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「えっ、これ受けるんですか?」

 ルギリア、ヴォルカ、白亜の三人は現在ギルドに顔を出していた。


 個人依頼としてドラゴン調査を受けるためである。


 基本的にパーティ単位でしか依頼を受けない白亜だが、今回参加するのは所属パーティ『光の翼』では白亜一人だ。


 ジュードやリン達とは関係ない形で受けるのでパーティを通さない、個人依頼を選択した。


 個人依頼と言っても、意気投合した相手と一時的に仮パーティをつくるというのはよくある話なのでそれを利用する。


 全員が個人依頼として受け、一緒に向かう形をとるのだ。


 ちなみに、それなら書類申請までしてパーティを組む必要がないと思われがちだが、申請されたパーティ単位で依頼を受けると追加である程度報酬が出るのだ。


 あまり大きな額ではないのだが、打ち上げ代くらいにはなる。


 これはギルドが出す報酬だ。無意味な出費と導入した頃は散々言われたらしいが今ではそんな反対意見は殆ど出ない。


 むしろもっとパーティ手当てを増やすべきではとすら言われている。


 その理由が、初心者の死亡率の低下だ。


 初心者、つまり成りたての冒険者は力量を見誤り単独で依頼を受けて死亡してしまうことが少なくない。


 それが、ほんの少しでも達成報酬を増やそうとパーティを組むと一気に危険度が減るのだ。一人で進むより数人で纏まって行動した方が何かあったとき危険に気が付きやすい。一人だと見落とすことも数人いればカバーできる。


 パーティの相性がよければそのままずっと活動していくだろうし、悪くてもある程度戦えるまでは成長できる。


 結果的に冒険者の育成にかなり貢献している制度なのだ。


 話が大分逸れたが、すでにパーティに入っている白亜はまた新しく作ることはできないし、それ以前にパーティ手当てを死に物狂いで欲するほど金に困っているわけでもない。


 そのため今回は仮パーティで向かうということにした。


「えっ、これ受けるんですか?」

「なにか問題でも?」

「い、いえ。頑張ってください……」


 受付で何故か存分にビビられながら依頼を受けた。


 ここはハクアの街にあるギルド支部である。白亜が帰ってきたことを知らぬ者も居るにはいるが白亜はよくここを使うのでギルド関係者には白亜の存在は筒抜けだ。


 別に隠しているつもりもないのだが、大っぴらにしているわけでもない。


 そんな色々な意味で有名な白亜が柔らかな笑みで丁寧に対応に応じでもすれば伝わるところには一気に伝わる。


 人格変わってるときはちょっと恥ずかしい白亜なので、ギルド内では元の白亜の記憶が全面に出ている。


 簡単に言えば、いつも通り目が死んでいる。


 ルギリアとヴォルカが依頼を受けたのを確認してから転移で向かった。


 ギュール火山は比較的大きな火山だ。数十年前に一度噴火してから、溶岩が山頂にいけば見られるほど中が剥出しになってしまった火山である。


 溶岩が見えるほど近くにあるということは当然暑い。


「ここだな……確かに暑い……火口が近すぎるんじゃないのかこれ……座標失敗したか?」

「シュリア。ハクアになってる」


 口調をシュリアにするのを忘れていた。軽く咳払いをしてからシュリアに意識を戻す。


「それで? ドラゴンはどこにいるのかしら?」

「確か依頼によると火口付近になっとったで。どれくらいの距離あるんかは知らんけど」

「もっと近くか……」


 ルギリアのため息に、二人も軽く苦笑いする。


 ドラゴン調査に来たはずが、これではサウナに入りにきたみたいだ。


 蒸されながらも山を登る。


「それにしても、やっぱり草木一本生えとらんな」

「もっと下の方に行けばちょっとは草があるみたいだけど、こんな気温では大抵の生物は生きていけないわね」


 苔すら見つからない岩肌を登るのは結構な重労働だ。


 転移で飛ぼうにも、もし失敗したら本気で危ないので緊急時以外には使いたくない。


 木や草の生い茂る山であればそれらを掴んだりしながら登れるのだが、残念ながら岩しかない。


 かなりの断崖絶壁をロッククライミングである。


 それくらいならまだしも、山頂から漂ってくる熱風で岩がかなり熱いのだ。


 熱いから可能な限り掴みたくないというのが本音だ。


「それにしても、こんなところにドラゴンなんているのか?」

「ドラゴンって種族にもよるけど環境変化に強い魔物だから、溶岩のなかでさえ生きられるドラゴンも居るかもしれないわね」


 普通なら数日とたたずに死んでしまう環境にすら、ドラゴンは平然と耐える。


 鱗が特殊だとか、魔法で自分の周囲にのみ常に最適な環境を展開しているとか。色々と説はあるがハッキリとはその理由は知られていない。


 そのうち誰かがポロッと発見するのかもしれない。


「あっちね」

「なんや酷く急勾配やなぁ。もうちょっと登りやすくしてくれてもええんちゃうか?」

「なにいってるんだよ。さっさと行くぞ」


 この中では一番体力がないヴォルカが、疲れたからか文句を言い始めた。


 言うまでもなく、無尽蔵な体力を持っているのは白亜である。


「……静かに。なにか居る」


 白亜が声をかけると、二人が耳を澄ませた。どこからか生き物の息遣いが聞こえる。


「ドラゴンか?」

「多分ね」

「バレん程度の距離に近付くで」


 白亜とルギリアが頷くのを確認してからヴォルカが静かに歩き始めた。

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