「福の神?」
私室そのものもかなり広い。
『学園の寮のお部屋、三つ分でしょうか』
かなり短い期間だったが、リンと同居したあの寮部屋三つ分の広さに相当する。
あそこは一番いい部屋だったので、学生寮の一室とはいえかなり広かったのだが。風呂すらも備えつきだったし。
「ああ、好きなところに座って。君、身長何センチ?」
「今は……確か、178」
神格化したので背もかなり伸びた。とはいえ男だった時期の方がもう少し高かったが。
「じゃあこれかな」
大国主大神が持ってきたのは、やけに鮮やかな色合いの着物だった。しかもこれ、確実に女物である。
「なんですか、これ」
「着て」
「…………」
珍しく白亜が渋い表情で葛藤している。
上司の手前着なければならないのだろうかという感覚と、こんな派手なもの着たくないという本能がせめぎあっている。
「嫌? じゃあこっちは?」
今度はさっきよりは鮮やかではないが妙にキラキラしている。着物をここまで黄金色にする必要なんてどこにあるのだろうか。
「…………」
結論どっちも嫌である。
個人的には、無地が嬉しい。
「えー? これもだめ? なにがいいのかわかんないよ」
大国主大神のセンスの問題なのか、白亜が我が儘なのか。恐らく両方だが、なんでそんな遊女みたいな着物しかないのかと問いたい。
そうこうしていると、突然部屋の戸が開いた。
「何をしているんですか?」
「おっ、良いところに! ちょっとこの子の着物を見繕ってくれないかな?」
未だ派手派手しい着物を前にして渋い顔になっている白亜を指差す。
入ってきた人は、少し離れたところからまじまじと白亜を観察してパチリと手を合わせた。
「こんなところにいいモデルが‼」
「?」
急に白亜に接近し、勝手に手をつかんで握手をし始める。
「初めまして、フィラシュと申します。大国主さんとはお友だちなんです」
「はじめまして……」
かなりの迫力に気圧されつつ、握手をし返す。
「私、服の神なんです」
「福の神?」
「そっちじゃなくて、着る方の服です。あなたの服、是非デザインさせてください!」
白亜の顔は、それこそ人形みたいに整っている。
服を作るという話になればイメージは湧きやすいのかもしれない。
ただ、表情もさほど動かないからかかなり人形っぽいので、カジュアルすぎても妙に浮いてしまう。
以前面倒だからとTシャツとジーパンで買い物に行こうとしたが周りが大反対したので諦めた。
変に顔だけ整っているせいでラフな格好だと似合わない。
完璧な服装を求めるならそれこそドレスコードみたいな礼服である。
かっちりしている洋装だとしっくりくるのだが、雑な服だと妙に変に見えてしまうのだ。
「作りがいがありそうです! 大国主さんの国のものに寄せた方がいいですよね?」
「そうだね。それでお願いするよ」
「了解です! それでは早速作りますね!」
今から作るの⁉ と軽く呆気に取られる白亜に大国主大神が話しかける。
「彼女、異世界の神なんだけど服作るの大好きだから任せておけばいいよ。僕も作ってもらってるし」
「え」
じゃああの派手派手しい着物は彼女の作ったものなのか。
そう考えて若干頬がひきつる。
結果的にものっすごいきらびやかになってしまったとしてもその場で白亜のために作ってくれたのだから文句も言えまい。
無難なものになることを願うばかりである。
「作ってる間、少しこの辺りを案内するよ」
「ここで待っていなくてもいいんですか?」
「いいのいいの。どうせ近くにいようが遠くにいようが彼女は服作ってる間は誰がいても気付かないから」
過集中になる人はもの作りが好きなのだろうか。
白亜も一回入り込むと回りの音が聞こえなくなるので同類である。
嬉々として服を作っているフィラシュを放っておいて部屋の外に出る。
長い廊下には数えきれないほどの数の個室がそろっていた。
「個室って、全部あの大きさなんですか」
「いや、僕は一応日本の代表だからあれだけ大きいけど、普通の御付きの人とかはあの部屋の3分の1くらいの大きさだよ」
それなら寮の部屋と大体同じくらいだろうか。
まぁ、十分すぎるほどに広いのは確かだが。
住もうと思えば六人くらい一緒に暮らせるくらいのスペースはある。
「ここが貴賓室。本来、初めてくる人はここに通されて面接するんだ」
「なんの面接があるんですか、これ」
「これでも結構高位の神が揃うからね。念には念を、ってね」
白亜の場合は大国主大神が直々に紹介するのでそういう面倒なことはすべて無しである。本来なら申請とか色々と大変らしい。
そのかわり白亜がなにかやらかせば大国主大神に皺寄せがいく。
紹介者というより、ただの保護者である。
「ここから先がメインホールね。後で行くけど、礼服が出来てからだね」
「そういえば集まる人数って?」
「えっと。大雑把に計算して……3000? くらい」
「………」
3000の神の前で紹介されるこっちの身にもなれ。
白亜は静かに心のなかで悪態をついた。
こうして声に出さず我慢できる白亜。とても進歩したと言えるだろう。
ジュードたちに常日頃から「目上の方に思ったことをそのまま口に出してはいけません」と言われ続けた甲斐がある。
……現在進行形でたまに注意されるから、なんとかなっているとも言い難いが。
「次、ここから先はキッチンだよ。とはいっても僕らは近付くことないと思ってもらっていいよ」
分厚い扉の向こうからがちゃがちゃと食器や調理器具のぶつかる音がする。結構忙しいみたいだ。
「ここがお風呂。男女分かれてるから君はこっちに入っちゃダメだよ」
「入りませんよ」
ぐるっと船内一周するだけでもそれなりに時間がかかった。
豪華客船みたいに、船室だけではなく劇場やプール、映画館や運動場、果ては賭場まで。様々な娯楽施設が整っていた。
修練場まであったのを見ると、やはりこういう交流の場でも剣を振るような性格の神は少なくないらしい。
「そろそろ出来上がってる頃だろうから、行ってみようか」
意外と船内ツアーが面白くて半分忘れていた。
………変に目立ちそうなものでないことを願う白亜であった。




