「確かに名案だ」
キリのいいところで切ったので短めです。
ジュードは軽くパニックに陥っていた。
今日一日で色々と起きすぎている。
ただ見学に来させたつもりだったラメルが居なくなり、探しに行ったら白亜、キキョウとのデスマッチ。なんとか二人を正気に戻せたと思ったら、ラメルの魔法が切れるかもしれないとプレッシャーをかけられ、救出成功したと思ったら船で空を飛んでいる。
度重なるストレスと魔法の使いすぎによる魔力の喪失で、ヘトヘトを通り越してテンションがおかしくなっている。
「だからあれですよ」
「どれなのだ⁉」
ジュードは余計にパニックになっている。
何故なら、この窮地を脱することが出来るであろう道具があった気がするのだがそれがなんなのか詳しく思い出せないのだ。
白亜は物作りが好きである。
物作りだけでなく、料理なんかも完璧にこなす天才的な手先の器用さを持っている。
だからなのかはわからないが、新しいものが結構好きだったりする。しかも自分で作ったりするのだ。
ダイも雑用としてよく駆り出されている。
だからなんの道具なのか特定できないのだ。
試作段階のものだったとは思うのだが、そんなもの白亜の部屋に入ればいくらでもある。
つまり「試作品のあれです!」とか言ったとしても試作品が多すぎてどの試作品なのかわからない。
しかも白亜は普段慎重なくせに道具に関しては結構思い付きで行動するタイプなので完成品より試作品の方が圧倒的に多い。
こんなの必要ある? と周りが思ってしまうこともあるが。
「ええっと……こう、バチバチッとなるやつです」
「バチバチッと? ……どれだ」
雑用として働かされているダイは試作品も一通り持っている。ただジュードはそのあたりはあまり詳しくないのでダイしか持っていないものもたくさんあるだろう。
もしジュードが持っていたらこんなに苦労せずにものを探せただろうが、ダイと白亜しか持っていないのでダイの想像力を働かせてもらうしかない。
「水使って実験してたやつです!」
「水……バチバチッとする? ……ぁあ! あれか‼」
すぐに鞄のなかを漁って目当てのものを取り出す。
「それですそれ!」
「確かに名案だ」
よし‼ と二人が顔を見合わせる。そこではじめて海面が近付いていることに気がついた。
「あぶなっ⁉」
すぐにダイが筒上の道具を下から上に振り上げると、落下の勢いはそのままに、何故か下ではなく上に船が向かう。
数秒二人は息を止めるほど緊張し、もう安全だとわかると長く息をはいた。
「よ、よかった……」
「あのままでは海面に叩きつけられて船が粉々になっていただろうな……」
この道具、白亜が急に思い付いて急に作って急に飽きたらしいもので、落下するものを上へ、上昇するものを下へと自然界の法則を真逆にする魔法だ。
ただ、真上から落下するものを真上に跳ね返せるわけではなく、落下するものの角度よりも緩やかになってしまう。
光の屈折と似たようなものである。
光が入る角度と水のなかでずれる角度が変わってくるように、魔法でどれだけ修正したくともどうしてもズレが生じるらしく。
10のスピードで落下のするものに魔法をかけても5のスピードでななめ上に昇るという微妙な結果になったのだ。
白亜はこの結果に満足いかなかったらしく、どうしても同じ威力、同じ角度で返したいと思っていたのか途中で作るのをやめてしまったのだ。
だが、今回はそれが役に立った。
落下する船を上昇させ、なおかつスピードをある程度落とすことに成功したのだ。
「師匠のもの作り癖が役に立ちましたね……」
「そうだな……」
ざぁ、と波立って海が揺れる。
今のいざこざでチコが吹き飛んでいないか心配だったが、チコもラメルも無事だった。
ついでに言えば白亜も変わらず爆睡中である。
そしてジュードが辺りを見渡して苦笑いを浮かべる。
「……で、ここどこですか?」
「……さぁな……」
見える範囲に陸がない。だだっ広い海のど真ん中に質素な小舟。その上で爆睡している数名と頭を抱える二人。
彼等が帰ることができたのは、二時間後に起きた白亜が喚んだケートスに引っ張ってもらってからだった。
ついでに言えば、ダイは「何故白亜が大怪我をして帰ってきているのか。何故お前が守ってやらなかったのか」と召喚獣達から叱責されることになる。




