「こちらでいかがでしょう?」
部屋に戻ると、ニッコニコ顔のフィラシュが出迎えてくれる。
流石というべきなのか、もう完成しているらしい。
「こちらでいかがでしょう?」
フィラシュが見せてくれた服は、なんだか少し変わった形の和服だった。
和服の一種であることは間違いなのだが、なんかちょっと違う。
袴や浴衣というより、もっと着やすくなった新しいタイプの着物と言えばいいのだろうか?
肝心のデザインは黒地に鮮やかな翡翠色の刺繍で幾何学模様が描かれている。地味……ではないが、派手というわけでもない。
さっきの派手派手しい物に比べたら百倍良い。
「素材が良いので、色合いはあまり目立たないものにしてみました。刺繍の色は、目の色に合わせてみたんですが」
黒地に翡翠の組合せは白亜の左目だったらしい。
確かにこんな感じの色である。
着てと急かされるので着てみた。
「「おおー」」
「なんか恥ずかしい………」
微妙に和服っぽくないのは、フィラシュの世界の服にちょっと似せているからだそうだ。
日本の礼装、というのは若干外れてしまっているがフィラシュの世界では礼装扱いなので別にこれでいいらしい。
まぁ、白亜が望む服を用意すると多分ほとんど喪服になってしまうのでこれくらいがちょうど良いかもしれない。
「よし、それじゃあ行こうか!」
「え?」
ぐいっと手を引っ張られて声がたくさん聞こえる方にと連れていかれる。
「もうですか?」
「今紹介しないでいつ紹介するのさ。君の人見知りも直さなきゃいけないし、こういうのは思い立った時に済ませておくべきだよ」
思い立ったが吉日、という言葉があるが、この人は素で実践するタイプらしい。
というか、紹介すると思い立ったのは大国主大神であって別に白亜が自分から売り込みに行くわけではない。
心の準備などできているはずがない。
「え、ちょっ―――」
止めようとしても無駄であることくらいはわかっている白亜だが、一応声だけはかけてみた。
……結果、声をかけている途中でかける意味も無くなった。
白亜を引き連れた大国主大神が堂々と会場に乗り込んだからである。
先程の船内紹介の時には入らなかった扉の先は、あり得ないほど広かった。入り口も無駄に広いとは思っていたが、ここは桁が違う。
この部屋だけでサッカースタジアムが敷地ごとまるっと三つ四つは平気で入りそうだ。空間系の神がどれだけ頑張ったのか、目に見えてわかる広さである。
白亜でもここまで空間を広げるのはかなり難しいだろう。
できないわけではないが、シアンと共同でもかなり苦労するのは間違いない。
それだけ広いのが幸いした。神々にみっちりと退路を塞がれるのは正直勘弁したいと思っていたのだ。
未だに人見知りは抜けてくれないらしい。
「どうする、リシャット君? とりあえず挨拶して回る?」
「これ、挨拶回りだけでどれだけかかるんですか?」
「さぁ? 全員にやってたら数日はかかるから、僕は知り合いだけにしておくけど」
そもそもその知り合いがいない場合はどうしたらいいんだろうか。
知り合いだけに挨拶、という楽なショートカットができない以上どうしようもない。
少し離れたところに知り合いを見つけたからと白亜を置いて去っていってしまった大国主大神。彼もなかなか自由人である。
どうしたら良いのかとオロオロしている白亜に、少し遠目で白亜の事をみていた白髪の老人が声をかけてきた。老紳士、という言葉が似合いそうな風貌である。
「はじめましてですね? 私は、セグルズと言います。あなたは?」
「白亜といいます。はじめまして」
握手を求められたのでそっと握り返す。
下手に焦って力を込めたりすると、神とはいえ骨がおれてしまうかもしれないからだ。白亜の握力、おそるべし。
「お優しいんですね、ハクアさんは」
「え?」
「こんな老人の手を気遣って握手をしてくれるなんて」
「い、いえ」
精神年齢的には結構いっている白亜である。勿論この中では圧倒的に年下ではあるが、それでも子供といわれる時期は過ぎていると思っていいだろう。
「空間……いや、時空神、ですかね?」
「あ、はい。そうです」
「珍しい。今時そのような素質を持つものが居るとは。これだから面白いんですよ」
「そう、ですか……」
どうやら時空神というのは珍しい。
空間と時間の両方を操れる、所謂複合型は結構少ないのだとか。
元々の素質と、その人の努力でなることができるらしい。
どうやら複合型に限っては最初からそれを司っているというわけではないみたいだ。
白亜も途中から神になったので、最初から時空神みたいな扱いだが半神の時に結構頑張って魔力とか鍛えてたので偶々なれたらしい。
あの大量のリストからランダムで適当に決めたやつが複合型だったとか、やはりそういうことの運には恵まれるらしい。
拐われることに関してはその運は発揮されてくれないが。
「おっと、私は時間が来てしまった。またいつか会いましょう、ハクアさん。もし神々の間でなにかあったら、知り合いに私がいると伝えるといい」
「は、はい。わかりました。お気遣い感謝します」
リグラート式のお辞儀で答えると、老紳士はフッと笑って帰っていった。
『………どういうこと?』
『気に入られたみたいですね。バックにつくと約束してくださったみたいです』
『そうなんだ………』
結局、あの人の名前がセグルズということしかわからなかった。




