「白亜だった時から?」
神力のみの御披露目しかしていないので持ってきた鉢植えを使って属性魔法の披露もした。
さすがに二回目ということで自重したのか、白亜もそれほど派手なことはしなかった。
人付き合いが得意とは言えない白亜である。囲まれるのは避けたかったのだろう。
それでも、最強と名高いエレニカに弟子入りしたという噂はあっという間に広まっていたが。
「なんか……疲れた」
「君の場合半分自業自得だよ……」
白亜の言葉に、ジャラルが軽く突っ込んだ。
とりあえずこれでいいだろうということになったので、一旦日本に帰る。
「それじゃあ、また連絡するね」
「はい……」
大国主大神を見送ってから、倒れるように自分の部屋のベッドに寝転んだ。
『お疲れ様です。途中何度もヒヤヒヤしましたが、なんとか終わりましたね』
「ああ、そうだな………」
コミュニケーション能力を磨くことが課題だとシアンが一言告げる。
今までは貴族の対応は王族のジュードに任せきりなので、あまりその辺の対応は勉強してこなかった。
最低限のマナーでなんとか乗りきれていたのだ。
白亜は強いが、戦争で武勲をたてたわけでもないので継承権のない当代貴族ですらない。
それを理解している人しか白亜を集まりに呼ばないので『そこそこ礼儀正しい冒険者』でなんとかやっていけるのだ。
だが、あの場所は違う。
トップに気に入られているとはいえ、他はそうとも限らない。集まってきた神々は好意的な目を向けてくれたが、種族格差を強調する神だっているのだ。
成ったばかりで最も神格の低い白亜は最初こそ興味で寄ってくる人は居れど、そのうち身分の低さで文句を言われるかもしれない。
チカオラート達に聞いたところによると、話しかけるだけで不敬だと消される例もあったらしい。
その点に関しては、セグルズとエレニカというかなり格の高い最古参メンバーが後ろ楯になってくれてはいるから安心できるのかもしれない。
セグルズとはあまり話せていないのでよくわからないが、エレニカだったら白亜が迫害を受けたと知ったら「俺の弟子になにしてんの?」と笑顔で怒鳴り込みに行く気がする。
どうやらそこそこ短時間でエレニカの人物像が割りとハッキリと掴めるほどには、白亜も人を見るようになってきたらしい。
「コミュニケーション、か」
どうしても、昔から苦手なのである。
シュリアだった頃は狙われていた為に傭兵団の仲間内でしかあまり会話はできなかったし、白亜の時は人間不信でそれどころではなかった。
ハクア、リシャットの時は特にこれといった人を嫌いになることはなかったものの、前世の記憶のせいで結局人と関わるのをやめていた。
直したい、なんとかしたいとは思うものの。どうしたらいいのかもわからないし、根本的に人を疑ってしまう性格なので結構難しい。
特に初対面の相手は無意識に警戒してしまう。もう癖なのでどうしようもないと言えばどうしようもないのだが。
「リシャット!」
「っ、お嬢様⁉」
急に扉を開けて入ってきたのは、美織とミュルだった。
相変わらずミュルの気配は神になっても全く気づけないのでミュルだけは神出鬼没なのである。ミュルが近くにいるとその回りも気付けなくなるので、白亜から逃げ切りたいのならミュルをつれていかなければならない。
「昨日のあれ見せなさい」
「嫌ですって」
「なんでよ。リシャットって本当、変なところ拘る」
不意打ちで部屋を狙ったらあのチョコレートの花束を撮影できると思ったのか、既にカメラはスタンバイ済みである。
勿論懐中時計にしまってあるのでこの場にはない。
「ああいうのは、あまり好きではないんです」
「白亜だった時から?」
「………」
過去を全て知っている美織だ。まだ世間では子供と呼ばれる年齢の彼女は、同世代の子供よりずっと賢い。
白亜だったときの親を亡くした痛み、誰も信じられなくなった苦しみを完璧にはわからずとも、ちゃんと理解している。
だからこの発言も、ただ気になったからそう聞いてきているわけではないのだろう。
「そう、ですね。そうかもしれません」
対して白亜は、ちゃんとした答えを用意できなかった。
話す言葉はあったはずなのに、出てこなかったのである。
どうしてテレビやイベント事に参加するのを嫌がるのか。ちゃんと理由はあったはずなのに、もう今ではどうして自分が拒否しているのかもよくわかっていない。
美織は、それ以上喋らなくなった白亜を置いて部屋を出ていった。
ミュルは数秒その場に留まって、何度か白亜の顔を見上げてから部屋を出ていった。
ただの猫のはずなのに、確実に『なにか白亜が深刻そうな顔をしているからここから離れておこう』みたいな反応をとる辺り、やっぱり普通の猫ではないのかもしれない。
「どうして、か……」
誰もいない部屋で、目をゆっくりと閉じて呟く。
「人は自分の好きなものにしか興味を示さないんですよ、お嬢様……」
白亜は両親を喪って数年後、小学四年生の時のことを思い出していた。




