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「それで私に訊ねるのも人選ミスでは?」

 結構長い間続いた説教は、一旦は中止された。


 白亜のいる前であることが大きかったらしい。


「君凄いよね白亜君。僕よりずっと神力強いよ」


 天照大神が白亜の披露した神力の多さを見て感嘆の息を漏らす。


 何でも、白亜のことはずっと気にしていたのだとか。


「有名人だからね」


 と少し悲しそうな目をしながら言った。


「本当は、助けてあげられれば良かったんだけど。僕たちの管理不足のせいで」


 他世界からの干渉を止められなかったことを悔やんでいるらしい。確かに、他世界から亜人戦闘機が現れなければ白亜はあんな命を捨てるような暴挙にも出なかった。


 あれがなければ、今ここに白亜は居ないだろう。


 きっと揮卿台 白亜として何事もなく人生を終えていた。


 強くなることもなかった。悲しむことも恐らくなかった。


 あの悲劇が始まったのは、確かに管理者の力不足もあるのかもしれない。


「いいえ」


 だが、白亜はきっぱりと首を振った。


「うまく言えないんですけど……俺は、今、あの時無くした分の幸せを周りからたくさん貰えてます。……痛みも悲しみも消えることはないけれど、それを知った上で背中を押してくれる仲間がいます」


 白亜はハクアとして生き、それ以前にもシュリアとして。そして、リシャットとして生きた。


 生きることの苦しさも、暖かさも知っている。


 それを守ってくれる仲間の存在も。


「だから、あなたのしたことは間違ってないです。今こうして悲しんでくれただけで、十分です」

「……」


 天照大神が一瞬驚きからか小さく目を見開き、嬉しそうに笑った。


「ありがとう」








「それではまた」

「次来るときはインターホンくらい鳴らしてくれよ。天使が大騒ぎするから」

「はい」


 白亜はエレニカ達と別れ、日本へと戻った。


 部屋に転移した直後、欄丸が皿を割った音が響く。


「今日何枚目かな……」


 食堂へ行くと、案の定皿を割って掃除機をかけている欄丸と遭遇した。


「おお、お帰り」

「ただいま。何枚目だ」

「二枚目だ……」

「……」


 毎日一枚は割る欄丸だ。一体なぜそんなにも落とすのだろうか。


 狼だからか? と考えないこともなかったが、別にそういうわけでも無さそうなので、もうこれは欄丸の個性の一部として諦めている。


「直すからちょっと離れてろ」


 欄丸を下がらせて魔法で修復すると、恐らく今日か数日前に割ったのであろう皿を何枚も持ってきた。


 結局八枚の皿を修復した。


 日常茶飯事なので美織すら皿を割ることに関しては何も言わない。言わなくなった。


 最初の頃はかなり文句を言っていたのだが、あまりにも連続して割るものだからもう何を言っても仕方がないと気づいたのだろう。


「もう少し気を付ける努力をしろ」

「すまん」


 とはいえなぜか全然どうにもならないのだ。


 買い物がちゃんと出来ないのと、なにか関係があるのだろうか?


「お、帰ってきてたのかい」

「旦那様」


 会社が休みなのか、家に居た大地が白亜に気付いて声をかけてきた。白亜は大抵自分の部屋に転移するのであまり玄関を使わないのである。


「ちょっと頼みがあるんだけど」

「なんでしょう?」


 大地が自分の部屋に白亜を案内した。


 なんだかあまり愉快そうな雰囲気ではないので、なにか深刻な事態でも起こったのかと緊張感が走る。


 大地が自分の部屋に白亜を入れること自体が結構珍しいのだ。


 勿論掃除のためでならよく出入りしているが、こういう話し合いの場でこの部屋を使うことは珍しい。


 大抵の用事はその場で済ませるからだ。わざわざ場所を変えて話をすることがあまりない。


「リシャット君」

「はい」

「結婚祝いってどんなものを送ればいいのか教えてくれ」

「………はい?」


 結婚祝い?


 部屋変えてまで話すのがそれか、と一瞬混乱した白亜。


「もっとそういうのに詳しい方は他にもたくさんいらっしゃるのでは?」

「そうなんだろうけど」


 白亜はよくも悪くも天然記念物だ。


 そこそこ自分本意で動くので回りのことなど目にいれず、流行を逃しがちである。


 それもあって学校に馴染めなかったりするのだが。


 寧ろ美織の方が流行りの贈り物などには詳しいのではないのだろうか?


「中々思い当たる人がいなくてね……」

「それで私に訊ねるのも人選ミスでは?」


 自分で自分を貶す白亜。まわりの話題に疎いのは自覚しているが故の容赦ない言葉である。


 これ言ってて悲しくならないのだから、やはり白亜は大物である。


「……何方かご結婚されるので?」

「ああ。阪口君が」

「阪口様? あの阪口様ですか」

「そう。あの阪口君」


 なんだか貶しているみたいに聞こえるが、阪口とは大地の秘書みたいな役割にあたる人で、とてつもなく無口だ。


 白亜も何度か顔を会わせているが、いまだに声を聞いたことがない。


 細身で気弱そうな男性だが、仕事中はテキパキ動く。有能なのは間違いないが、何せ喋らないので色々謎に包まれた人物だ。


「こう言っては不躾かもしれませんが……意外ですね」

「意外だろう?」


 本当に不躾である。

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