「ちょっとは反省してよね」
珍しくルギリアが出てきます。
雨続きだったが、久々に晴天だった日のこと。
「なぁ、ギュール火山って知ってるか?」
ハーブの収穫をしていた白亜を手伝いつつ、ルギリアがそう訊く。
ルギリアとヴォルカは基本的に昔日本組が使っていた屋敷、つまり王都に住んでいるがたまにハクアの街にもやってくる。
理由は単純に白亜……というかシュリアの様子を見に来ている。
引っ越してこないのには幾つか理由があるのだが、その一つに白亜自身が混乱してしまうことにある。
ルギリア達と居るときとジュード達と居る時とでは人格が大きく変化したと錯覚するほど態度が変わる。
白亜はシュリアだったときの記憶は普段表に出してこない。知識を引っ張り出してくることはあるのだが、考え方はまるっきり理論型のそれだ。天才肌で感覚派のシュリアとは思考の仕方が根本から異なる。
そのため、両方の人格を混ぜようとすると酷く困惑する。
本来同じ人であるはずなのに生活環境で考え方も性格も大きく違いが出てしまった。
いつまで経ってもシュリアと白亜は混ざりきれず、どちらかの人格が表に出てきているときは、どちらかは沈黙する。
ルギリア達と居ると、会話のなかでさえ昔の記憶を引っ張り出してくる必要があったりして自分が今誰なのかわからなくなるほど混乱することが多々あった。
そうなってしまうと仕事にならないので普段は離れて暮らしている。
今日は双方休みで、ルギリアとヴォルカが遊びに来ているのだ。
ジュードやリン達は若干嫉妬しつつも二人きりにしてくれている。彼らは本当に白亜とは違って空気が読める。
「ギュール火山? ……ああ、北方の鉱山地帯の。知ってはいるけれど行ったことは無いかしら」
シュリアの意識を前に持ってきているので、白亜を知っていてこの状況を知らない者がこの会話を聞けば口を開けて驚くだろう。
普段なら絶対しない仕種、言葉遣いを自然に行っている。
「あそこ、ドラゴンが居るんだと」
「え? 冗談ではなくて?」
「どうやら本当らしい。ギルドの依頼書に載ってた」
ルギリアは白亜に依頼内容の話をする。
ざっと纏めると、10ランク以上のメンバーにかなり大規模な募集をかけてドラゴンの調査に赴くというものだった。
「ランクが10以上……討伐隊の役割を兼ねるつもりなのかしら?」
「どうだろうか。この世界の人でドラゴンを倒すのはかなり大変だろうし」
ルギリアはまだ神格化していなかったとはいえ、魔王であるレイゴットや神であるジャラルよりも強かったハクアとほぼ互角に立ち回れた逸材である。
流石に今では白亜が圧勝できるだろうが、まず間違いなく人類最強であろう。
それだけの戦力が、小規模とはいえ傭兵団を作り世間や国家を渡り歩いていた時期に比べれば確かに今のこの世界の人々は弱すぎる部類にはいるだろう。
ルギリアクラスは殆ど居なかったが、ジュードやリンほどの腕前の魔法つかい、剣士なら国に一人か二人は必ずいた。
それだけ戦争が激化していた時代であるし、魔法もかなり栄えていた。
その歴史をシュリアが断ち切ったのであるが。
「この世界にも貴方ほどじゃないけれど、天才は居るわよ。ドラゴンを単騎で倒せるくらいのね」
「へぇ、会ってみたいな。手合わせ願いたい」
「いつも戦うことしか考えてないのはやめて欲しいわ」
苦笑しながら愚痴に近い説教を漏らす白亜に、ルギリアが肩を竦めた。
「癖なんだよ。許してくれ」
どうやら直す気もないらしい。
その返答に白亜は呆れた表情を作るが、どこか楽しげだ。
「ちょっとは反省してよね」
「申し訳ない」
「本心から思ってないこと言わないの。もう、しょうがないんだから」
最後に付け足された言葉は昔の口癖だった。
ルギリアに振り回されながらも、しょうがないと笑いながら着いていった。
急に酷く懐かしく感じた。
傭兵団に所属していたときのこと。曾ての仲間のこと。他愛のない会話の内容。色んな国の色んな景色。
もう多くを忘れてしまっている。
それがなんだか寂しい。白亜はそう思っている。
忘れたくないことを忘れてしまうのは何故なのだろう。何度も考える他愛もないことだ。
魔法を新しくつくって思い出を永久に保存したりできる方法を編み出せないわけでもないのだが、それはしたくなかった。
「ずるは嫌だから」
「え? なんか言ったか?」
「ううん。なんにもないの」
独り言が中途半端にルギリアに聞こえていたらしい。彼は五感も鋭いのでちょっとした独り言が丸聞こえだったりするから結構恥ずかしい思いをしたことがある。
「あ、でドラゴンなんだけど」
「うん」
「三人で狩りにいこうぜ」
「………今から?」
「おう」
やっぱりこの人って変な人なんだろうな、と白亜が思うくらいにはルギリアは変人だった。




