです」
「わかってるって」
キシシ、と特徴的な笑い方をしながらジュードの肩に手を置いた。
「ジュード君、で良いかな? 理由はよくわかった。俺でよければお相手しよう」
「ありがとうございます!」
それから全員で訓練場へ移動する。
ジュードは自分の部屋に行って武器とチコを回収してきた。
エレニカはどこからかレイピアを取り出して腰に挿した。
「それ、マジックボックスですか?」
「いや、これは能力だね。魔法じゃなくて、元から備わってる方の」
「便利ですね」
「うん。自分で言うのもなんだけど俺って超便利よ」
背中の大剣をベルトごと外して訓練場の隅に置きに行った。
チコはそれを見てエレニカの周りを飛び回る。
「あれ使わないの?」
「ああ、あれは重すぎるからね。打ち合えばジュード君の骨がバキバキになっちゃうんだ。今回はあくまでも手合わせだしね」
エレニカが訓練場の中心まで戻ってくるとジュードは両手剣を抜き、スッと構える。
その構えを見てエレニカが頷く。
「良い構えだ。王宮剣術だね」
「はい。ルールは先ほどお話しした通りで」
「そうか。いつでもどうぞ」
ルールは剣術、体術と精霊魔法のみの使用、魔法以外の飛び道具は基本なし。但しその辺に落ちている小石や砂などは目くらましとして使用可能。相手が降参するか気絶するかで勝敗を決める。
剣術はまだしも精霊魔法はエレニカの世界ではあまり一般的ではないので、実質魔法はほとんど封じられているも同然だ。
エレニカの世界では精霊の力を借りて行使する魔法がそもそも存在しないのだ。
精霊は一つの種族である。つまり人間や魔族と同列扱いな上にプライドが高い者が多いので、根本的に手を貸したりしないのだ。
この世界で精霊は性質は全く異なるものの、人と魔物どちらが近いかといえば魔物に近い存在だ。
キキョウがそうであるように、環境から生まれる……発生することもある。
だからなのか、自然と深い繋がりを持っており、その力の一部を行使することができる。
精霊魔法は精霊に対価を支払う代わりに、その自然との繋がりを少し借りるものなのだ。
「やっ!」
ジュードが袈裟斬りに剣を振るい、間髪入れずにチコが魔法で雹をいくつも作って投げる。
エレニカはジュードの剣を後ろに下がりつつ避け、チコの雹をレイピアで破壊する。
カカカッ、と小気味良い音を立てながら雹が砕かれた。
「早すぎだよ!」
チコがエレニカの早業に文句を言いつつ次々と雹を撃ち出す。
「良い連携だ。一人に集中させないのは多人数戦闘での大きなアドバンテージだからね」
「それはどうも!」
チコの雹の弾幕の隙間からジュードが剣で攻撃を仕掛ける。
エレニカは雹を壊すたび、破片で視界が悪くなる。その隙間から出てきた剣を避け続けるのはかなり大変だ。
チコは絶え間なく雹を射出し、エレニカはそれを壊す度に視界が悪くなり足音も氷の砕ける音で消える。
それを見てエレニカが笑った。
「キシシ! いいね! 悪くないよ!」
雹を砕けば砕くほど視覚と聴覚を鈍らせるこの戦法は持久戦になればなるほどエレニカが不利になる。
もちろん初手で雹から抜け出してしまえば回避はそう難しくはないが、罠として使うのならかなり効果的だ。
エレニカは素直にジュードとチコを賞賛した。
そして油断なく周囲を見て、
「ただ、これだと剣がどこから出てくるのか、ちょっとはわかっちゃうからそこは要改善かな」
「アドバイス、ありがとうございますっ!」
そろそろ終わりにするかと呟いたエレニカ、は雹の隙間から出てきた剣をつまんで止めた。
やけに軽く止められたと思い手元を見ると、剣の柄にくっついていたのはチコだった。
「お?」
「残念でしたっ!」
雹の雨が晴れると、ジュードが至近距離から拳を振り上げてきていた。
「狙ったか!」
「はぁっ!」
まっすぐなジュードの拳をエレニカは軽くかがんで避け、そのまま腕を掴んでから背負い投げで地面に叩きつけた。
「ぐっ」
ジュードの腕からベキッというちょっと変な音がした。
「あ、やりすぎた」
エレニカはすぐに回復魔法をかけた。
回復魔法をかけられ地面に寝転がりながら、ジュードは長い溜息をついた。
「降参です。……やっぱり強いなぁ」
ジュードのその言葉にエレニカは苦笑する。
「これでも長生きしてるからね。でも君もかなりいいよ。入れ替わってるとは思わなかったから」
ジュードはチコの雹で身を隠しつつ何度か攻撃を仕掛け、チコと入れ替わっていた。
途中からはジュードが雹の魔法を撃ち、チコが斬りかかっていたのだ。
あまりにも体格差があるのでチコはうまく剣を振るえないが、雹の隙間から振り下ろすくらいはできる。
その状態で剣を止められるのを待ち、掴まれた瞬間に身体強化した拳で殴りかかるという手に出たのだ。
「面白かったよ」
白亜がジュードに水の入ったボトルを投げ渡しながら軽く笑った。




