「......暖かい......」
「やっと解放された……」
自業自得である。教えなかったチカオラート達にも責任はあるのかもしれないが。
「君の場合やっぱりこうなっちゃうね」
他人事みたいにケラケラ笑うチカオラートに苛立ちを通り越して軽く殺意が湧いてくる。
殺しても死なないんだから殺していいんじゃないだろうか、という物騒な考えが白亜の頭に過るくらいには。
「それにしても凄い神力だったね。まだ成りたてだから質はともかく、量で言ったらここのトップと張り合えるかもよ」
「ここのトップ?」
そういえば、この会の主催が誰かとか聞いていないことを思い出した。
「どの人?」
「うーん……今日は居ないんじゃないのかな? あの人いる方が珍しいし」
「忙しいからね」
「というか、面倒だからってのもあると思うけど」
どうやら怠け者らしい。
それがトップで大丈夫なのか。
「じゃあなんでトップ?」
「そりゃ勿論……」
「「最強だから」」
チカオラートと大国主大神の声が重なった。
話を聞いたところによると、最古参の一人である上に異常に強いのだとか。
曰く、物好きで一時期は自ら下界を統治していた。
曰く、かなりの面倒くさがりやで会議には基本出席するが、集まりにはそこまで参加しない。
曰く、赤い髪の大剣を背負った風貌で、性格は基本的に温厚。
「……なんか、容姿の事抜けばリシャット君に似ているような」
ポツリと大国主大神が呟いた。
確かに今の話の中身の人物像は白亜に似ているかもしれない。
物好きで、面倒くさがりで、仕事はこなすが人付き合いはあまりせず、基本的に静かで大抵の事には怒ったりしない。
「何々? 誰が誰に似てるって?」
「いや、だからリシャット君が……え?」
大国主大神が声のする方に振り向くと、件の人物がいた。
「俺とそこの新入りさんが似てるの?」
「え、えっと、いや、その」
不味い、と本能的に後退りする。面倒くさがってるだとかなんとか結構言ってしまった。
白亜は白亜で目の前の人物が思っていたより凄そうだと察知して驚いている。
トップというのは伊達ではない。うっすら感じ取れる神力の迫力が半端ではないのだ。
「まぁまぁ、そんな縮こまらないでよ。俺がぐうたらだって事は自覚してるし止める気もないけど。あ、でも今日はちゃんと来たからね!」
そこまで言うと、その赤毛は勝手に白亜の手を取って握手する。
「はじめまして、新入りさん。俺は一応ここで管理職みたいなのやってるエレニカだ。よかったらエレンって呼んで」
想像よりもずっとフレンドリー……というか、馴れ馴れしい。
白亜は包まれた手の暖かさに、つい、
「……暖かい……」
と本音で呟いてしまった。
挨拶されたのに無視して「暖かい」とか、普通に失礼である。シアンがその白亜の反応に一番焦っていた。
主の自由奔放さにはほとほと困らされているシアンだが、それも個性だとむしろ肯定する立場に回る。だが今回は不味い。
神のトップとは、上司のさらに上司の上司の上司、という扱いだ。
白亜が平社員だとしたらエレニカは創始者である。
しかも現代の会社事情よりも神々の上下関係は複雑で、強固だ。下手に怒らせたら本気でどうなるかわかったものではない。
『マスター‼ 今すぐ謝って自己紹介を―――』
「あははは! 君面白いね! いや、本当に。俺の手が暖かいことがそんなに気になる?」
……トップが温厚な人で助かった。
シアンは心底ホッとする。
「少しは……」
「そっか。俺は火の鳥、フェニックスなんだよ。だから体温も高いのさ」
「鳥なのに、神様なんですか」
「鳥がなっちゃいけないって事はないでしょ? 俺の場合最初から鳥だったから違和感とか無いんだけどね」
君の世界にもヤタガラスとか、鳥の御使いはいるだろう? と付け加えるエレニカ。
エレニカは「まぁ、こうなってるんだからこれでいいんじゃない?」という考えの持ち主らしい。
楽観的というか、なんというか。
「強い、ですか?」
「そこそこ戦えるよ。君も強そうだね」
へらっとした表情でそう答えるエレニカ。
後ろでポカンとしている神に聞いてみる。
「兄さん。この人ってどれくらい強いの?」
「いや、僕より確実に強いけど……え? なんの話?」
じゃあ、本当に強いんだ。みたいな顔をする白亜。
白亜からすれば師匠でもあるジャラルは強さの指標である。ジャラルより強いならもしかしたら自分より強いかもしれない、とほんのちょっとバトルジャンキーな感覚が疼く。
この人が最強なら、一回剣を交えてみたいと思うのは白亜の考えがどこかの魔王と少し似ているからかもしれない。
「そんなに気になるなら戦ってみる? ちゃんと場所もあるし、個人的に君とは話してみたいからね」
「いいんですか?」
「いいよ」
本人があっさりオッケーした。本当に大丈夫かこの人がトップで。かなり適当である。
シアンが心労で潰れかけている事など露知らず、白亜は腰の村雨にそっと触れた。
その仕草をジュード達が見ていたならこう言っただろう。
「あ、師匠、もう止まらない……」と。
エレニカは私の別作品の主人公です。




